春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第5号)

ページID 1007172 更新日 平成29年12月14日

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第1 審査会の結論

春日井市個人情報保護条例(平成14年春日井市条例第41号。以下「条例」という。)第17条第1号及び第5号の規定により不開示とした「名古屋地方検察庁への回答文書」(以下「本件対象文書」という。)については、これを開示すべきである。

第2 異議申立人の主張の要旨

  1. 異議申立ての趣旨
    本件異議申立ての趣旨は、条例第16条に基づく本件対象文書の開示請求に対し、平成17年11月22日付け17春病医事第558-2号により春日井市長が行った個人情報不開示決定を取り消し、当該回答文書の全部開示を求めるというものである。
  2. 異議申立ての理由
    異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書の記載及び口頭意見陳述によると、おおむね次のとおりである。
    (1) 交通事故の被害者として刑事上の責任追及、民事上の損害賠償請求等を行うことが、本件対象文書の開示を求める目的である。
    (2) 勝手に持ち出した(検察庁からの照会に対し、自己の承諾なく回答した)ために加害者を利した。
    (3) 市民病院からは、私には今も何の説明もない。市民病院には不開示の理由も権利もない。地方検察庁の説明でも不開示の理由はない。
    (4) 理由なき理由を付けて、遅延することはその責任を負わなければならない。仮に、警察の指示、犯罪捜査と申せ、それは刑事訴訟法の外のことである。
    (5) 弁護士からの連絡文書には、名古屋地方検察庁の照会に対する回答の内容がほぼ記されているそうだが、自分の情報を見る権利があるのは当たり前であり、原本を確認する権利も当然あるはずである。

第3 諮問実施機関の説明の要旨

諮問実施機関の説明を総合すると、本件対象文書を不開示とした理由は、おおむね次のとおりである。

  1. 本件対象文書について
    本件対象文書は、平成○年に名古屋地方検察庁が、具体的な刑事事件の捜査のために刑事訴訟法第197条第2項に基づいて照会をし、これに対して当院が回答したものである。よって、被疑事件に関して作成され、取得された書類であることは明らかであり、刑事訴訟法第53条の2第2項に規定する「訴訟に関する書類」に該当するものである。
  2. 条例第17条第1号該当性について
    刑事訴訟法に基づく「訴訟に関する書類」については、一般的な行政文書と異なり、独自の完結した体系的な開示の制度の下にあること等から、同法第53条の2第2項の規定により、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号。以下「行政機関個人情報保護法」という。)の適用除外とされている。
    本件対象文書は、上述のとおり「訴訟に関する書類」に該当し、原則として個人情報保護法制の適用除外として取り扱われるべきものである。
    本市の条例においては、訴訟に関する書類を適用除外とする条項は存在しないが、広く個人情報保護法制として捉えた場合には判断を異にする特段の事情は見当たらず、これに準じて判断すべきであるといえる。また、開示した場合には刑事訴訟法の趣旨を没却する結果を招くことも懸念されるところである。
    したがって、本件対象文書は、「法令等により本人に開示することができない情報」(条例第17条第1号)に該当するものである。
  3. 条例第17条第5号該当性について
    「訴訟に関する書類」を情報公開法の適用除外としている趣旨は、(a)訴訟に関する書類については、刑事司法手続の一環である捜査・公判の過程において作成・取得されたものであり、捜査・公判に関する国の活動の適正確保は、司法機関である裁判所により図られるべきであること、(b)これらの書類は、刑事訴訟法(40条、47条、53条、299条等)及び刑事確定訴訟記録法により、その取り扱い、開示・不開示の要件、開示手続等が自己完結的に定められていること、(c)これらの書類は、類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、開示により犯罪捜査、公訴の維持その他公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがおおきいことによるものである。
    行政機関個人情報保護法における開示請求権制度との関係についても、情報公開法における場合と同様の趣旨から、適用除外の措置が講じられているところである。
    本市の条例においても、「開示することにより犯罪の予防又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報」(条例第17条第5号)を不開示情報として定めており、本件対象文書は「訴訟に関する書類」として、その性質上、同号に該当すると言わざるを得ないものである。

第4 調査審議の経過

審査会は、本件異議申立てについて、以下のとおり調査審議を行った。

  1. 平成17年11月22日 開示決定等の通知をした日
  2. 同年11月28日 異議申立てのあった日
  3. 同年12月7日 諮問のあった日
  4. 同年12月26日 諮問実施機関から意見書を収受
  5. 平成18年1月16日 諮問、異議申立人の口頭意見陳述、諮問実施機関の説明
  6. 同年1月30日 審議
  7. 同年2月15日 審議

第5 審査会の判断の理由

  1. 本件対象文書について
    本件対象文書は、平成○年に名古屋地方検察庁が、具体的な刑事事件の捜査のために刑事訴訟法第197条第2項に基づいて照会をし、これに対して春日井市民病院(以下「病院」という。)が回答したものである。
    回答文書の原本は、平成○年○月○日付けで名古屋地方検察庁に提出されており、本件対象文書は、その写しを診療記録の一部として病院が保有していたものである。
  2. 刑事訴訟法第53条の2第2項の適用除外について
    刑事訴訟法第53条の2第2項は、「訴訟に関する書類に記録されている個人情報」について、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の適用除外を定めている。
    諮問実施機関は、本市の条例においては、「訴訟に関する書類」を適用除外とする条項は存在しないが、広く個人情報保護法制として捉えた場合には判断を異にする特段の事情は見当たらず、これに準じて判断すべきである旨を説明する。
    確かに、個人情報保護に関する法制の法体系のなかで、地方公共団体が個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)及び行政機関個人情報保護法の趣旨にのっとり、個人情報の適正な取扱いを確保するために、制度の法秩序全体との調和を図ることは必要である。
    しかしながら、刑事訴訟法第53条の2第2項は、「訴訟に関する書類及び押収物に記録されている個人情報については、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律 (平成15年法律第58号)第4章及び独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律 (平成15年法律第59号)第4章の規定は、適用しない。」と規定し、明示的に2つの法律の特定の章を適用除外とするものと規定している。これに他の法令や地方公共団体の個人情報保護条例までもが含まれると解釈することは、相当でないと言わざるを得ない。
    地方公共団体の個人情報保護条例の中には、法律の規定により行政機関個人情報保護法第4章の規定を適用しないとされている個人情報については、開示、訂正及び利用停止に関する規定は適用しない旨を定める条例もみられる。しかし、本市の条例では、このような規定は置かれていない。
    したがって、本件の場合には、刑事訴訟法第53条の2第2項の適用ないし準用を考えることはできないものであって、条例第17条の保有個人情報の開示義務に従い、本件対象文書に不開示情報が含まれているかどうかによって判断すべきである。
    よって、当審査会は、春日井市情報公開・個人情報保護審査会条例(平成14年春日井市条例第42号)第8条(審査会の調査権限)に基づき、諮問実施機関から本件対象文書の提示を受けて、条例第17条第1号及び第5号の定める不開示情報への該当性を審査するものとする。
  3. 条例第17条第1号該当性について
    条例第17条第1号は、「法令等の規定により本人に開示することができない情報」を不開示情報と定めている。
    諮問実施機関は、刑事訴訟法第53条の2第2項が「訴訟に関する書類」を行政機関個人情報保護法の適用除外としていること、及び開示した場合には刑事訴訟法の趣旨を没却する結果を招くことが懸念される等を理由として、本件対象文書が条例第17条第1号に該当する旨を説明するので、この点をまず検討する。
    条例第17条第1号にいう「法令等の規定により本人に開示することができない情報」とは、法令等の規定で明らかに本人に開示できない旨が定められている情報のほか、当該法令等の趣旨、目的から本人に開示できないと認められる情報をいうものと解される。
    この点、刑事訴訟法第53条の2第2項に関しては、これをもって当該情報の本人への開示を明示的に禁じている規定とは読み取れない。
    また、刑事訴訟法第53条の2第2項の立法趣旨の一つとして、他の条項ないし法律に基づく開示制度が定められていることが挙げられているように、同条項は、対象となっている情報の開示の全面禁止を予定したものではない。
    特に、被害者等に対する不起訴記録の開示については、平成12年法務省刑事局長通知により、被害者等が民事訴訟等において被害回復のため損害賠償請求権その他の権利を行使するために必要と認められる場合において、一定の条件を満たしたときは、弾力的な運用がされているところである。
    また、情報公開法の制度運営に関する検討会報告(総務省、平成17年3月29日)においても、「訴訟に関する書類については情報公開法の適用除外とされているが、刑事手続上の開示制度において十分な開示がなされることが望まれる。」と報告されている。
    これらの点も併せ考えれば、刑事訴訟法第53条の2第2項の規定をもって、訴訟に関する書類を本人に開示することを禁ずる趣旨の規定と解することもできない。
    刑事訴訟法第53条の2第2項の立法趣旨としては、上記のもののほかに、同条項に掲げる書類が、類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、開示により犯罪捜査、公訴の維持その他公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがおおきいことが挙げられており、これらの点は本市の条例に基づく開示請求を認めるか否かに当たっても斟酌すべき事由であると解される。しかし、これは、次の条例第17条第5号該当性の問題として検討すべき事柄である。
    なお、諮問実施機関から特段の説明はないが、刑事訴訟法には、この他に、第47条において、「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。」旨が規定されている。ただ、同条は、但書で「但し、公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない。」旨も定めている。同条は、訴訟関係人の名誉等を保護し、かつ捜査・裁判への外部からの不当な影響を防止するとともに、国民の知る権利等訴訟外の利益との調和を図ろうとする趣旨の規定であって、いかなる場合に但書が適用されるかについては、書類の保管者において、開示の目的、必要性、弊害の有無等を考慮して、合理的裁量により決すべきものと解釈される。
    本件に関しては、後述するとおり、もはや「公判の開廷」が想定できないこと、及び、当該情報の対象者本人が開示を求めているものであることからすれば、同条本文により本件対象文書の開示が禁じられているとは判断し得ない。
    以上により、本件対象文書は、法令等の規定により本人に開示することができないとは考えられず、条例第17条第1号に該当するとは認められない。
  4. 条例第17条第5号該当性について
    条例第17条第5号は、「開示することにより、犯罪の予防又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報」を不開示情報と定めている。
    諮問実施機関は、本件対象文書が「訴訟に関する書類」として、その性質上、同号に該当する旨を説明する。確かに、一般的に言えば、刑事訴訟に関する書類は、類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、開示により犯罪捜査、公訴の維持その他公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きいといえる。よって、この点からすれば、諮問実施機関の説明も十分首肯しうるものである。
    しかしながら、本件の場合には、対象となっている事件は、平成○年に発生した業務上過失致傷事件(交通事故)である。そして、異議申立人の述べるところによれば、当該事件については既に平成○年頃に不起訴処分がなされているとのことである。しかも、事件発生から今日までに○年余りが経過しており、業務上過失致傷罪(刑法第211条)については既に公訴時効期間(5年。刑事訴訟法第250条第5号)が経過していると認められる。このことからすれば、本件対象文書に記載されている情報を開示することにより、犯罪の捜査に支障を及ぼすおそれがあるとは考え難い。諮問実施機関が行った名古屋地方検察庁への意向聴取においても、本件対象文書を開示することによる犯罪捜査への具体的な支障についての申立てはなかった。
    また、本件対象文書に記載されている情報は、(a)創傷の部位・程度及び病名、(b)治療期間・経過等、(c)現在の通院状況と治療内容、(d)事故との因果関係であり、実際上、カルテ開示や病院からの連絡文書を通じて、既にその内容につき、相当な程度、本人が知り得る状態にあると認められる。
    これらの事情に照らすと、本件に関しては、本件対象文書が刑事訴訟に関する書類に該当するものであるといえども、「開示することにより、犯罪の予防又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報」を含むものとは言えないものである。
    よって、本件対象文書は、条例第17条第5号に該当するとは認められない。
  5. 本件不開示決定の妥当性
    以上のことから、本件対象文書については、条例第17条第1号及び第5号に規定する不開示情報に該当しないと認められるので、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。

第6 答申に関与した委員

小林武、昇秀樹、異相武憲、堀口久、鵜飼光子
(注)答申の原本では丸付き数字を使用していますが、HTML版では括弧付き英数字(a)で表示しています。

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