小野道風と春日井市
小野道風と春日井市
小野道風誕生伝説
春日井市には、平安時代の能書小野道風(894~966)がここで生まれたという伝承があります。この伝承を裏付ける資料として最も古いものは南北朝時代成立とされる『麒麟抄』で、「道風者尾張國上條ニシテ生マレ給ヘリ」とあります。その後、尾張藩の国学者である天野信景(1663~1733)は『塩尻』に「春日井郡松河戸の村民伝云、松河の里は道風の生れし地なりと云云」と記しています。また、誕生地と伝えられる現在の春日井市松河戸町には、尾張藩の儒学者である秦鼎(1761~1831)撰文の「小野朝臣遺跡碑」が文化12年(1815)に建てられ、「松河戸の村民はみな道風がここで生まれたということを伝えている」という内容が刻されています。
伝承では「小野葛絃が何らかの理由で松河戸に滞在していたときに、里人の娘との間に生まれたのが道風だった。幼少時代を松河戸で過ごし、10歳ころに父とともに京に上り、書で身を立てた。」ということになっています。残念ながら小野葛絃が尾張国に来たという記録は全くありません。したがって史実とは断定できず、伝承の域を出ないことです。しかし、少なくとも江戸時代中期ころから春日井の住民は、小野道風がここで生まれたと信じ、それを誇りとしてきたということは間違いない事実で、これこそが重要な事実です。そして、「私も道風さまのように字が上手になりたい」と考える人も多く、自然に書の盛んな土地柄になったのです。
書のまち春日井と道風記念館
現在の小野道風顕彰活動の契機となったのが、昭和19年(1944)に開催された小野道風公生誕1050年祭です。太平洋戦争末期の混乱のなかにもかかわらず、全国から書家・歌人・詩人らの文化人が多数参加し、道風をたたえる内容の詩歌や書作品が奉納される盛大な祭典でした。その5年後の昭和24年からは、全国公募の書道展である小野道風公奉賛全国書道展覧会(道風展)が、毎年11月3日に催される道風祭に合わせて開かれるようになりました。
生誕1050年祭やその後毎年の道風展に参考作品として寄せられた書作品は大切に保存され、800点ほどになっていました。それらの作品を多くの方に鑑賞していただくために、また、小野道風の偉業を広く知らしめるために「春日井市道風記念館」の建設がされることになり、昭和56年に開館しました。
開館後も収蔵品の充実につとめ、現在では奈良時代から現代の書家の作品まで幅広い書道関係資料を収蔵し、さまざまな書作品を展示しています。また、書に関する講座などを開催し、「書のまち春日井」の中核施設として書道文化振興のための事業を展開しています。