平野産業株式会社 業務用スリッパの製造メーカー(会社の風土改革、コロナ禍における商品開発)
平野産業株式会社
今回紹介する企業は、平野産業株式会社です。
平野産業株式会社は、スリッパの企画から製造・販売までを行うメーカーで、日本の業務用スリッパの国内No.1シェアを誇る大正4年から続く製造業の会社です。
今回は、取締役常務の平野裕士さんが行った会社の風土改革やコロナによる窮地を乗り越えるための商品開発についてお話を伺いました。
-本日はよろしくお願いします。
会社の風土改革について、なぜ改革に取り組みたいと思ったのか、その経緯を教えてください。
取締役常務 平野さん(以下、平野)「私は、当時社長であった父の下、学生時代より会社の手伝いをしており、大学卒業後正式に入社しました。その後2年間の営業職を経た後、営業力や製品の加工技術を磨くため一旦退職し、他の会社に籍を置いていました。
転職先での経験により、営業知識や加工技術を学び、満を持して当社に戻ってきたのですが、既に父が引退し社長が変わったため、会社の雰囲気が以前とは全く異なっていました。社員の主体性は薄れ、社長の指示や意見を待ってからしか業務を行わない者が多くなったと感じ、今後10年20年後の会社の存続を考えたとき、社員が主体性をもって活き活きと働いている会社にしなくてはならないと思い、改革を決意しました。
それから3年、私が営業部長となり社内での発言力も出てきたため、社長に直談判をし、現状の社長からの指示や意見待ちのワンマン経営のような状態を打開し、社員からの提案や新たな発想を広く求める主体性を持った社員の育成や効率的に働ける環境づくりに力を入れていくことを宣言しました。」
-将来を見据えての社員の育成や効率的な業務の遂行はどの会社も抱える重要な課題ですね。
具体的にどのような方法で社員の育成や効率化に取り組みましたか。
平野「営業部長となる前からの取り組みもありますが、まずは工場内の整理整頓に着手しました。
工具の収納場所や作業工程上の立ち位置を見直し、作業中の移動距離が短くなるよう動線の再設定を行い、作業の効率化を図りました。
また、それに合わせ社員の主体性を高めるため、作業手順書を社員に作成してもらい、工程の見直しを行う際の改善点などを積極的に提案してもらいました。
作業手順書に沿って作業を進めることで商品の品質向上につながるほか、作業効率も向上しました。作業手順書は、見直し、改良することで常に使えるものにしています。
他にも、社員自ら考え行動してほしいとの思いから、仕事の進め方を変えるときや、新たな仕事に取り組むときには提案書を書くこととし、社員からの意見が出やすくなる工夫をしています。」
-作業環境を整えるとともに社員の意識改革を確実に進めているのですね。
この取り組みを行うことで社内の雰囲気や社員の意識が変わったと実感したことはありますか。
平野「今では当たり前になっていることなのですが、社員間や社員と役員間での会話が圧倒的に増えました。私も社員との会話を大切にしたいので一日一回社員全員に会うために挨拶をして回っているほか、社員一人一人の状況把握のために、各々に作業日報の作成を義務づけ、それを事務所に提出することにしました。これにより必ず現場社員と事務所の社員・役員が顔を合わせ、何かしら声を掛け合える状況が出来上がりました。
その中で、商品や仕事の進め方についての提案をされることがあります。これは社員が自信を持って仕事をしている証拠であり、社員の意識が変わったと実感する瞬間でもあります。
また、社員からの相談など頼られる機会が増えたことも実感しています。
ただし、トラブル等に対しての相談は受けても直ぐには解決策を示さず、一度社員自身で考えるよう促しています。これは、現場の意見を尊重したいとの考えからですが、仕事に対し自ら向き合い、常に考えながら仕事に取り組んでほしいとの思いもあります。結果的には、社員に責任感が生まれリーダーシップを発揮する社員が増えてきたと感じています。
最近では、商品の生産数を安定させるために組立前の部品の管理体制を見直さなくてはならなくなった際、社員との相談の中から、在庫部品を見える化できるように在庫数をホワイトボードに常に掲示するというアイデアを採用しました。
このように、社員各々がしっかりと意見をもって話ができるようになってきたことから、一人で仕事を任せても大丈夫だと感じることが多くなっています。
社員の意識改革は一見基本的なことで簡単そうに思われるかもしれませんが、会社の社員数が少ないこともあって、中小企業では意外と難しいと感じており、現在のように社員自らが考えながら仕事を行うようになってくれて大変うれしいです。」
-風土改革の成果を日々感じていらっしゃるのですね。
では、話題を変えてコロナ禍という窮地を乗り越えるために行った商品開発について教えてください。
平野「約3年前新型コロナウイルスの感染が拡大してからは、主なスリッパの販売先であるホテルや旅館が休業し、スリッパの需要が激減し大きな打撃を受けました。会社を維持していくために、計画休業や時短勤務などの経費削減を行っていたのですが、売上の減少幅が大きく根本的な解決には至りませんでした。
そこで、コロナが落ち着きホテルや旅館が営業を再開した際に、PRできる新たな商品を考えていました。その矢先、生地メーカーから抗ウイルスの新素材を開発したとの話が舞い込み、抗ウイルススリッパを作ればコロナ禍における主力商品となり得ると確信した私は、抗ウイルススリッパの試作品を作成し、新商品の展示会にて各業界の方々にPRしました。
各業界から良い反響を頂いたので、抗ウイルススリッパを商品化することとなり、試作品から更にデザイン性を高めた抗ウイルススリッパを『オリンピア』としてシリーズ化し、ホテルや旅館へ販売を開始しました。
コロナ禍で営業を再開したホテルや旅館では、当初使い捨てのスリッパを使用するか、既存のスリッパを丁寧に消毒し使用していたため、手間やコストが莫大に掛かっており、当社の『オリンピア』を提案すると喜んで導入していただき、その後の使用感にも満足との声をいただいています。
この新商品により、新規の取引先も増えコロナの影響を受ける前の約3分の2まで売上を戻すことが出来ました。
社員には自ら考え責任感を持って仕事に取り組むよう教えていますが、当然私自身も常にその意識を持って仕事に臨んでいます。今回の『オリンピア』の件もコロナが少し落ち着いた頃に向けて、何かできることは無いかと考えた結果、ピンチをチャンスに変えることが出来たのだと思います。
このような経験は人間を成長させるため、引き続き、私を含め社員一同、自ら考え責任感を持って仕事に取り組み、会社全体で成長していきたいと思います。」
-常務の実践する仕事への取り組み方は、コロナの逆境も跳ね返してしまうのですね。その教えを受けている社員の皆さんの今後の活躍も楽しみです。
では、今後に取り組みたいと思っていることや目標などがあれば教えてください。
平野「新たな取り組みとしては、業務の効率化と構想中の販路開拓の実現です。
業務の効率化としては、他の大企業が導入している生産性向上のための取り組みを当社に合うようアレンジして取り入れたいです。
例えば、デジタル化による商品や部品の数量管理システムの導入です。これは単にPC上で在庫等を管理するのではなく、事務室と工場内に大型モニターを設置し、現在の在庫状況等をリアルタイムで把握できるようにすることで、その時の状況にあった生産体制を築くことが出来ます。
構想中の販路開拓については、他の和服や小物メーカーなどと連携し、お互いの商品を各々が持つ営業ルートで売り合う、相互協力関係のネットワークを形成したいと考えています。このネットワークが形成されることで新たな顧客への商品PRが容易になるほか、大手商社の商品ラインアップに対抗することが出来るようになります。
まだ構想段階ではありますが、このような取り組みにより会社の売上を創業以降最大にすることが目標です。」
-今後も様々な取り組みを計画されているのですね。
最後に、春日井市の他の企業を盛り上げるために、伝えたいことがあれば教えてください。
平野「企業を盛り上げるには、社員の力が必須であると思います。そのためには、先ほどお話したように社員の育成に力を入れることや、採用に力を入れることが大切だと思います。
労働力不足が叫ばれる中、人材を確保するのは容易ではないですが、当社は数年前に大手の就職支援サイトに中途採用の求人広告を出し、想定を上回る応募の下、優秀な社員を雇い入れることが出来ました。春日井市の就職支援サイトに求人掲載を行う際の助成制度を利用し、求人に係るコストも抑えることができ大変助かりました。
中途採用以外では高卒採用を視野に入れるのも必要だと思います。当社では再来年辺りから高卒採用を検討しており、人材を一から育成していくスキルを会社として磨くことで、会社の地力が向上し、かつ、若いフレッシュマンによる新たな視点が取り入れられることを期待しています。
春日井市の他の企業の皆さんも社員の育成や人材の確保に力を入れ、より強い会社を目指していただければと思います。」
-本日はありがとうございました。
★会社概要
会社名: 平野産業株式会社
創立: 創業 大正4年
資本金: 2,000万円
代表者: 代表取締役 平野 勝英
事業内容: 各種業務用スリッパの製造、販売
所在地: 春日井市篠木町1-65
電話: (0568) 81-6061
社員数: 33名(男性:10名 女性:23名)(2022年8月現在)
平均年齢: 約43歳
取材日 令和4年8月24日現在の情報となります。