伝小野道風筆本阿弥切(風ふけば)
伝小野道風筆本阿弥切
でんおののとうふうひつほんあみぎれ
平安時代 16.6×27.2センチメートル
古今集を書写したもので、近世初期に本阿弥光悦(ほんあみこうえつ1558~1637)が一巻を所有していたので、その他の断簡もすべて本阿弥切というようになった。天地17センチメートルほどの唐紙(からかみ)を張り合わせた小型の巻子本(かんすぼん)。料紙は、巻によって青・白・茶の具引地(ぐびきじ)に唐草・雲鶴・夾竹桃・牡丹などを雲母刷(きらずり)している。本品は巻第十八雑歌下の断簡で、白地に牡丹唐草文の料紙に書かれている。古来小野道風筆と伝称されているが、書風などから12世紀前半ころの遺品と考えられる。文字は小さく、筆の弾力を生かして変化を多くした優れた書跡である。京都国立博物館と宮内庁に零巻(れいかん)があるほか、40数葉の断簡の現存が確認されている。本品は、長い間所在不明で、陽明文庫所蔵の近衛家熈(このえいえひろ1667~1736)の臨書によってのみ知られていたものである。
だいしらずよみ人しらず
風ふけばおきつ(し)らなみたつた山よは
にやきみが人りこゆらん
あるひとこのうたはむかしをりのくに
なにある人すみわたりけりこのをんな
おやもなくなりていへもわろくなりゆく
ほどにこのをとこかうちのくにゝ人をあ
ひしりてかれやうにのみなりゆきけりさり
けれどもつらげなるけしきもみせでか
うちへいくごとにをとこの心のごとにしつゝ
いだしやりければあやしとおもひてなきまに
ことこゝろもやあるとうたがひて月のおもしろ
かりけるよかうちへいくやうにてせざいの
なかにかくれてみはべりければよふくる
までにことをかきならしつゝこのうたをよ
みてねにければこれをきゝていとあは
れなりとおもひてそれよりまたほかへ
もまからずなりにけりとなんいひつた
ふる
たがみそぎゆふつけどりかゝらころも
たつたの山にうちはへてなく