春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第46号)
第1 審査会の結論
春日井市教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成26年9月24日付け26春教学第1147-2号で行った公文書一部開示決定については、妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
- 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第6条に基づく開示請求(以下「本件開示請求」という。)に対し、実施機関が行った平成26年9月24日付け26春教学第1147-2号の公文書一部開示決定(以下「本件一部開示決定」という。)によって開示された春日井市立東部中学校、西部中学校及び坂下中学校(以下「本件各中学校」という。)における平成25年度の進路委員会(以下「本件進路委員会」という。)の資料(以下「本件資料」という。)につき、個人に関する情報及び私立高校に関する情報で公にできない情報を除いた一部不開示部分(以下「本件不開示情報」という。)の開示を求めるとともに、本件進路委員会の会議録及び高校入試後に実施されるまとめの進路委員会の資料(以下「本件会議録等」という。)の開示を求めるものである。
なお、異議申立人は、条例第7条第2号又は第3号に該当する情報が不開示となることは争わないが、実施機関が条例第7条第7号に該当すると判断した情報は、同条同号に該当しないため、開示すべきであると主張している。 - 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書及び意見書によると、おおむね次のとおりである。
(1) 本件不開示情報のうち個人に関する情報及び私立高校に関する情報で公にできない情報を除いた部分について
ア 公教育における情報は、基本的に公にされるべき情報であり、進路指導に関する情報も当然開示されるべきである。
イ 東部中学校「平成25年度第1回進路委員会資料」の3頁「(2)私立高校全般について」の部分は、タイトルが「全般について」であるから、個別の私立高校に関わる情報とも思われないが、不開示情報が多い。7頁「6各種・専修学校に関すること (1)おおまかな傾向」の部分は、「おおまかな傾向」がなぜ不開示とされるのか理解できない。
ウ 実施機関は、「この情報を開示することにより、生徒が成績通知や判定だけで学校を選択する風潮を助長したり、数値の低い学校を選択することで劣等感を抱いたりするなど、中学校が進めている高校等の選択の指導に弊害を及ぼすおそれがある。」と主張しているが、開示された本件資料を見ると、テストの結果が、進路指導上考慮すべき主たる要素であることは間違いない。学校こそが、劣等感を抱く生徒を生み出している。
エ 実施機関の主張の中に、「中学校が進めている高校等の選択の指導」とあるが、その内容はどのようなものか。劣等感を抱かないように指導を行っているならば、どのように行っているのか、具体的事実を明らかにした後に主張してもらいたい。そして、一部不開示とした情報を開示することができるはずである。
オ 生徒のよりよい進路のために、関係情報をできる限りオープンにすべきである。また、生徒や保護者が不安や疑念を抱くことがないようにしなければならない。そのように考えるならば、本件不開示情報は、個人情報等を除き、当然開示されるべき内容である。
カ 開示された本件資料に、「できるだけ地元高校への定着を図る」及び「地元の高校を盛り上げる」とある一方で、実施機関の主張は、「生徒のための進路指導を行っているが、請求どおり開示したならば、それができなくなる(おそれがある)」というものである。しかし、「できるだけ地元高校への定着を図る」及び「地元の高校を盛り上げる」ことが、必ずしも「生徒のためになる」とはいえない。この実施機関の主張は矛盾している。
(2) 本件会議録等について
ア 開示された本件資料に、進路委員会における出席委員の発言記録用紙と思われる文書があるため、異議申立人が実施機関に対して会議録の有無を質問したところ、会議録は存在しないとの回答であった。進路委員会という組織の重要性を考えるならば、会議録は作成され、開示対象文書となるものと考える。
イ 本件各中学校の平成25年度最後の進路委員会開催日は、入試の結果が出そろう前であった。他市の進路委員会の開催状況を調べると、入試後には進路委員会が開催され、「進路状況報告」や「反省」を行っていた。春日井市立中学校においても、最終的なまとめの進路委員会が開催されているのではないかと推察されるが、該当する文書が存在しない。はなはだ疑問である。
まとめの進路委員会が開催されていないとするならば、進路指導及び事務の適正な遂行がなされているとはいい難く、一部不開示とした情報を開示しない理由などない。
第3 実施機関の説明の要旨
実施機関の説明を総合すると、本件一部開示決定において本件不開示情報を不開示とし、本件会議録等を開示の対象としなかった主たる理由は、おおむね次のとおりである。
- 本件不開示情報について
(1) 条例第7条第2号に該当する情報
生徒の組、氏名、評定情報、成績情報及び志望校は、生徒個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができる又は特定の個人を識別できないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であるため、条例第7条第2号に該当する。
(2) 条例第7条第3号に該当する情報
私立高校の入試における選抜に関する情報のうち、各私立高校から提供を受けたものであり、かつ、各私立高校が公表していない情報は、私立高校の内部情報であり、条例第7条第3号に該当する。
(3) 条例第7条第7号に該当する情報
ア 各公立高校の入試に関する情報
本件各中学校が定める、入試における指導基準の成績数値や判定に関する情報は、本来、各高校等の受験指導上の学力指標として設定、判定したものである。近年、中学校が行う高校等の選択の指導にあたっては、点数や偏差値だけで学校を選ぶのではなく、生徒が校風や教育内容について十分な情報を収集し、生き生きと学び、活動することができる学校を探し、自分が進学したい学校を選ぶことができるよう指導、援助している。この情報を開示することにより、生徒が成績数値や判定だけで学校を選択する風潮を助長したり、数値の低い学校を選択することで劣等感を抱いたりするなど、中学校が進めている高校等の選択の指導に弊害を及ぼすおそれがあるため、条例第7条第7号に該当する。
イ 各私立高校の入試に関する情報
本件各中学校の指導基準には、各私立高校から公にしないことを前提にして提供を受けた、各私立高校の入試における選抜に関する情報をもとに設定されたものがある。当該指導基準が明らかになると、各私立高校から提供を受けた情報も明らかになり、各私立高校との信頼関係が損なわれるおそれがあるため、条例第7条第7号に該当する。 - 本件会議録等について
本件進路委員会の第1回は、1年間の進路指導方針について、第2回以降は個別の生徒について審議している。本件進路委員会の会議録は作成しておらず、会議の資料に出席者がメモをしている。異議申立人が主張する入試結果のまとめの会議というものは、一部の中学校では開催されているが、本件各中学校を含むその他の多くの中学校では、幹部職員による運営委員会や学年会などで総括を行っており、まとめの進路委員会は開催していない。
よって、本件進路委員会の会議録及び高校入試後に実施されるまとめの進路委員会の資料は存在しない。
第4 調査審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、次のとおり調査審議を行った。
- 平成26年9月24日 開示決定の通知のあった日
- 平成26年10月3日 異議申立てのあった日
- 平成27年2月5日 諮問のあった日
- 平成27年2月5日 実施機関から意見書を収受
- 平成27年4月1日 異議申立人から意見書を収受
- 平成27年5月21日 審議、実施機関の説明
- 平成27年6月30日 審議
- 平成27年7月30日 審議
- 平成27年9月28日 審議
第5 審査会の判断
- 本件異議申立ての対象
異議申立人が本件異議申立てにおいて開示を求めているものは、第1に、本件資料における本件不開示情報のうち、個人に関する情報及び私立高校に関する情報で公にできない情報を除いた部分、すなわち実施機関が条例第7条第7号を根拠として不開示とした部分であり、第2に、本件会議録等である。 - 本件資料について
(1) 検討対象
異議申立人は、本件不開示情報のうち、実施機関が条例第7条第7号を根拠として不開示とした部分につき、開示するよう求めている。しかし、不開示部分が墨塗りされた本件資料及び公文書一部開示決定通知書の記載からは、実施機関がどの部分について条例第7条第2号、第3号又は第7号のいずれの号を根拠として不開示としたか、一見して明らかではないため、異議申立人が開示を求める部分を直ちに確定することができない。そこで、異議申立人が開示を求める部分を漏れのないように審理するため、本件不開示情報の全てについて、その不開示の妥当性を検討する。
(2) 検討方法
審査会は、実施機関から本件不開示情報の墨塗りをする前の本件資料の提出を受け、本件不開示情報の内容を確認した。また、本件不開示情報が多数に上るため、一つ一つの本件不開示情報について、本件資料に記載されているページ数及び行数、不開示とした条例上の根拠規定を整理した表(いわゆるヴォーン・インデックス)の提出を受けるとともに、本件資料のうち東部中学校に関するものについて、実施機関から不開示とした詳細な理由の説明を受けた。そして、本件不開示情報は、本件各中学校において大部分が共通又は類似するため、東部中学校に関する実施機関の説明をもとに、本件資料のうち西部中学校及び坂下中学校に関するものについても、不開示の妥当性を検討した。
(3) 本件不開示情報の内容
審査会が本件不開示情報の墨塗りをする前の本件資料を見分したところ、本件不開示情報の内容は、全て次のとおり分類できた。
ア 生徒の組、氏名、評定情報、成績情報、志望校
イ 各私立高校の入試における選抜に関する情報
ウ 各私立高校及び各公立高校の入試における指導基準及び判定に関する情報、本件各中学校の過去の公立高校の入試結果の成績に関する情報、生徒の志望校の判定
(4) 不開示の妥当性
本件不開示情報は、本件各中学校において大部分が共通又は類似するため、東部中学校、西部中学校及び坂下中学校の3校に関する部分について、まとめて不開示の妥当性を検討する。
ア 条例第7条第2号該当性
実施機関は、生徒の組、氏名、評定情報、成績情報及び志望校は条例第7条第2号に該当するとしているため、その該当性について検討する。
(ア) 条例第7条第2号の趣旨
条例第7条第2号は、個人のプライバシーを保護する必要があることから、個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものについては、不開示とすることを定めたものである。
(イ) 条例第7条第2号該当性
生徒の組、氏名、評定情報、成績情報及び志望校は、生徒個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができると認められるため、条例第7条第2号に該当する。
(ウ) 対象外
したがって、不開示部分のうち、生徒の組、氏名、評定情報、成績情報及び志望校に関する記載部分は本件異議申立ての対象とならないと認められる。
イ 条例第7条第3号該当性
実施機関は、各私立高校の入試における選抜に関する情報は条例第7条第3号に該当するとしているため、その該当性について検討する。
(ア) 条例第7条第3号の趣旨
条例第7条第3号は、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、公にすることにより、当該法人等又は個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる場合は不開示とすることを定めたものである。
(イ) 条例第7条第3号該当性
審査会は、各私立高校の入試における選抜に関する情報を見分して確認したところ、当該情報は入試における選抜に関する情報の中でも、入試の実施主体である各私立高校が基本的に保有するものであり、受験生である中学校の生徒や保護者が通常知り得ない情報であり、当該各私立高校が本件各中学校を含めた特定の中学校等に提供している以外には、公表しているとは考え難い情報であると認められる。
また、当該情報の性質に照らせば、当該情報の詳細な内容が明らかにならずとも、当該各私立高校がどのような類型の情報を保有しているかが明らかになること自体が、当該各私立高校の円滑な入試業務に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
よって、当該情報を開示することにより、法人等の事業活動に係る情報で、公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められるため、条例第7条第3号に該当する。
なお、上記のとおり、当該情報がどのような類型の情報であるかを明らかにすると、各私立高校の円滑な入試業務に支障を及ぼすおそれがあると認められるため、「私立高校の入試における選抜に関する情報のうち、各私立高校から提供を受けたものであり、かつ、各私立高校が公表していない情報」という以上に詳細な情報の類型を、本答申において明らかにすることはできない。
(ウ) 対象外
したがって、不開示部分のうち、各私立高校の入試における選抜に関する情報に関する記載部分は本件異議申立ての対象とならないと認められる。
なお、異議申立人が特に指摘している東部中学校「平成25年度第1回進路委員会資料」の3頁「(2)私立高校全般について」の不開示部分には、この各私立高校の入試における選抜に関する情報に該当する記載がある。また、同7頁「6各種・専修学校に関すること (1)おおまかな傾向」の不開示部分も、各私立高校の入試における選抜に関する情報に該当する記載と認められる。
ウ 条例第7条第7号該当性
実施機関は、各私立高校及び各公立高校の入試における指導基準及び判定に関する情報、本件各中学校の過去の公立高校の入試結果の成績に関する情報、生徒の志望校の判定は条例第7条第7号に該当するとしているため、その該当性について検討する。
なお、不開示部分のうち、上記(4)ア及びイにおいて、条例第7条第2号又は第3号に該当すると認められた部分以外の記載は、すべてこの各私立高校及び各公立高校の入試における指導基準及び判定に関する情報、本件各中学校の過去の公立高校の入試結果の成績に関する情報、生徒の志望校の判定に関する記載である。
(ア) 条例第7条第7号の趣旨
条例第7条第7号は、市が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものについて、不開示とすることを定めたものである。
(イ) 条例第7条第7号該当性
a 各公立高校の入試に関する情報
各公立高校の入試における指導基準及び判定に関する情報、本件各中学校の過去の公立高校の入試結果の成績に関する情報及び生徒の志望校の判定が明らかになると、生徒の中には当該情報を重視して志望校を選択する者が増加して、学力重視の傾向が強まることが予想される。
実施機関によると、現在、本件各中学校の進路指導は、点数 などで学校を選ぶのではなく、自分自身で情報収集をし、生き生きと通える学校を自ら探し、選ぶことを指導している。しかし、上記不開示情報を開示すると、学力重視の傾向の強化を招く可能性が高いと認められる。そのため、当該情報を開示することにより、生徒が成績数値や判定だけで学校を選択する風潮を助長したり、数値の低い学校を選択することで劣等感を抱いたりするなど、中学校が進めている高校等の選択の指導に弊害を及ぼすおそれがあるとの実施機関の主張は、首肯できる。
よって、当該情報を公にすることにより、本件各中学校の進路指導事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、条例第7条第7号に該当する。
b 各私立高校の入試に関する情報
実施機関によると、各私立高校に関する入試における指導基準及び判定に関する情報は、各私立高校の説明会に本件各中学校の進路指導主事が参加するなどして、口頭又は書面で入手しており、その際に各私立高校から提示される資料については、一般的なパンフレットとは別に、公開しないことを前提に入手している。当該情報は基本的に受験生である生徒や保護者に知られないように管理されるものであり、実施機関の説明に不合理な点は認められない。
よって、当該情報が明らかにされると、各私立高校が公にしていない情報を本件各中学校が明らかにすることになり、各私立高校との信頼関係が損なわれるおそれがあると認められる。したがって、当該情報は条例第7条第7号に該当する。
(ウ) なお、異議申立人が特に指摘している東部中学校「平成25年度第1回進路委員会資料」の3頁「(2)私立高校全般について」の不開示部分のうち、上記(4)イにおいて各私立高校の入試における選抜に関する情報(条例第7条第3号)と認められた部分以外の記載は、いずれもこの各私立高校及び各公立高校の入試における指導基準及び判定に関する情報に該当すると認められる。
エ 小括
以上により、本件不開示情報は、いずれも条例第7条第2号、第3号又は第7号に該当するため、実施機関が本件一部開示決定において本件不開示情報を不開示としたことは妥当である。 - 本件会議録等について
本件資料は詳細に記載されており、本件進路委員会の内容は会議録が作成されなくても、本件資料によって事後的に確認することも可能である。また、進路指導に関する入試後の総括は、本件進路委員会という形態で行う必然性はなく、幹部職員による運営委員会や学年会などの形態で行うことも可能である。これらの点に照らせば、本件進路委員会の会議録は作成しておらず、入試後のまとめの進路委員会は開催されていないとの実施機関の説明に不合理な点は認められない。
よって、本件会議録等は作成されておらず、存在しないといえるため、実施機関が本件一部開示決定において本件会議録等を開示の対象としなかったことは妥当である。 - 結論
以上により、本件一部開示決定については上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第6 答申に関与した委員
近藤真、高松淳也、富田隆司、尾関栄作、森幸子