春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第48号から諮問第53号まで)

ページID 1007141 更新日 令和6年1月10日

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第1 審査会の結論

 春日井市長、春日井市教育委員会、春日井市公平委員会、春日井市議会、春日井市監査委員及び春日井市消防長(以下併せて「実施機関」という。)が不服申立人に対して平成27年8月28日付けで行った不開示決定合計458件(以下併せて「本件不開示決定」という。)は、妥当である。

第2 事実関係

不服申立人及び実施機関の説明並びに関係各資料によると、次の事実が認められる。

1 本件開示請求について
 不服申立人の実施機関に対する開示請求は、平成27年7月16日付けのものが75課等に対して合計152件、同月29日、30日及び31日付けのものが80課等に対して合計306件行われており、両者の合計は458件となる(以下併せて「本件開示請求」という。)。

2 本件対象公文書について
 実施機関は、本件開示請求の対象公文書が極めて大量であることを理由に、開示決定等の期限の延長決定をした。そして、実施機関は不服申立人に対し、当該対象公文書を必要な範囲に絞り込むように補正依頼をした。不服申立人は当該補正依頼を受けて、当該対象公文書のうち、庁内共有サーバー内データの請求対象課等を75課等から31課等に縮減した。実施機関が更なる絞り込みを依頼したところ、不服申立人は絞り込みを拒否した。
 当該絞り込みがされた後の本件開示請求の対象公文書(以下「本件対象公文書」という。)のうち、多くの課等に共通する公文書の種類、課等の数、公文書の量、当審査会事務局が測定した開示決定等に至るまでの実施機関の想定作業時間(職員1名が作業に専従した場合。年換算は1日を7.75時間、1か月を22日、1年を12か月として算定したもの。)は、次の表のとおりである(表中記載の1.から9.までの各公文書を併せて「本件主要対象公文書」という。)。

公文書の種類

課等
の数

公文書の量(件数・枚数・厚さ)  想定作業時間
1.庁内サーバー内の共有フォルダー内データ(平成26年度まで) 31 3,296,791件 177,103時間
(約86年)
2.各課等のメールアドレスで送受信したメール及び添付ファイル(平成27年6月15日から同年7月31日まで) 75 3,875件 197時間
3.庁内サーバー内のライブラリ掲載データ 75 1,994件 145時間
4.旅行命令簿及び行程表 75 12,050枚 138時間
5.復命書(主催者が国のもの) 75

厚さ約30メートル
(約300,000枚)
※主催者が国以外のものも含む。
 

4,053時間
(約1.9年)
6.事務引継書 75 448枚 21 時間
7.審査会・審議会の議事録・関連資料 75 厚さ約16メートル
(約160,000枚)
2,342時間
(約1.1年)
8.異議申立て・審査請求の関連文書 75 厚さ約6メートル
(約60,000枚)
608時間
9.要綱・要領 75 10,697枚 122時間

 また、本件対象公文書には、本件主要対象公文書以外にも、市の施設のCADデータや人事関係資料等の公文書が含まれている。
3 本件不開示決定について
 実施機関は、本件対象公文書の量が極めて膨大であり、市全体の事務遂行に甚大な支障を及ぼすため、本件開示請求は権利濫用に当たるとして、本件不開示決定をした。

第3 不服申立人の主張の要旨

  1. 不服申立ての趣旨
     本件不服申立ての趣旨は、権利濫用を理由とする本件不開示決定は違法(条例違反を含む。)、不当又は無効であるため、本件不開示決定の取消し又は無効確認を求めるものである。
  2. 不服申立ての理由
    不服申立人が主張する不服申立ての主たる理由は、不服申立人の口頭意見陳述及び意見書を含む各提出資料によると、おおむね次のとおりである。
    (1) 本件対象公文書の特定性について
     実施機関は、従前、上記第2.2の表中記載の2.指定した期間内において各課等のメールアドレスで送受信した受信メール(以下1.から9.までの記載は、当該表中記載の番号を示す。)や、3.庁内サーバー内のライブラリ掲載データといった開示請求に応じてきた経緯がある。また、一人前例ができると、誰でも同じ対応になる。これらのことからして、本件対象公文書の特定性を理由とした開示拒否を行うという選択肢は、消えたこととなる。
    (2) 本件開示請求全体の総合判断について
     本件対象公文書は、課等によって10万ファイルを超えるところもあれば、100ファイルもないところもある。しかし、実施機関は、本件開示請求全体を総合判断し、すぐに開示できる課等もあるにもかかわらず、それを含めて全体を不開示にするという統一的な取扱いをしている。実施機関は、本件開示請求には適法性に疑問があると称して、本件対象公文書の量を調査する等の余分な事務処理をしており、公正な事務処理ではない。また、開示のための事務処理は各実施機関で行うため、全体として統一的な取扱いを行うべきではない。
     また、実施機関は、本件対象公文書が大量であることを理由に、従前は不服申立人に開示されていた公文書まで開示をしなかった。これは不公平であり、本件開示請求全体で不開示が妥当とする実施機関の主張は採用できないはずである。
    (3) 手続上の問題について
    ア 行政手続条例違反について
    (ア)行政指導への不服従について
     本件対象公文書を必要な範囲に絞り込むよう求めた補正依頼は、行政指導である。不服申立人は、当該行政指導に応じたにもかかわらず、実施機関は更なる絞り込みを求めた。そして、実施機関は、不服申立人が更なる絞り込みという行政指導に従わなかったことをもって、本件不開示決定という不利益扱いをしている。このような実施機関の対応は、春日井市行政手続条例(以下「行政手続条例」という。)に違反する。
     判例には、行政による対象公文書の絞り込みの依頼に対し、開示請求者が応じなかったことを、権利濫用を肯定する一要素と評価しているものがある。しかし、行政の言うことを聞かなければ不利益な取扱いをしてもよい、という理論はおかしい。
    (イ)審査基準の未設定について
     実施機関は、開示請求の権利濫用に関する審査基準をあらかじめ設定せずに、本件開示請求につき、権利濫用を理由に本件不開示決定をした。このような審査基準の未設定は、行政手続条例に違反する。  
    (ウ)複数の行政庁が関与する処分の遅延について
     本件開示請求は、複数の行政庁(実施機関)に対して行われたものであり、行政手続条例第11条の「関連する申請」に該当する。本件不開示決定通知書において、本件対象公文書の全体の量が漏れなく記載されていることからして、実質として本件開示請求の審査又は判断を殊更に遅延させるようなことがなされたと解さざるを得ず、行政手続条例に違反する。
    イ 個人情報保護条例違反について
     「市として統一した取扱いが必要である」という実施機関による地方自治法第138条の3第2項の解釈及び運用は適当でなく、裁量の逸脱又は濫用となるものである。
     春日井市情報公開条例(以下「情報公開条例」という。)は、比較的自己完結的に定められており、誰がどのような情報を開示請求したのかという情報は、開示請求の対象となった実施機関以外の実施機関にとっては、事務処理上は全く必要がない情報である。本件不開示決定に際し、実施機関の間において、不服申立人が開示請求者であることが分かる状態で本件開示請求の情報を共有したことは、春日井市個人情報保護条例(以下「個人情報保護条例」という。)に違反する。   
    ウ 情報公開事務取扱要領違反について
     春日井市情報公開事務取扱要領(以下「要領」という。)の第3「事務分掌」においては、開示決定等の判断は開示等担当課の事務とされている。しかし、実際には総務課が主要な判断を行っており、要領の規定に違反する。
    エ 文書取扱規程違反について
     春日井市文書取扱規程(以下「文書取扱規程」という。)第12条は、配付を受けた文書等の処理につき、課長等を主体としており、上司に指示を受けるのも、課長等であることを規定している。また、一応供覧についても、開示請求書については部長までしか行われない。よって、少なくとも、「市として統一的な取扱いをする」といって、部をまたいで本件開示請求に関する情報が共有されることは、文書取扱規程に違反する。
    オ 手引違反について
    (ア)基準違反について
     春日井市の情報公開事務の手引(以下単に「手引」という。)17頁には、「著しく不適正な開示請求」を権利濫用とすると記載されている。また、同頁及び18頁には、開示請求者の意図的な害意実行でなければ、不適正な開示請求には当たらないとする判例が記載されている。このような手引の内容は実施機関を羈束するものである。しかるに、本件開示請求は手引の当該内容には該当しないため、本件不開示決定は手引の基準に違反する。
    (イ)フローチャート違反について
     手引166頁以降には、公文書の開示に関する事務の流れがフローチャート(以下単に「フローチャート」という。)として記載されている。その中では、他の実施機関が開示等担当課に関係することは予定されていない。フローチャートに例外は予定されておらず、この内容は実施機関を羈束するものである。しかし、他の実施機関が開示等担当課への開示請求を考慮して「市としての統一的な取扱い」として本件不開示決定を行っており、フローチャートに違反する。
    (4) あるべき実施機関の対応について
     市には約30万人の住民がおり、老人や子供を考慮しても、10万人程度の開示請求に対応できないことが本来は不正である。一人から10件の請求があっても、10人から1件ずつの請求があっても、公文書の検索や開示不開示の判断の事務量は変わらないはずである。一人からの請求であっても、300万件程度の公文書の請求の処理ができないことが本来は不正である。
     本件対象公文書が初めから電子化されていた場合、開示作業に何十年も時間がかかるのか疑問である。実施機関は開示のための事務量が多いと主張しているが、その事務量の原因は電子行政を導入しない実施機関にある。実施機関の自業自得を不服申立人の不利益に転嫁することは許されない。
     実施機関は、平成27年8月から導入された開示手数料制度を直ちに廃止すべきである。

第4 実施機関の説明の要旨

1 実施機関は、不開示理由説明書及び平成28年3月1日に実施された口頭での説明において、本件開示請求全体が権利濫用に該当するとして本件不開示決定を行った主たる理由として、おおむね次のとおり主張した。
(1) 本件開示請求全体の総合判断について
 本件開示請求は、平成27年7月16日から同月31日にかけて、大量多数の公文書につき、集中的に行われたものであり、一連一体の開示請求といえる。かつて開示されたことのある公文書であっても、当該一連一体の開示請求の一部を構成する場合は、当然に開示されるべきものではなく、当該一連一体の開示請求の適法性の判断により、開示されるべきか否かが決まる。当該判断の際には、地方自治法第138条の3第2項からも明らかなように、市として統一的な取扱いが必要となる。
 本件対象公文書は極めて大量である。また、不服申立人は10年かかっても開示すべきであると考えており、有意な公文書量の絞り込みを行う意思がないことが明らかであるといえる。仮に、これだけの量の本件対象公文書の開示事務を行えば、市全体の事務遂行に甚大な支障が及び、市民サービスは、質、量ともに、長期間にわたり著しく低下するため、市民一般が被る不利益は甚大である。よって、本件開示請求の全部につき、情報公開条例第4条が規定する適正な請求とは到底評価できず、憲法第12条及び民法第1条第3項が規定する権利濫用に該当する。
(2) 行政手続条例について
ア 行政指導への不服従について
 本件不開示決定は、不服申立人が本件対象公文書の限度でしか絞り込みに応じなかったことを理由とするものではなく、絞り込み後の本件対象公文書の量をもってしても、権利濫用に該当することを理由とするものである。よって、行政手続条例第30条及び第31条には違反しない。
イ 審査基準の未設定について
 不開示情報に該当することを理由とした不開示決定とは異なり、権利濫用による不開示決定は、開示請求に対する処分としては、情報公開条例の想定を逸脱した異例のものである。よって、権利濫用に関する審査基準が定められていなくとも、行政手続条例第5条第1項には違反しない。

第5 調査審議の経過

 審査会は、本件不服申立てについて、次のとおり調査審議を行った。

  1. 平成27年8月28日 本件不開示決定の通知のあった日
  2. 平成27年10月16日 不服申立てのあった日
  3. 平成28年2月4日 諮問のあった日、実施機関から不開示理由説明書を収受
  4. 平成28年3月1日 審議、不服申立人の口頭意見陳述、実施機関の説明
  5. 平成28年4月13日 審議
  6. 平成28年6月3日 不服申立人から意見書を含む各資料を収受
  7. 平成28年6月8日 不服申立人から意見書2を含む各資料を収受
  8. 平成28年6月16日 審議、不服申立人から要望書を収受
  9. 平成28年7月4日 不服申立人から意見書3を含む各資料を収受
  10. 平成28年7月5日 不服申立人から意見書4を含む各資料を収受
  11. 平成28年7月6日 不服申立人から意見書5を含む各資料を収受
  12. 平成28年7月11日 不服申立人から意見書6を含む各資料を収受
  13. 平成28年7月12日 不服申立人から意見書7及び8を含む各資料を収受
  14. 平成28年7月13日 不服申立人から意見書9を含む各資料を収受
  15. 平成28年7月13日 審議
  16. 平成28年8月15日 不服申立人から意見書2種類を含む各資料を収受
  17. 平成28年8月24日 審議

第6 審査会の判断

  1. 本件対象公文書の特定性について
    (1) 判断基準  実施機関による本件不開示決定の理由は、権利濫用とされているところ、権利濫用の判断は、以下の裁判例が示す内容のとおり公文書の特定性の要件と密接に関連するものであるから、権利濫用の判断の前提として、本件対象公文書の特定性について検討する。
     この点、東京高等裁判所平成23年11月30日判決・訟務月報58巻12号4115頁によれば、情報公開条例は、公文書開示請求の対象公文書が大量となり得ることを予定しているといっても、自ずから量的な制限があるというべきであり、このような制限は、開示請求手続のいわば内在的な制約として情報公開条例上存在するものと解される。そして、情報公開条例第6条第1項第2号は、開示請求者の責務としてではないが、開示請求の手続として、開示請求書に公文書の名称その他の開示請求に係る公文書を特定するに足りる事項を記載することを求めている。
     よって、上記判決、あるいは東京高等裁判所平成23年7月20日判決・判例地方自治354号9頁も同趣旨であるが、公文書の包括的な開示請求は、特段の事情のない限り、対象公文書の特定性を欠くものと解すべきである。そして、特段の事情のある場合とは、対象公文書の特定が求められている趣旨を没却しないような例外的な事情がある場合、例えば、開示請求者が真に対象公文書全部の閲覧等を希望しており、かつ、請求対象公文書の全部の閲覧等を相当期間内に実行することのできる態勢を整えており、実施機関をいたずらに疲弊させるものでないような場合に限られるものというべきである。   
    (2) 本件における検討
     本件主要対象公文書は、1.庁内サーバー内の共有フォルダー内データが31課等、2.から9.までの各公文書が75課等を対象とするものであり、実施機関の組織の大部分を占めるものであるように、本件対象公文書は全体として、特定の時期や分野のものに限定されておらず、開示請求できる限りのもの全てとなっている(なお、1.庁内サーバー内の共有フォルダー内データは、平成27年度のものを除外するのみで、限定としては大きな意味を持たない。2.各課等のメールアドレスで送受信したメール及び添付ファイルは、平成27年6月15日から同年7月31日までと時期が限定されているが、それ以前のものは既に別の開示請求によって不服申立人に開示済みであることの結果であり、包括的な請求にあたるか否かの判断における限定としてはやはり大きな意味を持たない。)。このように、本件対象公文書は、対象となっている課等が広範にわたり、時期及び分野による限定もほぼされていないことから、本件開示請求は包括的な請求と評価できる。
     そして、通常は、不服申立人において、上記第2.2の表中記載のとおり、極めて大量に存在する本件対象公文書の全部の開示を受ける必要性は想定し難く、実際に閲覧等を行うことも困難である。また、不服申立人は、実施機関による対象公文書の絞り込みの補正依頼に対しても、1.庁内サーバー内の共有フォルダー内データの対象課等を縮減するのみで、時期や分野の絞り込みをしなかったのみならず、2.から9.までの各公文書やその他の公文書については、一切絞り込みに応じておらず、また、本件開示請求の全体を概観し、あるいは不服申立人の言動によっても、開示された公文書をもとに行政監査を行う等、不服申立人が本件対象公文書の全部を真に必要としているような事情は見受けられない。
     また、1.庁内サーバー内の共有フォルダー内データのみでも300万件を超えており、不服申立人が本件対象公文書の全部の閲覧等を実行するには、極めて長期間を要し、現実的には極めて困難であるといえる。
     更に、このような事情のもとにおいて、上記第2.2の表中記載の想定作業時間は、誤差や工夫により短縮し得たとしてもその幅には限界があり、現実に実施機関が開示事務のために多大な労力を費やす必要があることは明らかである。不服申立人における開示の必要性が明らかではない中、実施機関がこのような労力を費やすことは、実施機関をいたずらに疲弊させるものと評価せざるを得ない。
     以上のような事情を勘案すれば、本件は、対象公文書の特定が求められている趣旨を没却しないような例外的な事情がある場合、例えば、開示請求者が真に対象公文書全部の閲覧等を希望しており、かつ、請求対象公文書の全部の閲覧等を相当期間内に実行することのできる態勢を整えており、実施機関をいたずらに疲弊させるものでないような場合であるとはいえない。よって、本件開示請求は、対象公文書の特定性を欠くものといわざるを得ない。
  2. 権利濫用について
    (1) 判断基準
     開示請求権が、市民の知る権利の尊重と市の説明責務の観点からして重要な権利であることは、いうまでもない。また、開示請求をする事情によっては、大量の公文書を開示しなければ開示請求者の目的を達成できない場合もあり得る。よって、単に対象公文書が大量であるからといって、そのことをもって権利濫用と評価すべきではない。
     しかし、上記第6.1で述べたとおり、開示請求には自ずから量的な制限があるというべきであり、このような制限は、開示請求手続のいわば内在的な制約として情報公開条例上存在するものである。この理は、対象公文書の特定性のみならず、権利濫用の該当性においても妥当するものである。よって、開示請求の態様、開示請求に応じた場合の実施機関の業務への支障及び市民一般の被る不利益等を勘案し、社会通念上妥当と認められる範囲を超えるものであれば、権利濫用に該当すると解すべきである。   
    (2) 本件における検討
    ア 開示請求の態様について
     本件開示請求は、平成27年7月16日から同月31日にかけて、連続して集中的に行われており、対象公文書の類似性も認められる。よって、本件開示請求は全庁的になされた一連一体のものと捉えることができる。従前に開示されたことのある公文書についても、当審査会において従前の開示の適否を判断できないため、無条件で開示すべきであるとはいえず(さらにいえば、従前に開示されたことがある公文書と同じ類型の公文書であったとしても、開示ごとにその適否を判断する必要があることはいうまでもない。)、本件開示請求の他の部分と同等に取り扱うこととする。そして、本件開示請求は、上記第6.1記載のとおり、対象公文書の特定性を欠く包括的な請求である。しかし、不服申立人には、このような包括的な請求を真に必要としているような事情は見受けられない。よって、対象公文書の特定性を欠く一連一体の本件開示請求は、その請求件数及び対象公文書の量の多さのみならず、包括性、一律性、全体性といった点で、情報公開条例が想定する通常の開示請求の態様とは大きくかけ離れたものといえる。
     この点は、本件開示請求が行われた時期が、開示手数料が導入される平成27年8月1日の直前であり、開示手数料が不要なうちに必要な公文書の開示を請求したいと考えることが、開示請求者にとって通常であり、いわゆるかけこみ請求が一定程度は保護に値することを考慮しても、なお評価を異にするものではない。     
    イ 開示請求に応じた場合の実施機関の業務への支障について
     本件対象公文書のうち、3.庁内サーバー内のライブラリ掲載データや9.要綱・要領のように不開示情報が類型的に少ない種類の公文書についても、実施機関は不開示情報の有無を確認する必要がある。そのため、実施機関は、上記第2.2の表中記載の想定作業時間と多少の誤差はあれ、全体で数十年という想定作業時間に近似する時間の作業を要することとなる。上記東京高等裁判所平成23年11月30日判決も判示するように、情報公開条例は、大量の公文書の開示請求に対応するため、無制約な人員配置等の態勢整備をすることを実施機関に義務付けているとは解し得ないことに鑑みれば、数十年という想定作業時間は、実施機関の有する人的資源の多くを費やすこととなり、その反面として他の事務に割くことのできる人的資源が大幅に減少することとなる。よって、開示請求に応じた場合の実施機関の業務への支障は、職員が勤務時間を一時的に増加させれば対応できる程度を超えて、他の業務の進行が相当程度遅れる可能性があるほどに、甚大なものとなるおそれがある。
     この点、不服申立人は、本件対象公文書が初めから電子化されていた場合、開示作業に要する時間が短縮される旨の主張をしている。しかし、本件対象公文書が電子化されていたとしても、短縮し得るのは公文書の検索時間であり、不開示情報の有無の審査等の時間はそれほど変わらないと考えられる。そして、本件開示請求は、主として一定の公文書を包括的に請求するものであり、本件対象公文書が電子化されていた場合とそうではない場合とで、公文書の検索時間はそれほど変わらない。よって、不服申立人の当該主張は採用できない。
    ウ 市民一般の被る不利益等について
     上記のとおり実施機関の業務に甚大な支障が生じるおそれがあるため、当該業務の受益者たる市民一般は、受益の機会が相当程度遅れる可能性がある。当該受益の機会は、本件開示請求が全庁的に多数行われているため、様々な市民の受益に広く影響を及ぼす可能性がある。このように、市民一般の被る不利益等はあまりにも大きなものであり、開示請求権の重要性に鑑みても、不服申立人という一人の開示請求者の利益を保護するための不利益としては、看過し得ないものである。
     この点、不服申立人は、開示請求者が一人でも多数でも、実施機関が要する作業量は同じであり、開示すべき公文書の量に変わりはないはずであると主張する。しかし、市民一般の被る不利益等を勘案する際には、市民間の公平性の考慮が不可欠であり、開示請求者が一人であることは無視できない事情である。よって、不服申立人の当該主張は採用できない。
    エ 小括
     以上のような事情を勘案すれば、本件開示請求は、社会通念上妥当と認められる範囲を超えるものであり、権利濫用に該当するといわざるを得ない。
  3. 手続上の問題について
    (1) 行政手続条例違反について
    ア 行政指導への不服従について
     上記第6.2における検討からすれば、本件不開示決定は、不服申立人が本件対象公文書の限度でしか絞り込みに応じなかったことを理由とするものではなく、絞り込み後の本件対象公文書の量をもってしても、権利濫用に該当することを理由とするものであるとする実施機関の主張には合理性が認められ、首肯することができる。よって、不服申立人が指摘するような行政手続条例第30条及び第31条違反は認められない。
    イ 審査基準の未設定について
     一般に権利濫用は、例外的な事象ではあるが、あらゆる権利に内在する制約である。その審査基準を、情報公開条例に一律に定めることができる性質のものではない。従って、審査基準の設定は行政手続条例が実施機関に課している義務の内容に含まれるとは解し得ない。なお、その審査基準を実施機関が任意に定めることがあっても、それ以外の場合に権利濫用が認められないものではなく、また、定められた審査基準に類する事象だけが権利濫用となるものでもない。
     よって、不服申立人が指摘するような行政手続条例第5条第1項違反は認められない。
     さらに、本件不開示決定は、これまで検討してきたとおり、「開示されるべきものまで『巻き添え』的に不開示」としたものでも、「補正に応じないことを直接の理由として不開示」としたものでもなく、その判断は合理的であるといえるから、これらの点においても実施機関に行政手続条例違反やその制度趣旨に反する事情は認められない。
    ウ 複数の行政庁が関与する処分の遅延について
     本件開示請求は、平成27年7月16日及び同月29日から同月31日までに行われているところ、本件対象公文書の確認及び本件開示請求の適法性に時間を要することを理由として、実施機関によって開示決定等の期限が30日間延長され、同年8月28日付けで本件不開示決定がなされている。このように、本件開示請求が行われてから本件不開示決定がなされるまでには、44日間を要している。上記のとおり、本件対象公文書の量が極めて大量であり、種類も複数に及んでいることに鑑みれば、本件開示請求に関する審理及び判断には相当程度の期間を要すると思われることから、審理及び判断に44日間を要したことには合理性が認められる。また、44日間という期間は、原則的な審理及び判断の期間である15日間(情報公開条例第12条第1項)に、通常の延長可能期間である30日間(同条第2項)を加えた45日間を超えるものではなく、審理及び判断に要した期間としては、それほど長期間であるとはいえない。よって、他の実施機関に対する開示請求を考慮しなかった場合に比べて、実施機関が審理及び判断を遅延させたとはいえない。
     仮に、他の実施機関に対する開示請求を考慮しなかった場合に比べて、実施機関が審理及び判断を遅延させたといえるとしても、行政手続条例第11条第1項の「殊更に」とは、合理的理由が存在しないことを意味する。上記のとおり、一連一体の全庁的な本件開示請求は、他の実施機関に対する開示請求も考慮しなければ、その適法性が審理及び判断できない。よって、実施機関が審理及び判断を遅延させたとしても、その遅延には合理的理由が存在している。
     このように、いずれにしても、行政手続条例第11条違反は認められない。
    (2) 個人情報保護条例違反について
     個人情報保護条例第11条第1項は、法令等に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために実施機関が保有個人情報を自ら利用し、又は他の実施機関に個人情報を提供してはならないことを規定している。一方、同条第2項第2号及び第3号は、実施機関が法令等の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用し、又は他の実施機関から提供を受ける場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当な理由のあるときは、保有個人情報の利用又は提供が許されることを規定している。
     本件では、本件対象公文書の種類及び量に関する情報につき、実施機関がその内部の課等に関する情報を利用し、又は他の実施機関から情報の提供を受けることは、本件開示請求の適法性を判断するという情報公開条例の定める事務の遂行に必要な限度にとどまっているといえる。また、本件開示請求の適法性の判断のためには、当該情報を利用し、又は提供を受ける必要があるため、相当な理由があるといえる。よって、個人情報保護条例第11条違反は認められない。
     また、本件不開示決定におけるこのような情報共有及び市としての統一した取扱いは、地方自治法第138条の3第2項に違反するものではなく、裁量の逸脱又は濫用も認められない。
     なお、行政手続条例第11条第2項は、同一の申請者からされた相互に関連する複数の申請に対する処分について複数の行政庁が関与する場合においては、当該複数の行政庁は、必要に応じ、相互に連絡をとり、当該申請者からの説明の聴取を共同して行う等により審査の促進に努めるものとすることを規定している。当該規定は、上記のような情報共有及び市としての統一した取扱いが許容される場合があることを前提としているところ、本件はまさに許容される場合に該当するものといえる。
    (3) 情報公開事務取扱要領違反について
     要領は、対象公文書に含まれている情報の不開示情報該当性の判断につき、当該情報に関する事務を取り扱っている開示等担当課が詳しいことに鑑み、開示等担当課に開示決定等の事務を担当させているものと考えられる。一方、本件のような全庁的な開示請求の適法性の判断は、開示等担当課のみでは行うことができず、総務課によって各開示等担当課への連絡調整及び助言又は指導が行われることにも合理性が認められる。このような場合における総務課の当該事務は、開示等担当課に開示決定等の事務を取り扱わせた要領の趣旨を阻害するものではないため、不服申立人が指摘するような要領違反は認められない。
    (4) 文書取扱規程違反について
     文書取扱規程第12条は、課長等の事務処理への関わり方に関する指針を定めたものと考えられるところ、他の部からの連絡調整及び助言又は指導を受けることを一切否定する趣旨とは解されない。よって、本件開示請求の適法性を判断するために、部をまたいで本件開示請求に関する情報が共有されても、文書取扱規程第12条違反は認められない。
    (5) 手引違反について
    ア 基準違反について
     手引に記載されている判例は、権利濫用に関する判例の一部を取り上げたものであり、当該判例の判断基準以外を一切採用しないとする趣旨とは解されない。当該判例が、開示請求者の意図的な害意が認められる場合にのみ、権利濫用を肯定する趣旨であるかは議論の余地があるが、いずれにしても、不服申立人が指摘するような手引の基準違反は認められない。
    イ フローチャート違反について
     フローチャートは、公文書の開示に関する事務の流れの主要な部分を記載したものであり、記載されていない実施機関の対応を一切否定する趣旨とは解されない。上記第6.2(2)アで述べたとおり、本件開示請求は全庁的になされた一連一体のものと捉えることができるため、実施機関全体で本件対象文書の総量を考慮することは許される。よって、不服申立人が指摘するようなフローチャート違反は認められない。
  4. 開示手数料について
     なお、不服申立人は、平成27年8月に導入された開示手数料制度の即時廃止を求めている。本諮問は、本件不開示決定の適否を判断するものであり、開示手数料制度の是非を審議するものではない。しかし、当審査会は、諮問第43号において、開示請求の著しい増加に伴い、受益者負担の公平性を実現するために、開示実施手数料の導入を適切であると答申している。現在導入されている開示手数料制度は、開示請求手数料ではなく開示実施手数料を徴収するものであり、その金額も相当な程度にとどまるものといえる。よって、当該開示手数料制度は適切なものであることを付言する。

     

第7 答申に関与した委員

近藤真、高松淳也、富田隆司、尾関栄作、森幸子

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