春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第47号)
第1 審査会の結論
春日井市教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成27年1月8日付け26春教学第1729-2号で行った公文書開示決定については、結論において妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
- 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、平成25年度の春日井市小中学校長会の小学校部会及び中学校部会について、開示された各回の「要項」以外にも各部会各回の関係資料(会議記録を含む。)が存在すると考えられるので、それらの開示を求めるものである。 - 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書及び意見書によると、おおむね次のとおりである。
(1) 「平成25年度の春日井市教職員研修委員会活動実績報告書」(管理職研修(校長研修))(以下「報告書」という。)の「4 小中部会」の「事業内容」欄には、「小学校部会」及び「中学校部会」(以下併せて「小中部会」という。)が記載されている。報告書における小中部会の事業内容としては、「当面する課題や学校運営上の諸問題解決のための調査・研究・検討」と記載されている。現在、公教育(義務教育)における課題は山積みであり、学校経営主体としての校長が研究し、理解すべきことは多岐にわたり膨大であるから、管理職研修(校長研修)がいかに重要なものであるのかは、明白である。「調査・研究・検討」を目的とするならば、開示された「要項」以外に一切の文書・資料等無しでの研究、研修など不可能である。
(2) 実施機関は、意見書において、「情報交換の活動を行っている」等あたかも「雑談していた」と述べるがごとくである。しかし、報告書を作成した春日井市教職員研修委員会(以下「研修委員会」という。)は、教職員研修事業について、春日井市長との間で委託契約を締結している。平成25年度の委託金額は419万円であり、研修委員会傘下の一組織である管理職研修(校長研修)部会には、当該委託金のうち29万円も公費が支給され、公的出張として認められていたが、そのような研究の一端が「雑談」か。公教育における課題は山積みであるから「調査・研究・検討」を行うことにしたのであって、「要項」だけを毎回配布し、「雑談」していたということは、考えられない。
(3) 地方教育行政の組織及び運営に関する法律は、教育委員会の職務権限として「校長、教員その他の教育関係職員の研修に関すること」を定めており、その一環として、本件校長研修が位置付けられているはずである。その研修実態が資料等も一切存在しない「雑談」であった、などということを、実施機関が容認するとは考えられない。
(4) 異議申立人が請求する関係資料(会議記録を含む。)は必ず存在すると考えられるので、それらの開示を求める。
第3 実施機関の説明の要旨
- 実施機関は、意見書及び平成27年7月30日に実施された口頭での説明において、本件開示請求の対象文書として「要項」のみを開示した主たる理由として、おおむね次のとおり主張した。
(1) 報告書の対象となっている管理職研修(校長研修)部会は、研修委員会の下部組織である教職員研修部会のうち、校長で組織された研修部会の一つである。管理職研修(校長研修)部会の活動内容としては、各種研究大会に参加したり、研修会を開催しており、これらの活動に関する公文書については、本件開示請求において異議申立人に開示している。
小中部会は、実施機関が開催する校長会議の終了後に、引き続き開催されており、市内の小学校長と中学校長が別に情報交換の活動を行っている。小学校部会及び中学校部会の各部会では、当面する課題や学校運営上の諸問題について、口頭で情報交換を行っており、開示した「要項」以外の公文書は存在しない。
(2) 小中部会では、議題の内容によって、実施機関に加えて市内の小学校長及び中学校長が、実施機関から付与されているメールアドレスを用いて、それぞれ別に登録されている各メーリングリスト(以下「本件メーリングリスト」という。)に資料を添付し、送信することがある。本件メーリングリストは、小中部会のみならず、実施機関や研修委員会、市内の小学校長及び中学校長が組織する任意団体である春日井市小中学校長会(以下「校長会」という。)の活動において利用されており、管理者は実施機関である。
小中部会に関して送信されるメール及び添付資料は、あくまで本件メーリングリストでのやり取りの中での書類であり、組織共用性のある公文書ではない。また、本件メーリングリストを利用して、小中部会の出席の取りまとめや、小中部会の議論の経過及び結果をまとめて送信することはない。 - 実施機関は、上記1の主張の後に実施された審査会からの聞取り調査において、おおむね次のとおり主張を追加した。
(1) 報告書に記載されている小中部会は、校長会に置かれた小学校部会及び中学校部会のことである。研修委員会の中に小中部会は存在しない。
(2) 実施機関、校長会及び研修委員会はそれぞれ別組織であるため、実施機関は、当初、小学校部会及び中学校部会の「要項」を公文書として保有していなかった。しかし、以前の審査会による答申(平成25年度諮問第32号、同34号及び同35号)において、実施機関が校長会の文書を組織として一切保有しないというのは疑問がある旨の指摘を受けたことも考慮して、実施機関は、本件開示請求を受けた際に、関係文書として「要項」を校長会から取り寄せて開示した。同「要項」はあくまでも校長会に置かれた小学校部会及び中学校部会の資料であり、研修委員会の活動実績を示すものではない。
第4 調査審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、次のとおり調査審議を行った。
- 平成27年1月8日 開示決定の通知のあった日
- 平成27年2月10日 異議申立てのあった日
- 平成27年5月11日 諮問のあった日
- 平成27年5月11日 実施機関から意見書を収受
- 平成27年6月8日 異議申立人から意見書を収受
- 平成27年7月30日 審議、異議申立人の口頭意見陳述、実施機関の説明
- 平成27年8月21日 審議
- 平成27年9月28日 審議
- 平成27年10月26日 審議
- 平成27年11月30日 審議
第5 審査会の判断
- 本件対象文書について
(1) 本件開示請求において開示を求めた文書について
異議申立人が本件開示請求において開示を求めた文書は、本件開示請求に係る公文書開示請求書(以下「本件開示請求書」という。)の記載内容及び本件開示請求時における異議申立人の意思に基づいて判断すべきである。
本件開示請求書には、本件開示請求において開示を求める公文書として、「1.別紙『平成25年度春日井市教職員研修委員会活動実績報告書(管理職研修(校長研修))の『事業名』1、2、4欄の『事業内容』に関するすべての文書(復命書も含む)。『1』に関しては、公費出張の場合、旅費支給関係文書も含む。」と記載されている。当該記載内容からは、異議申立人が開示を求めている文書は、研修委員会の活動実績に関する文書であると考えられる。
また、異議申立人は、異議申立書及び意見書において、研修委員会の活動内容が「雑談」ではないかという点を問題視している。このことから、異議申立人は、本件開示請求時においても、研修委員会の活動内容を知るために本件開示請求をするという意思を有していたことが推認される。
上記のような本件開示請求書の記載内容及び本件開示請求時における異議申立人の意思からすれば、異議申立人が本件開示請求において開示を求めた文書は、「研修委員会の活動実績のうち、報告書の『事業名』1、2及び4欄の『事業内容』に関する全ての文書」であるといえる。
(2) 本件異議申立てにおいて開示を求めている文書について
そうすると、異議申立人が本件異議申立てにおいて開示を求めている公文書(以下「本件対象文書」という。)は、「『校長会の小中部会に関する全ての文書』から『要項』を除いたもの」ではなく、あくまでも「『研修委員会の活動実績としての小中部会に関する全ての文書』から『要項』を除いたもの」である。 - 各組織の位置付けについて
各組織の位置付けについて、実施機関の説明並びに春日井市教職員研修委員会規約(以下「研修委員会規約」という。)及び春日井市小中学校長会規約(以下「校長会規約」という。)によると、次の事実が認められる。
(1) 研修委員会について
研修委員会は、研修委員会規約に基づき組織されており、教職員に対する研修事業の適正かつ円滑な実施及び運営を図ることを目的とした任意団体である(研修委員会規約第2条)。教育長が委嘱する20名以内の委員で組織され(研修委員会規約第5条)、下部組織である各専門部会(研修委員会規約第8条第1項)のいずれかには、市内の教職員のほぼ全員が所属している。教職員は実施機関の承諾のもと、公務として研修委員会の業務を行っている。
管理職研修(校長研修)部会は、研修委員会の下部組織であって、活動内容として、各種研究大会に参加したり、研修を開催している。報告書に記載のある小中部会は、研修委員会の下部組織ではない。そもそも研修委員会の内部組織としての小中部会は存在しない。
(2) 校長会について
校長会は、校長会規約に基づき組織されており、春日井市教育の伸展向上と会員相互の研修等を行うことを目的とした任意団体である(校長会規約第3条)。市内の小学校長及び中学校長の全員で組織され(校長会規約第2条)、実施機関の承諾のもと、公務として校長会の業務を行っている。
校長会の内部組織として、小学校長の全員で組織される小学校部と、中学校長の全員で組織される中学校部が存在する(校長会規約第2条)。
(3) 実施機関、研修委員会及び校長会の相互関係
実施機関、研修委員会及び校長会は、目的及び構成員において共通又は類似する部分が少なくなく、その業務も実施機関の公務として行われている。しかし、研修委員会及び校長会は、それぞれ異なる規約に基づき組織されており、三つの組織はそれぞれ独立した別組織であるといえる。
(4) 報告書に記載されている小中部会について
報告書に事業内容が記載されている小学校部会及び中学校部会は、校長会の内部組織としての小学校部及び中学校部のことを指す。両者を併せて小中部会と記載している。実施機関もそのように説明しており、この小中部会が、本来の活動とは別に研修委員会の活動を代わって行った事実は認められない。
とすれば、報告書の「4 小中部会」「事業内容」の記載は、研修委員会としての活動実績を示すものではないと言わざるを得ない。
(5) 本件メーリングリスト
実施機関は、本件メーリングリストが研修委員会の活動にも利用されていると説明したので、審査会は、実施機関を通じて、平成25年度から平成27年度の間の校長会の小学校部会及び中学校部会で使用するために本件メーリングリストに送付されたメール本文及び添付資料のうち現存するものの提出を受け見分した。しかしながら、研修委員会の活動に関するメール本文及び添付資料の存在は確認できなかった。 - 本件対象文書の存否について
上記1のとおり、本件対象文書は、「『研修委員会の活動実績としての小中部会に関する全ての文書』から『要項』を除いたもの」であるところ、上記2のとおり、そもそも報告書「4 小中部会」「事業内容」の記載は、研修委員会の活動実績を示すものではなく、また、本件メーリングリストにも本件対象文書に該当するものはなかったので、本件対象文書は物理的に存在しないと言わざるを得ない。
ただし、実施機関は本件開示請求に対して「要項」を開示しているが、「要項」はそもそも本件開示請求において開示を求められた文書ではない。かかる「要項」を開示したことや、実施機関がその後も研修委員会と校長会の小学校部会及び中学校部会の関係を明確にしないで説明をしたことは、それらが本来別組織であり、各活動も明確に区別されなければならないのに、それがなされていないことを示すものと言え、疑問なしとしない(後述する本件メーリングリストの共用も各組織の区別が明確になされていない表れのひとつであり、不適切である。)。 - 結論
以上により、本件公文書開示決定については上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第6 付言
上記第5.2のとおり、実施機関、研修委員会及び校長会は、それぞれ独立した別組織である。しかし、上記第3.1(2)で実施機関が主張しているように、本件メーリングリストは、実施機関、研修委員会及び校長会それぞれの活動において利用されている。そうすると、本件メーリングリストを用いて、一つの組織において必要な情報のやり取りが、別組織である他の二つの組織にも伝わっていることになる。
実施機関、研修委員会及び校長会の活動及び構成員には共通する部分があるとして、本件メーリングリストを用いて、三つの組織全てにおいて情報のやり取りをする必要がある場合が存在することが、一概に否定されるものではない。しかし、この点を踏まえても、本件メーリングリストを用いた情報のやり取りの全てが、三つの組織全てにおいて必要であったとは考え難い。そうすると、実施機関としては、本件メーリングリストを用いることにより、実施機関内部で情報のやり取りをすれば足りるものについてまで、不必要に研修委員会及び校長会にも伝えていた場合があったと考えられる。
このように、実施機関が不必要に別組織に情報を発信することは、情報(メールに文書が添付された場合は当該文書を含む。)の管理として不適切であると言わざるを得ない。この点は、情報の受け手が同一人物であっても、別組織の異なる立場としては受け取るべきではない情報が存在し得るため、看過することはできない。
また、本件メーリングリストは、実施機関が管理をしている。そうすると、研修委員会及び校長会が本件メーリングリストを利用する際には、実施機関が研修委員会や校長会のために本件メーリングリストの維持管理の負担をしていることになる。実施機関としては、研修委員会及び校長会がこのような便宜を享受していることにつき、理由を説明する義務があるが、合理的な理由は示されていない。
以上のことから、実施機関は、それぞれの組織が別々のメーリングリストを適切に使い分けること等を含め、本件メーリングリストの今後の使用方法について検討し、情報の適正な管理に努めるべきである。
第7 答申に関与した委員
近藤真、高松淳也、富田隆司、尾関栄作、森幸子