春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第62号)
春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第62号)
第1 審査会の結論
春日井市長(以下「実施機関」という。)が審査請求人に対して平成29年11月13日付けで行った29春環第376号公文書不開示決定(以下「本件第一決定」という。)及び同日付けで行った29春環第393号公文書不開示決定(以下「本件第二決定」という。)については、妥当である。
第2 事案の概要
本件第一決定に係る開示請求の対象公文書は、公害状況調査報告書:整理番号27-262、No.301に記載された二世帯住宅に設置された太陽光発電施設に係る春日井市住宅用地球温暖化対策機器設置費補助金(以下「本件補助金」という。)の交付申請書全部並びに本件補助金の請求書及びその金額がわかる文書である。また、本件第二決定に係る開示請求の対象公文書は、同太陽光発電施設に係る本件補助金交付申請後に発行している文書で、補助金交付額確定通知書、その起案文書の表紙、それに添付されている文書及び本件補助金の請求書を受理した後に行った補助金交付の手続に係る文書である。以下、本件第一決定及び本件第二決定に係る開示請求の対象公文書を併せて「本件対象公文書」という。
実施機関は、本件対象公文書が存在しているか否かを答えるだけで、春日井市情報公開条例(以下「情報公開条例」という。)第7条第2号の個人識別情報に該当するとして、情報公開条例第10条の存否応答拒否として本件第一決定及び本件第二決定を行った。
第3 審査請求人の主張の要旨
- 審査請求の趣旨
本件第一決定及び本件第二決定の取消しを求めるものである。 - 審査請求の理由
審査請求人が主張する審査請求の主たる理由は、審査請求書及び審査請求人の口頭意見陳述によると、おおむね次のとおりである。
(1) 過去の建築指導課の開示決定について
平成28年7月22日に、平成28年3月23日に建築指導課に指導の申立てをした通報等処理票・経過表にある相手方が建築指導課に提出した文書等の開示を受けている。通報等処理票は、主要用途、一戸建ての住宅、棟別用途、一戸建ての住宅となっている。二世帯住宅との記載はない。建築主は所有者であっても一戸建ての住宅に居住するとは限らない。誰でも居住することはできる。また一戸建ての住宅に三世帯が居住していてもそこに居住する人と特定の個人を結びつけることができない。
(2) 過去の環境保全課の開示決定について
平成28年3月1日に環境保全課に苦情の申立てをした。その時に発生源者の住所と氏名の一部を通報している。平成28年4月11日に公害状況調査報告書の開示を受けた。その時開示しないこととした部分は、住所、氏名、連絡先とし、理由は、個人に関する情報であり、特定の個人を識別することができるためとの理由で情報公開条例第7条第2号により不開示とし、その他の部分は開示をしている。個人に関する情報は全て不開示として、特定の個人を識別、結びつけることができる部分も全て不開示となっている。二世帯住宅との部分は開示している。
その後に、公害状況調査報告書の平成28年3月15日後の分の開示を平成29年3月29日に受けた。その文書に記載のある発生源の騒音測定を行った。その下部に作図があり、発生源者宅、申立者敷地、申立者宅と記載して、個人情報で特定の個人を識別することができるため不開示とするところを環境保全課は開示した。一戸建ての住宅に二世帯が居住してもそこに居住する人と特定の個人を識別することを結びつけることはできない。
(3) 建築指導課と環境保全課の開示及び交付申請書等の存否について
本件第一決定及び本件第二決定は、交付申請書などの文書が不存在であるとの理由によるものではないので、本件対象公文書は存在すること、また関係者は本件補助金の申請が無いのであれば、一切情報を伝えることを拒否する必要はないことから、本件補助金の申請は有ったことになる。
建築指導課と環境保全課は、開示請求者にとって個人を識別することができる部分は全て不開示とし、情報公開条例第7条第2号及び第3号に該当しない部分は全て開示している。本件補助金の申請書には、事業者の方が作成する部分がある。上記不開示情報に該当する部分は全て不開示として、その他の部分は開示をすることができる。
ある時に環境政策課で担当者と話し合いの中で、本件補助金の交付を行ったと聞いている。
また、建築指導課及び環境保全課は文書を開示するとき、その文書に記載した申立人又は通報者は、審査請求人と同一人物であると認識していて、一部開示決定を行っている。このように情報公開条例第7条に規定する不開示情報に該当しない部分は、公文書開示請求を拒否することはできない。
(4) 環境政策課が開示請求を拒否した理由について
建築主は市の職員であるが、春日井市生活環境の保全に関する条例(以下「生活環境保全条例」という。)第8条(騒音又は振動による生活環境への配慮)に規定している義務規定を順守せず、本件補助金の交付申請を行い、公金を受け取っている。本件補助金の交付要綱では、生活環境保全条例第8条に規定していることは本件補助金の審査の対象に含まれていないので、環境政策課は適法かどうかの確認を一切しないまま、適法でなくても公金を支払い続けている。この事実が発覚することとなるため、実施機関は開示を拒否している。
(5) 不開示理由の変更について
実施機関は、本件第一決定及び本件第二決定に係る各通知書では、情報公開条例第7条第2号及び第10条を存否応答拒否の理由としていたが、弁明書では情報公開条例第10条のみを理由としており、理由の変更は不当である。
第4 実施機関の説明の要旨
- 実施機関は、弁明書及び平成30年3月26日に実施された口頭での説明において、おおむね次のとおり主張した。
(1) 審査請求人から提出された審査請求書の記載からも明らかなとおり、審査請求人は、公害状況調査報告書の「発生源」の「所在地」、「名称」に記載されている情報を特定しているものであることから、本件対象公文書の存在の有無を決定することで、本件補助金の申請に関して特定の個人が行った(又は行わなかった)という情報公開条例第7条第2号の個人情報を開示することとなるため、情報公開条例第10条により、その存否を明らかにしないで、公文書開示請求を拒否したものである。
なお、当該建築物が一戸建ての住宅か二世帯住宅かの違い、所有者が居住しているかどうか、当該建築物に居住する形態が単世帯であるか、二世帯であるか、三世帯であるかの違いを考慮して決定がなされたものではない。
(2) 環境政策課の担当者が審査請求人に対し、本件対象公文書に係る太陽光発電施設につき、本件補助金の交付を行ったと話したことはない。
(3) 弁明書において情報公開条例第7条第2号という文言の記載はないが、情報公開条例第10条による存否応答拒否は、本件対象公文書の存否が情報公開条例第7条第2号に該当することを前提としており、理由を変更したものではない。
第5 調査審議の経過
- 平成29年11月13日 本件第一決定及び本件第二決定の通知をした日
- 平成30年1月29日 本件第一決定に係る審査請求のあった日
- 平成30年2月9日 本件第二決定に係る審査請求のあった日
- 平成30年2月19日 実施機関から各審査請求に係る弁明書を収受
- 平成30年3月6日 審査庁が各審査請求を併合
諮問のあった日 - 平成30年3月16日 審査請求人から資料を収受
- 平成30年3月26日 審議、審査請求人の口頭意見陳述及び資料の提出、実施機関の説明の実施
- 平成30年4月19日 審議
第6 審査会の判断
- 情報公開条例第7条該当性について
公害状況調査報告書は、申立人の氏名及び住所や発生源の所在地(住所)、名称(氏名)及び対応者氏名等の個人識別情報が黒塗りとされて審査請求人に開示されている。そのため、通常であれば、審査請求人は本件対象公文書に係る補助金の申請者を識別できないこととなる。しかし、本件第一決定及び本件第二決定に係る各公文書不開示決定通知書の記載から、次の事実が認められる。
すなわち、審査請求人は、平成28年3月24日付けで、公害状況調査報告書のうち平成28年3月1日に苦情の申立てをしたものを開示請求しており、同日付けで審査請求人も公害苦情を申し立てていたところ、実際に存在した対象文書は1通のみであった。そして、その1通が審査請求人に開示されたことから、審査請求人は、当該公害状況調査報告書に記載された申立人が自身であること及び発生源が誰であるかを認識したことになる。
そうすると、審査請求人にとっては、仮に本件対象公文書が存在していれば、本件補助金の交付申請者の氏名等を不開示としても、特定の発生源者が本件補助金の交付申請をしたことが判明することとなる。また、審査請求人にとっては、仮に本件対象公文書が存在していなければ、特定の発生源者が本件補助金の交付申請をしていないことが判明することとなる。このような特定の発生源者による本件補助金の交付申請の有無という情報は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものであり、不開示情報に該当する(情報公開条例第7条第2号)。この際、本件補助金の対象が二世帯住宅か否かは、不開示情報該当性に影響を及ぼさない。
なお、弁明書には情報公開条例第7条第2号という文言の記載はないが、後述する情報公開条例第10条による存否応答拒否は、実施機関が説明するとおり、本件対象公文書の存否が情報公開条例第7条第2号に該当することを前提としているから、実施機関が弁明書において理由を変更したものとはいえないことを付言しておく。 - 情報公開条例第10条の存否応答拒否について
原則として、開示請求があったときは、当該開示請求に係る公文書の存否を明らかにした上で、開示請求に係る公文書に情報公開条例第7条各号に掲げる不開示情報が記録されている場合を除き、実施機関は、当該公文書を開示する義務がある。しかし、開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、例外的に、当該公文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。(情報公開条例第10条。以下「存否応答拒否」という。)
本件対象公文書は、上記1で述べたとおり、存在しているか否かを答えるだけで、審査請求人との関係では不開示情報を開示することとなる。公文書開示請求は、原則として開示請求者が誰であるかによって開示不開示の判断を異にしない制度であるが、本件のように、一般人が知り得ない情報を知っている開示請求者に対しては、そのことを前提とした不開示判断をすることも、情報公開条例第7条の趣旨からは許されるものと考えられる。よって、実施機関が本件第一決定及び本件第二決定のように存否応答拒否を行ったことは妥当である。
なお、存否応答拒否は、その言葉のとおり、対象公文書が存在するとも存在しないとも答えないものである。実施機関が本件対象公文書の不存在を理由とする公文書不開示決定をしていないからといって、本件対象公文書が存在するとは限らないし、本件対象公文書が存在しないとも限らないことを念のため述べておく。
また、環境政策課の担当者が審査請求人に対し本件補助金の交付を行ったと話したか否か及び発生源者の職業や勤務先については、存否応答拒否の妥当性を左右するものではない。
さらに、審査請求人は、環境保全課が作成した公害状況調査報告書及び建築指導課が作成した通報等処理票が一部開示決定されたことを挙げて本件対象公文書についても同様にすべきと主張しているが、本件対象公文書の存否を応答することは、第三者である特定の個人による本件補助金申請の有無を明らかにすることになるから、自身の苦情申立てに基づく公害状況調査報告書等の一部開示決定とは異なり、実施機関が存否応答拒否を行うことは妥当である。 - 結論
以上により、本件第一決定及び本件第二決定については、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第7 答申に関与した委員
尾関栄作、高松淳也、富田隆司、森幸子、金井幸子