春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第26号)
第1 審査会の結論
春日井市長が平成24年2月8日付け23春環保第1076-2号で行った公文書一部開示決定については、別紙に掲げる部分を除き開示すべきである。
第2 異議申立人の主張の要旨
- 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第6条に基づく開示請求に対し、平成24年2月8日付け23春環保第1076-2号により春日井市長が行った一部開示決定を取り消し、非開示部分全ての開示を求めるものである。 - 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書、意見書及び口頭意見陳述によると、おおむね次のとおりである。
(1) 諮問実施機関は不開示理由説明書の中で、「水質汚濁防止法に基づく立入検査マニュアル策定の手引き(平成18年4月)(以下「マニュアル」という。)」の記載を引用し、行政処分の発動は留保し、行政指導の範ちゅうに収めていることが多々見られると主張している。今回は、非公開とすることの妥当性が問題となるが、マニュアルの記載自体が、水質汚濁防止法(昭和45年12月法律第138号。以下「水濁法」という。)の立法趣旨、立法経緯からして適正かどうかに疑問がある。すなわち、不開示理由の中に適正かどうか疑問のある記載を掲げることには問題があり、本理由は不開示理由から排除することが適切である。
(2) 諮問実施機関は、「不開示としている事業場等の情報については、春日井市の事業場等の情報が一切ない」ことを不開示理由の一つとして掲げている。条例上では、作成した文書も、収受した文書も区別することを予定していないことから、仮に春日井市の事業場等の情報が一切ないとしても、開示・不開示の判断に直接影響するものではないと考えられる。
(3) 諮問実施機関は、「排水基準超過の要因、排出水量、事業場の規模等、人の健康、生活環境等に与えた影響が不明であり、当該事業場等に行政処分が行われたことも不明であること」を不開示理由の一つとして掲げている。条例第2条第2号は、公文書を「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」と定義している。要するに「実施機関の職員が取得した文書」は公文書である。条例第7条においては、不開示情報が記録されている場合を除き、開示しなければならないとされている。今回、諮問実施機関が掲げる排水基準の超過の要因、排出水量、事業場の規模等、人の健康、生活環境に与えた影響及び当該事業場等に行政処分が行われたことといった要素については、不開示情報に該当するかを判断する上で必要がないことであって、非公開理由にならない。
(4) 諮問実施機関は、「全ての年度における排水基準を犯した事業場の事業場名、所在地に関する情報が掲げられていないことから、当該資料に掲げられる事業場のみの情報を公開することは、公平性を欠くことも懸念される」ことを不開示理由の一つとして掲げている。しかし、これまでの経緯からして、申立人は、環境省に対して、全ての年度における排水基準を犯した事業場名及び所在地に関する情報の開示を求めたが、実際に残っている情報が、今回の請求対象の情報のみであり、結果として、全ての年度における排水基準を犯した事業場の事業場名、所在地に関する情報が掲げられていないのであって、諮問実施機関の説明は非公開理由にならない。
(5) 諮問実施機関は、「環境省では、当該事業場の実情を熟知する関係都道府県・市と協議を行った上、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。以下「情報公開法」という。)第5条第2号及び第4号の規定により、当該情報を不開示とする一部開示決定を行っており、情報公開法と条例の規定が同一であることから、環境省の不開示決定に追随して判断する」ことを不開示理由の一つとして掲げている。しかし、申立人が環境省に対して、当該不開示の決定過程について照会したところ、環境省から、当該事業場の実情を熟知する関係都道府県・市と協議を行った上で不開示決定をしたものではなく、施行状況調査に協力している海上保安庁から開示に対する懸念の意思表示が環境省に対してあったことが理由であると説明されており、諮問実施機関の主張は、事実と異なる。また、環境省が送付したメールの文面から明らかなように、環境省の意向を「一方的」に通知するものであり、一般読者の普通の読み方からすれば、協議という評価がされるものではない。よって、諮問実施機関の説明は非公開理由にはならない。
(6) 諮問実施機関は、「国等との協力関係又は信頼関係が著しく損なわれる」ことを不開示理由の一つとして掲げている。条例第7条第5号によれば、「公にすることにより、国等との協力関係又は信頼関係が著しく損なわれると認められる」とされている。ここでは、「著しく」という字句が明示的に記されており、不開示理由に該当するためには、「著しく損なわれる」ことが必要であり、不開示理由説明において、「著しく」の蓋然性が明らかにされることが必要である。今回、非開示とされた部分が開示された場合、国等との協力関係又は信頼関係が著しく損なわれるという因果関係が不明であり、条例が予定する「認められる」状態に至る蓋然性が不明であり、諮問実施機関の説明は非公開理由にならない。
(7) 諮問実施機関は、「国がこれまで任意で情報提供してきた今般の開示請求対象文書と同様な参考情報について、春日井市が他自治体と同一に受けることができなくなる可能性、更には全ての自治体に対して環境省が任意的情報提供をしなくなる可能性は否定できない」ことを不開示理由の一つとして掲げている。申立人は、過去において国が諮問実施機関に対して、今回と同様な参考情報を情報提供した事実があるのか否かについては不知である。しかし、諮問実施機関の主張を仮定して検討すると、同様な参考情報の範囲を考察することとなる。本件対象文書については、環境省が地方公共団体に対して行った情報提供であると思われる。諮問実施機関が、環境保全事務に関して、国に関わらず協力・信頼関係を構築、維持することは望ましいものである。本件対象文書の内容からすれば、今回は環境省が、水濁法関連事務において関わりのある地方公共団体に情報提供したことは「任意である」ことがわかる。すなわち、国としては、法の運用において、原則は地方公共団体等に情報提供する必要がないものであるが、今回は情報提供をしたということである。今回の提供された情報は、水濁法の施行に係る文書であるが、水濁法は複数の条文からなっており、環境省においては、水質汚濁防止法施行状況調査の概要は環境省のホームページに過去15年間程度公表しており、今回の情報は特に水濁法第12条及び第14条第2項に限る情報となっている。これまで、当該ホームページにおける公表によって、水濁法の施行について支障が生じた事実が確認されておらず、より詳細の限られた情報が開示されたとしても、直接、水濁法の施行について支障が生じるとは考えにくく、諮問実施機関の説明は非公開理由にならない。今回の任意の情報提供は、国の情報公開法の事務の過程でなされた情報提供であり、当該任意の情報提供自体が、日々適正に遂行されている地方公共団体の水濁法に係る事務に影響するという因果関係が、通常は非公開理由に当たるという程度のものではなく、特に条例においては、非公開理由として「著しく損なわれ」という状況を予定していることから、条例第7条第5号に該当しないと評価することが適切であり、諮問実施機関の説明は非公開理由にならない。
(8) 諮問実施機関は、条例第7条第3号アに該当すると説明していた情報の一部を開示することとしたが、残りは依然として不開示情報に当たるとしている。諮問実施機関は、地方公共団体について記載されている場合及び事業者自らがホームページにより公表している場合については、不開示情報に当たらないとしたものである。そうすると、先に述べた要素がない場合の不開示情報該当性について問題があるものである。そもそも諮問実施機関が説明した不開示理由は、当該事業場名を開示することで、法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれが存在するというものである。そこで、不開示情報の変更理由を見ると、実際に公表されている事例については、法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益が害された事実が存在しないということである。そうすると、今回開示された場合の考え方を類推適用した場合、不開示とされている事業場名を開示したとしても、法人等の権利等が害されるおそれがあると言えるのか相当疑問であり、当該事業場名等は全部開示すべきである。
(9) 諮問実施機関は、今後の国との関係を損なうことを避けることを重視しているように読み取れる。水濁法が施行された昭和40年代は、水濁法に係る事務はいわゆる機関委任事務としてなされたものであるが、現在は自治事務と環境省は整理している。そうすると、自治事務の関係で施行状況調査が行われたものであり、その集計結果自体は、国に直接影響するという性質のものと評価することは疑問であり、諮問実施機関の説明は妥当かどうか疑問である。
(10) 法人等の名称については、今回の場合、水濁法第12条に違反し、刑事罰を受けた例であることから、正確な事実認定の上で、違法行為を行ったことが確認されるものである。諮問実施機関は、正当な利益を強調しているけれども、懲役刑や罰金刑が確定したような場合は、刑事罰を受けた事実を知られることになって、処罰されたものの利益を損なう結果が生じたとしても、正当な利益に当たらないというのが、健全な解釈であり、諮問実施機関の主張は適正かどうか疑問がある。
(11) 違反摘発の契機については、直罰規定であることから、行政が把握すれば告発しなければならないものであり、警察が把握すれば、検挙しなければ業務放棄ということになるのであるが、いずれにしろ、同種の違反を誘発するという因果関係は、通常は理解されるものではないものである。また、違反の内容は、水濁法の法体系から、規制基準を超えた場合以外にありえず、違反項目については既に明らかになっているものであり、本件文書については、必ず都道府県の警察本部との連絡をとることになっているものであるから、警察が規制基準を超えたことを把握した場合の測定値が記載されているということで、情報の性質は明らかになっているものである。
(12) 今回の不開示決定の主な理由は、「法人の名称」と「処罰の実態の情報」に大別されるものであり、特に「処罰の実態の情報」に関しての評価の問題という特殊事情がある。不開示理由の核心は、処罰の実態の情報という断片的な事実の情報を整理して総覧した場合、実際に処罰に付すこととなる一定の基準が推察されるところにある。推定であっても、その推定が実際に当たってしまった場合に、公開した場合と同様の結果が生じることが容易に予想されるのであれば、事実上の公開に当たるものとして、検討することとなると思われる。今回、海上環境刑事判例集(以下「判例集」という。)という市販されている文献の写しを提出するが、そこに記載されている実際の処罰された事例の情報を総合すれば、今回諮問実施機関が問題としている一定の基準が推察される。そうすると、今回の非公開部分そのものというよりも、諮問実施機関が問題視する事態は、慣行として公となっているものであり、本質として今回の非公開決定は適切でないということになる。
(13) 判例集には、具体的事業場の名称と所在地までは記載されていないものの、公開されている範囲の情報でも、現地では具体的事業場がわかることもあるものである。そうすると判例集に記載されている事業場については、利益を損なっていることが必要となるが、利益を損なっていることは不明であり、また、正当な利益であるとは通常は考えられない。そうすると、今回の諮問実施機関の主張にあるような、正当な利益を損なうおそれというのは、非公開理由にはならない。
(14) 判例集には、主文と罪となる事実が判決に記載されている事例が多くあり、実際に水濁法第12条違反の場合は、周辺環境の影響や、行政指導の状況については、処罰に必要なものとはなっていない。そうすると、諮問実施機関の「排水基準超過の要因、排出水量、事業場の規模等、人の健康、生活環境等に与えた影響が不明であり、当該事業場等に行政処分が行われたことも不明であること」という説明は、今回の非公開理由に直接つながるものではない。
(15) 今回の非公開部分は、時間と金を際限なく用いれば、いずれはわかる情報であり、諮問実施機関の非公開理由は本質的に不適切である。申立人は原文を見ることができないので、諮問実施機関が主張するような理由が条例に照らして妥当かどうかは、審査会に判断してもらう必要がある。よって、審査会には原文を見て、適正な答申を求めるものである。
第3 諮問実施機関の説明の要旨
諮問実施機関の説明を総合すると、本件開示請求を一部開示とした理由は、おおむね次のとおりである。
- 開示しないこととした部分
事業場名、事業場の所在地、違反摘発の契機、違反の内容(数値及び原因)及び判決・罰則の内容 - 開示しないこととした根拠規定
(1) 公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位等を害するおそれがあるため、条例第7条第3号アに該当する。
(2) 公にすることにより、犯罪の予防又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるため、条例第7条第4号に該当する。
(3) 国、地方公共団体等との間における協力、協議、依頼等により国が作成した文書について、情報提供を受けたものであって、公にすることにより国等との協力関係又は信頼関係が著しく損なわれると認められるため、条例第7条第5号に該当する。
(4) 国、地方公共団体等が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務の性質上、適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、条例第7条第7号に該当する。 - 不開示の理由について
(1) 水濁法第12条第1項では、「排出水を排出する者は、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出してはならない。」、第14条第2項では、「総量規制基準が適用されている指定地域内事業場から排出水を排出する者は、環境省令で定めるところにより、当該排出水の汚濁負荷量を測定し、その結果を記録し、これを保存しなければならない。」と規定されている。これに対して、水濁法第31条第1項では、「第12条第1項の規定に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」、第33条第3項では、「第14条第2項の規定による記録をせず、又は虚偽の記録をした者は、20万円以下の罰金に処する。」ことが規定され、いわゆる直罰規定としている。
また、水濁法第13条第1項では、排水基準を超過するおそれがある場合における行政処分の措置として、「都道府県知事は、排出水を排出する者が、その汚染状態が当該特定事業場の排水口において排水基準に適合しない排出水を排出するおそれがあると認めるときは、その者に対し、期限を定めて特定施設の構造若しくは使用の方法若しくは汚水等の処理の方法の改善を命じ、又は特定施設の使用若しくは排出水の排出の一時停止を命ずることができる。」と規定されている。
(2) 環境省水・大気環境局が作成したマニュアルでは、「改善命令等は、基準の遵守義務を担保する手段として法に規定されているものであり、必要な場合には発動することが求められるものである。なお、周辺の公共用水域に与える影響が軽微であり、事業者がすでに改善の意思を示しているような場合等は、速やかに対応可能な行政指導(口頭指導、文書指導)で同様の効果を得ることができる場合もある。」とされていることから、都道府県等では、排水基準違反又はそのおそれを確認した場合においても、違反の程度が軽微若しくは速やかに改善が実施され又は改善途中である場合には、行政処分の発動は留保し、行政指導の範ちゅうに収められることが多々見られる。
(3) 今回、不開示としている水濁法第12条の規定による一律排水基準違反を犯した事業場の情報については、当市に関する情報(市内の事業場情報及び当市が行った行政処分等に関する情報)は一切なく、排水基準超過の要因が、事故や災害等に伴う一過性のものであったのか、管理体制の不備等により常態として繰り返されていたものか等、詳細は不明であり、更に、排出水量や事業場の規模等も不明のため、排水基準を超過したことによる周辺の公共用水域に与えた影響や人の健康、生活環境等に与えた影響も確認できず、都道府県等が改善命令等行政処分を行ったかも不明である。
(4) 開示請求のあった事業者名等の情報は、環境省に存在していた施行状況調査の資料一式であり、全ての年度における排水基準を犯した事業場名、所在地に関する情報が掲げられていない(当該資料において、情報量に差が見られる。)ことから、当該資料に掲げられる事業場のみの情報を公開することは、他の排水基準を犯した事業場との公平性を欠くことも懸念される。
(5) こうした状況の中、環境省では、平成24年1月6日に情報公開法第5条第2号の規定により「法人の名称、事業場名及び所在地を公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」及び第5条第4号の規定により「立入検査等の年月日、判決内容、違反内容及び違反原因を公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」として、当該情報を不開示とする一部開示決定を行っている。
(6) 情報公開法第5条第2号に規定する事項は条例第7条第3号アの規定と同一であることから、環境省の不開示決定に追随し、「事業場名及び所在地については、公にすると当該法人が過去に排水基準違反を行ったことが明らかとなり、法人の信用失墜を招き、事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれる可能性がある」と判断する。
(7) 同様に、情報公開法第5条第4号に規定する事項は、条例第7条第4号の規定と同一であることから、環境省の不開示決定に追随し、「判決内容(罰則内容)、違反内容(数値、原因)に関する情報を公にすることにより、同種の違反を誘発するなど、犯罪の予防に支障を及ぼすおそれがある」と判断する。
(8) 平成23年12月15日付けの環境省からのメールは、環境省が開示決定を行う前の検討段階の情報提供であって、開示決定後の事後通知とは異なることから、異議申立人が主張する「一方的な決定と通知」とは解されない。事実、海上保安庁と協議が実施され、環境省の判断が全部開示から一部開示へと内容が変更しており、このことからすると、環境省が情報提供をしたことは、関係都道府県や市等が意見を述べる機会を付与したと考えられる。
(9) 環境省が関係都道府県及び市等と協議を行った上、不開示と判断した情報を当市が開示することで、今後、国及び関係都道府県が行う水濁法に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすことは必然的である。また、それによって、国等との協力関係又は信頼関係が著しく損なわれ、国がこれまで任意で情報提供してきた今般の開示請求文書と同様な参考情報について、当市が他自治体と同一に受けることができなくなる可能性、更には、全ての自治体に対して環境省が任意的情報提供をしなくなる可能性は否定できない。このことから、条例第7条第5号及び第7号に該当する。
(10) 以上により、本件対象文書を条例第7条第3号ア、第4号、第5号及び第7号に該当するとして一部開示決定をしたことは妥当である。
第4 調査審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、以下のとおり調査審議を行った。
- 平成24年2月8日 開示決定等の通知をした日
- 平成24年3月27日 異議申立てのあった日
- 平成24年7月26日 開示決定等の変更通知をした日
- 平成24年8月1日 異議申立ての一部取下げのあった日
- 平成24年8月13日 諮問のあった日
- 平成24年8月13日 諮問実施機関から意見書を収受
- 平成24年9月11日 異議申立人から意見書を収受
- 平成24年11月1日 異議申立人の口頭意見陳述、諮問実施機関の説明、審議
- 平成24年11月29日 審議
- 平成25年1月10日 審議
第5 審査会の判断
- 本件対象文書について
本件対象文書は、環境省水・大気環境局水環境課が「水質汚濁防止法等の施行状況調査事項のうち、排水基準違反を犯した事業場名、所在地及び業種等のわかる資料一切」を情報公開法に基づいて開示請求をされた際、当該請求に係る環境省の判断を水濁法に係る事務を所掌する地方公共団体等に対し、「水質汚濁防止法等の施行状況調査事項に対する行政文書の開示請求について」というタイトルで平成23年12月15日付け及び平成24年1月10日付けで情報提供したメール文書である。本件対象文書はメール本文及び添付ファイルで構成されており、添付ファイルは環境省が開示請求の対象として判断している文書が、平成23年12月15日付けメール文書についてはマスキングなしで、平成24年1月10日付けメール文書については環境省が不開示事由ありと判断した箇所の一部が黒塗りにされた状態で、それぞれ添付されている。 - 諮問実施機関の主張する不開示事由について
本件対象文書を一部開示とした理由について、諮問実施機関は、条例第7条第3号、第4号、第5号及び第7号に該当する事由があることを挙げているため、以下では、条例第7条第3号、第4号、第5号及び第7号該当性について検討する。
(1) 条例第7条第3号該当性について
ア 条例第7条第3号アは、「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」と規定し、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、公にすることにより、当該法人等又は個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものが記録されている公文書は、原則として不開示とすることを定めたものである。
イ 「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」とは、法人等の生産・技術・販売上のノウハウ、経理、人事等の情報で、公にすることにより、法人等の事業活動が損なわれると認められるもの及び法人等の名誉が侵害され、又は社会的信用若しくは社会的評価が低下するものをいい、必ずしも経済的利益の概念でとらえられないものを含むとしている。また、「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」の有無は、当該法人等と市との関係、その活動に対する憲法上の権利の保護の必要性等、それぞれの法人等及び情報の性格に応じて、的確に判断する必要があるともしている(情報公開事務の手引き(以下「手引き」という。)38頁)。
ウ 諮問実施機関は、不開示理由説明書及び口頭説明において、本件対象文書の情報中、水濁法の排出基準違反をしたとされる法人の事業場名及び所在地に関する情報(以下「本件法人情報」という。)は条例第7条第3号アに該当すると主張し、本号ただし書き(人の生命、健康等の保護のため公にすることが必要な情報)への該当性については、過去の諮問実施機関が関与していない事案のため把握ができないので、環境省が情報公開法第5条第2号に該当するとして不開示決定をしていることから環境省の決定に追随したと述べている。なお、環境省に対する情報公開請求における不開示決定理由については、諮問実施機関が環境省に対して意見照会をしており、この照会に対して環境省は、「法人の名称、事業場名及び所在地を開示することは、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれが生じる」と回答しているが、結論のみの回答となっていて具体的な説明はされていない。
エ 上記を踏まえて検討すると、本件法人情報が公になると水濁法の排水基準違反を犯したという過去の事実が明らかになる点では、当該法人の社会的な評価が低下するような不利益があるといえる。しかし、排水基準に違反する行為をしたことが事実である限りは、当該不利益は、自ら犯罪に該当する行為を行った結果によって被るものなのであるから、それをもって法人の「正当な利益」が害されたと考えることはできない。
したがって、本件法人情報のうち、起訴されて刑罰を受けた法人にかかるもの及び、自らのホームページにおいて排出基準違反行為があったことを自認している法人にかかるものについては、条例第7条第3号アの該当性を認めることはできない。
これに対し、本件法人情報のうち、検察庁の処分が「行為者」及び「法人等」のいずれも不起訴とされている案件で、当該法人が自ら違反行為を認めていることが確認できないもの及び、処理が未済とされているものについては、対象となる行為が違法か否かが比較的形式的に判別できるものであるため、海上保安庁が事件を送致している以上実際に違法行為があった蓋然性が高いとはいえるものの、不起訴処分の理由が起訴猶予と明示されているわけではなく、また、裁判による事実認定を経ておらず確実に違法行為があったとは断定ができないことから、当該法人の「正当な利益を害するおそれ」があると考えられ、これらについては条例第7条第3号アの該当性を認めることができる。
(2) 条例第7条第4号該当性について
ア 条例第7条第4号は、「公にすることにより、人の生命、身体、財産又は社会的な地位の保護、犯罪の予防又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報」と規定し、基本的人権の確保と平穏な市民生活を守る観点から、公にすることにより、公共の安全と秩序の維持に支障が生じる情報は、不開示とすることを定めたものである。「支障を及ぼすおそれがある」とは、人の生命、身体、財産等の保護が図られなくなったり、警察活動等が阻害され、又は適正に執行できなくなる可能性がある場合をいう(手引き43頁)。
イ 諮問実施機関は、本件対象文書には春日井市の情報が一切ないため、排水基準違反に関する情報が、条例第7条第4号に該当するかの判断が極めて困難であったと述べる一方、環境省が条例第7条第4号の規定と同一である情報公開法第5条第4号該当として不開示決定したことから、環境省に追随して不開示と判断したと述べている。
しかし、違反情報等は、違反や罰則に関する事実の記載であって、実際の摘発の手法が具体的に記述されているわけではないため、これらを開示したとしても、水濁法の排水基準違反を摘発する活動が阻害され、又は適正に執行できなくなる可能性は通常考えられない。また、そもそも、春日井市の保有する文書について、春日井市に対し条例に基づく開示請求がなされているのである以上、春日井市において条例第7条第4号に該当するとの判断ができないのであれば、同号に基づく不開示決定はできないと考えざるを得ない。
諮問実施機関は、開示することにより、処分に付することとなる一定の基準が推察され、同種の犯罪を誘発するおそれがあるとも述べているが、今回の情報は、水濁法第12条第1項及び第14条第2項の規定で禁止されている違法行為に関するものであり、これに違反した場合は、水濁法第31条第1項及び第33条第3項に規定する罰則の対象となることは法令上明らかであるから、違反情報等が公になり、事例等が明らかになることは、犯罪の誘発よりもむしろ抑制に効果を与えると考えた方が妥当である。
ウ 事案の中には、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第248条により不起訴になったものもあるが、不起訴となった事実があるだけで、不起訴となった事情を推し量ることはできない。つまり、不起訴になった事案と同じ違反内容であれば、必ず不起訴になるとは言えず、不起訴になった事案を公開しても犯罪を誘発するおそれはないと言える。
エ なお、異議申立人の主張にもあるように、公刊されている判例集に、本件対象文書に記載されているものと同一の事案ではないが、違反情報等が記載されている。諮問実施機関は、この判例集を保有しておらず、愛知県内の各図書館にも所蔵されていない特異な書籍であることから、こうした違反情報等は一般に公になっていないと主張している。しかし、当該判例集は、不特定多数の人が購入できる状態にあると認められることから、諮問実施機関の主張は採用できない。
以上のことから、条例第7条第4号の該当性を認めることはできない。
(3) 条例第7条第5号該当性について
ア 条例第7条第5号は、「国、独立行政法人等、他の地方公共団体又は地方独立行政法人その他公共団体(以下「国等」という。)との間における協力、協議、依頼等により実施機関が作成し、又は取得した情報であって、公にすることにより、国等との協力関係又は信頼関係が著しく損なわれると認められるもの」と規定し、これらの情報については不開示とすることとしている。市の行政には国等の協力、信頼関係のもとで、総合的に推進されるものが多くあり、その相関関係を確保する必要性があることから、公にすることにより、これらの関係が著しく損なわれると認められる情報を不開示とすることを定めたものである。
イ 「協議、依頼、協力等」とは、「法令等の規定に基づき、又は任意に行われる指示、照会等をいう」とされている(手引き44頁)。
本件対象文書は、環境省が、情報公開法に基づき開示請求を受けたこと及び対象となった文書の開示する箇所を伝えるために関係地方公共団体へ送信したメールである。また、添付されている水濁法等の施行状況調査に関する文書は、環境省が水濁法等に定められている各規定の施行状況について、その件数や内容等を把握することにより、今後の水環境行政の円滑な推進に資することを目的として作成されたものであり、環境省が水濁法の事務を所掌する地方公共団体に照会をして作成したものである。
しかし、メール本文を含めたこれらの文書は、環境省が情報公開請求を受けたこと及びその対応を関係地方公共団体へ伝えたものであり、諮問実施機関が国や地方公共団体と協議、依頼、協力等によって取得したものとは言えない。
ウ 「公にすることにより、国等の協力関係又は信頼関係が著しく損なわれると認められる」かどうかの判断は、「主観的でなく客観的に明白でなければならず、客観的判断を行うため、必要に応じて国等から意見を聴取する等し、対応するものとする。」とされている(手引き44頁)。
諮問実施機関は信頼関係が著しく損なわれることによって、環境省がこれまで任意で情報提供してきた各関係自治体が参考とし得るような情報について、諮問実施機関が他自治体と同一に受けることができなくなる可能性、更には全ての自治体に対して情報提供がされなくなる可能性が否定できないと述べている。一方で、諮問実施機関は環境省に対して、環境省が不開示とした部分を開示することによって、信頼関係が損なわれるかどうかという問い合わせをしているが、環境省は明確な見解を示さず、諮問実施機関はこの件に関しては書面で意見照会をすることができなかったと説明している。そうすると、環境省が具体的な回答をしていない以上、諮問実施機関の主張は、客観的判断に乏しいと言える。
また、本件開示請求に関しては、当初平成24年2月8日に一部開示決定がなされ、同年3月27日にこれに対する異議申立てがあった後、同年7月26日に一部開示決定が変更され、環境省が不開示とした箇所の一部について開示がなされている。開示・不開示の判断に当たって適用している条例の条項は、基本的に情報公開法における不開示事由に関する条項と同旨であり、その適用について春日井市が環境省の判断とは異なる判断をしたものであるが、そのことにより春日井市と環境省との協力関係又は信頼関係が損なわれたとは特に認められない。
以上の諸点からすると、本件対象文書について別紙に掲げる部分を除いて開示することとしたとしても、春日井市と環境省との協力関係又は信頼関係に影響が全くないかどうかはともかくとして、少なくとも「著しく損なわれる」とは認められず、したがって、条例第7条第5号の該当性を認めることはできない。
(4) 条例第7条第7号該当性について
ア 条例第7条第7号は、「市の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」と規定し、市の機関又は国等が行う事務又は事業の適正な執行を確保する観点から、公にすることにより、事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を不開示とすることを定めたものである。また本号アからオまでには、事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが想定される事項が例示されている。今回、諮問実施機関は、水濁法に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると述べているので、アからオまでの類型には該当せず、本号本文で判断することになる。
イ 「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」とは、事務又は事業に関する情報を公にすることによる利益と支障とを比較衡量した結果、公にすることの公益性を考慮してもなお、当該事務又は事業の適正な遂行に及ぼす支障が看過し得ない程度のものである場合をいう。また、「支障を及ぼすおそれ」は、単なる抽象的な可能性では足りず、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を生じることについて、法的保護に値する蓋然性が認められなければならないとしている(手引き49頁)。
ウ 諮問実施機関は、環境省と海上保安庁の間で開示内容に関する協議 が実施されており、当該事業場の実情を熟知する関係都道府県等と協議を行った上、不開示決定したものを、諮問実施機関が開示することによって、今後、環境省及び関係都道府県等が行う水濁法に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすことは必然的であると述べている。しかし、諮問実施機関は、事務の適正な遂行に支障を及ぼすことについての具体的な説明はしていない。また、当審査会において本件対象文書を見分すると、その大部分は、水濁法の排水基準違反に関する事実(法人情報及び違反情報等)から成り立っているが、排水基準違反を発見する手法、摘発した経過等の具体的記述があるわけではない。そうすると、これらが公になったとしても、水濁法の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは通常は考えられない。現に、本件と同種の情報が前記のとおり判例集という形で公刊されているが、そのことにより水濁法に係る事務の適正な遂行に何らかの支障が出ていると認めるべき事情も存在しない。このことからすると、諮問実施機関の説明は抽象的な可能性の域を出ないものと言わざるを得ない。
以上のことから、条例第7条第7号該当性を認めることはできない。 - 条例第7条第2号該当性について
(1) 諮問実施機関が主張する不開示理由に対する当審査会の判断は上記2のとおりであるが、諮問実施機関は主張していないものの、当審査会が本件対象文書を見分したところ、添付ファイルのうち「昭和52年度防止法第12条違反に対する罰則の適用(直罰)」部分の判決内容の一覧表中には、条例第7条第2号に該当する情報が含まれているので以下検討する。
(2) 条例第7条第2号は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」と規定し、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するため、特定の個人を識別することができるような情報が記録されている公文書は不開示とすることを定めたものである。
(3) 添付ファイルのうち「昭和52年度防止法第12条違反に対する罰則の適用(直罰)」部分の判決内容の一覧表の「2」の行については、事業場名及び事業場の所在地を開示した場合には、一般人が通常入手し得る当該会社の商業登記簿謄本等と照合することによって、同行記載の刑罰の適用対象が特定の個人であると識別することができる。したがって、同行の「事業場名」及び「事業場の所在地」については条例第7条第2号に該当し、不開示とすることが妥当である。この情報は、会社の代表者にかかるものであるため、「事業を営む個人」の情報と同視して条例第7条第2号ではなく同条第3号によって擬律すべきであると解釈する余地もないではないが、その場合であっても、個人の前科という極めて機微性の高い情報であることに照らして、同人の「権利……その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当すると解釈すべきであり、やはり不開示とするのが妥当である。
なお、既に開示されている情報ではあるが、本件対象文書のうち平成23年12月15日付けメール文書の本文に諮問実施機関が記入した本件異議申立人の氏名についても、条例第7条第2号の「特定の個人を識別することができる」情報に該当しているため、本来は不開示とされるべきものであった(不開示事由該当性は、条例第7条各号に該当する事由があるか否かによって判断されるべきものであり、誰が開示請求者であるかによって変わるものではない。)。 - 結論
以上のことから、本件対象文書については、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第6 答申に関与した委員
異相武憲、昇秀樹、堀口久、近藤真、吉岡ミヤ子