春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第30号)
第1 審査会の結論
春日井市教育委員会が平成24年12月12日付け24春教学第1695号で行った公文書不開示決定については、妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
- 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第6条に基づく開示請求に対し、平成24年12月12日付け24春教学第1695号により実施機関が行った不開示決定を取り消し、全ての開示を求めるものである。 - 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書及び意見書によると、次のとおりである。
(1) 尾張教育研究会(以下「尾教研」という。)は、任意団体であるが、その運営関係会議、教科等研究会参加等々、全て公務出張として処理されている。
(2) 県費負担教職員の出張関係は、職員等の旅費に関する条例(昭和29年愛知県条例第1号)第4条第2項に、「旅行命令権者は、電信、電話、郵便等の通信による連絡手段によっては公務の円滑な遂行を図ることができない場合で、且つ、予算上旅費の支出が可能である場合に限り、旅行命令等を発することができる。」と定められている。
(3) つまり、旅行命令権者(本件においては、校長)は、「公務の円滑な遂行を図る」ことを目的として出張を承認するわけであるから、当該出張に関する文書は、原則として公文書である。
(4) 実施機関は「尾教研の運営内容に関与しておらず」と述べるが、市立学校の校長が関与していることは明白である。また、「尾教研で作成された文書については、実施機関として保有するものではなく」と述べるが、市立小中学校も実施機関の一部である。それゆえに、これまでも実施機関の事務局そのものは保有しないが、各校が保有する公文書を開示してきたところである。
(5) さて、開示請求した「協議事項」に関して、出席した校長は、その内容が、公務の円滑な遂行上、必要と認めて、自らに出張を命じたわけである。そして、その「協議事項」は、項目ごとに検討するまでもなく、全く文書も無く協議が行われたものとは考えられないから、文書は存在するはずである。これは、公務上入手した文書であり公文書である。換言すれば、どのような職務で出張をしていたのか市民に対して説明責任があるということでもある。「公務出張であるが、その内容は公表できない」という場合ももちろん想定できるが、はなはだ特殊な場合である。「教育研究会」に関する内容が、特殊な場合に該当するなどとは考えることはできない。実施機関の見解が正しいとすれば、尾教研関係だけでも、市内の加入教職員およそ1300人の出張関係の文書が開示されないおそれがある。もっとも、1年間に、尾教研関係で1300人全員が出張するのか不明であるが(そもそも、任意団体であるから、公務出張で対応するのではなく、必要ならば尾教研に旅費支給を求め、年次休暇を取り、あるいは休日にでも会合を持てばよいのである。)。
(6) よって、請求どおり開示を求める。
第3 諮問実施機関の説明の要旨
実施機関の説明を総合すると、本件開示請求に対し公文書不存在により不開示とした理由は、おおむね次のとおりである。
- 不開示の理由について
開示請求に係る公文書を保有していないため、条例第11条第2項括弧書きの「公文書を保有していないとき」に該当する。 - 本件対象文書について
本件対象文書は、尾教研の会長及び職務代理者が、役員及び理事又は役員及び支部長宛てに会議への出席を依頼するために作成された次の文書に記載されている協議事項に係る関係文書である。
(1) 尾張教育研究会役員・理事・支部長会の開催について(依頼)(平成24年4月1日付け)
(2) 平成24年度第1回尾張教育研究会役員・支部長・研究部長会の開催について(依頼)(平成24年6月8日付け)
(3) 平成24年度第2回尾張教育研究会役員・支部長・研究部長会の開催について(依頼)(平成24年10月12日付け) - 尾教研について
(1) 尾教研は、尾張地区の小中学校の教職員が任意加入の下、学校単位で加入する任意の団体であり、小中学校の教育の推進を図り、あわせて会員相互の研究を深めることを目的としている。尾教研は、研究会及び講習会の開催、研究物等の刊行等の事業を行っている。
(2) 尾教研の組織については、地区別に6つの支部を置き、春日井市は愛日支部に所属している。尾教研は、小学校部会、中学校部会、各教科及びその他の教育領域ごとに研究部を置き、会員は任意に1つの研究部に所属し活動をしている。また、研究部を6つのグループに分け、3年ごとに教育研究集会を開催し、研究発表を行っている。さらに、各支部では2年ごとに中間発表研究集会を開催している。
(3) 現在、市内の市立小中学校の非常勤講師と再任用教師を除く教職員のほとんどが尾教研に加入している。尾教研の会費は、市が負担しており、平成24年度は、978,350円の負担金を支出している。
(4) 実施機関は、加入している教職員の尾教研の活動については、公務として認めているが、尾教研の運営内容については関与しておらず、尾教研で作成される文書について、全て保有しているものではない。 - 尾教研に関する他の公文書の開示請求等の状況について
異議申立人である団体の担当者は、実施機関に対して尾教研に関する公文書任意的開示申出を行っており、申出の内容は次のとおりである。
(1) 尾張教育研究会、尾張教育研究会愛日支部に関する全ての文書
(2) 上記団体に関連する春日井市立小中学校の教職員が組織する団体及びその活動内容がわかる全ての文書
(3) 春日井市が、尾張教育研究会会費(当該学校分及び当該職員分)を納入することとした理由がわかる文書
これに対し、実施機関は、次のとおり開示等を行っている。
ア 尾張教育研究会会則
イ 平成24年度尾張教育研究会費の納入依頼について
ウ 平成24年度尾教研愛日支部郡市研究部代表者名簿
エ 平成23年度尾張教育研究会費の納入依頼について
オ 平成23年度尾教研愛日支部郡市研究部代表者名簿
カ 平成23年度・平成24年度の研究会に出席した教職員の旅行命令書
キ 平成23年度・平成24年度の研究会総会の案内文書
ク 平成23年度の教育研究成果集録
ケ 平成23年度の教育研究集会要項
コ 平成23年度尾張教育研究会要項
なお、申出の内容の(2)及び(3)については、不存在のため不開示の回答をしている。 - 実施機関の判断について
尾教研の活動については、公務として認められているものであるが、尾教研の運営内容については関与しておらず、尾教研で作成された文書については、実施機関として保有するものではなく、本件対象文書について不開示決定をしたことは妥当である。
第4 調査審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、次のとおり調査審議を行った。
- 平成24年12月12日 開示決定等の通知をした日
- 平成24年12月19日 異議申立てのあった日
- 平成25年2月25日 諮問のあった日
- 平成25年2月26日 実施機関から意見書を収受
- 平成25年3月27日 異議申立人から意見書を収受
- 平成25年4月15日 審議、実施機関の説明
- 平成25年5月29日 審議
- 平成25年7月8日 審議
第5 審査会の判断
- 本件対象文書について
異議申立人が本件開示請求において求めている公文書は、尾教研が平成24年度に役員を務めていた春日井市立小中学校長に出席を依頼した次の会議において協議した事項のわかる文書である。
(1) 尾張教育研究会役員・理事・支部長会(平成24年4月6日開催)
(2) 第1回尾張教育研究会役員・支部長・研究部長会(平成24年7月11日開催)
(3) 第2回尾張教育研究会役員・支部長・研究部長会(平成24年11月16日開催) - 本件対象文書の公文書該当性について
(1) 異議申立人は、本件対象文書について、条例第2条第1号に規定する「実施機関」の職員である教職員が公務で出張して出席した際に取得した文書であり、公文書であると主張している。
一方、実施機関は、尾教研に関する教職員の活動を公務として認めているものの、各教職員が取得した文書については、各教職員が尾教研での活動の便宜のために保有し、個人で管理しており、組織共用性がないとして条例第2条第2号に規定する公文書に該当せず、開示請求に係る公文書を保有していないと主張している。
(2) 条例第2条第2号では、開示請求の対象となる「公文書」を「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」と定義している。よって、本件対象文書が上記要件に該当するか否かについて検討する。
ア 「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」の該当性について
「職務上作成し、又は取得した」とは、実施機関の職員が自己の職務の範囲内において作成し、又は取得した場合をいう。
教職員の尾教研での活動を公務として認めているという実施機関の説明から、尾教研の会議に出席するという行為は職務上の行為と言うことができる。よって、当該会議のために配付された文書は、実施機関の職員が職務上取得した文書であると認められる。
イ 「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」の該当性について
「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において事務上必要なものとして利用・保存されている状態をいう。
本件対象文書は、実施機関の説明から、尾教研の会議に出席した役員である校長が会議資料として受け取り、会議終了後持ち帰ったものであるということができる。また、持ち帰った会議資料については、出席した役員が個人的に管理していると実施機関は説明している。
当審査会では、実施機関を通して、本件開示請求に係る資料の提出を依頼し、その保管の状況、供覧の有無について調査を行った。
その結果、平成24年度に尾教研の役員であった4名の校長のうち2名から各1冊のファイルの提出を受けた。提出された2冊のファイルは、ファイル名が手書きであったり、何も表記されていなかったりと統一性が見られず、個人的なファイルであると判断される。また、当該ファイルの保管の状況は、各校長とも自己の個人用ロッカー等に保管し、個人的に管理していたものであった。提出しなかった2名の校長については、役員を退任後に自己の判断で廃棄処分をしており、それ以前の保管の状況は、個人用ロッカーや個人の机の引き出しに保管しており、前述の校長と同様個人的に管理していた。そして、供覧については、各校長とも行っていなかった。なお、後述のとおり本件対象文書の内容に鑑みれば、学校という組織で共用したり、他の職員に引き継ぐ必要性があるとまでは言えないから、各校長が個人的に管理していたことや供覧していないこと、あるいは個人の判断で廃棄したことも特段不合理なものとは言えない。
当審査会において、校長2名から提出を受けたファイル内を見分したところ、1(1)から(3)までの会議において配付された資料が綴られており、それらは、異議申立人が本件開示請求で求めている同会議での協議事項がわかる文書と言うことができ、それ以外の尾教研の会議で配付された資料も綴られている。また、各校長の役職が異なるため、出席した会議もある程度の相違があり、ファイルに綴じられている資料も多少異なっている。これら会議資料として配付され、各役員が保有している文書の内容は、尾教研の事業計画、会計等の内部運営及び研究部会の進捗状況に関する内容であり、学校や市教委事務局において組織で共用したり、他の職員に引き継ぐ必要性があるとは言えず、実施機関の組織において事務上必要なものとまでは言えない。
これらのことからすると、本件対象文書は、利用の面及び管理・保存の面から、組織共用性が欠ける文書であると認められる。
(3) よって、本件対象文書は、条例第2条第2号本文の「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」には該当するものの、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」に該当しないことから、条例第2条第2号に規定する「公文書」の要件を満たしていないと解される。 - 結論
以上により、本件対象文書については、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第6 付言
当審査会は本答申に関連して次のとおり意見を述べる。
実施機関は、任意団体である尾教研の運営内容については関与するものではないと述べている。確かに尾教研は実施機関の組織とは別の任意団体であり、実施機関が尾教研に対し指揮監督する立場にはない。しかし、実施機関は尾教研に加入する学校及び教職員の会費を負担金という形で支出し、教職員の尾教研に関する活動を公務として認めている。このことからすると、実施機関には、尾教研での教職員の活動内容について市民に対する説明責任があると言える。よって、実施機関としては、かかる説明責任を果たすことのできるよう適切な公文書の保有に努めるべきである。
第7 答申に関与した委員
近藤真、堀口久、吉岡ミヤ子、高松淳也、富田隆司