春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第10号)

ページID 1007168 更新日 平成29年12月14日

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第1 審査会の結論

  春日井市教育委員会(以下「市教育委員会」という。)が平成20年2月8日付け19春教学第1571-3号で不開示決定を行った「全国学力・学習状況調査の調査結果に関する文書」については、別紙2記載のものを除き、これを開示すべきである。

第2 異議申立人の主張の要旨

  1.  異議申立ての趣旨
      本件異議申立ての趣旨は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第6条に基づく「全国学力調査結果に関するすべての文書」の開示請求に対し、平成20年2月8日付け19春教学第1571-3号により市教育委員会が行った不開示決定を取り消し、個人情報部分を除き、すべての開示を求めるというものである。
      なお、異議申立ての対象から除外される「個人情報部分」の意味につき、当審査会が異議申立人に対し、別紙1o及びpの文書の様式を示してこれらが該当する趣旨か否かを確認したところ、異議申立人から、これらの文書は、ここでいう「個人情報部分」に該当するとの回答がなされた。
  2. 異議申立ての理由 
      異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書、意見書及び口頭意見陳述によると、おおむね次のとおりである。
    (1) 全国学力・学習状況調査(以下「全国調査」という。)の目的は、「児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育の結果を検証し、改善を図る」「各教育委員会が、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育の結果を把握し、改善を図る」ものといわれている。
    (2)  市教育委員会は、全国調査以外の他の学力テストの結果公表に伴う弊害の発生を並べている。どの地域の事例なのか、出典等を明らかにしてもらいたいが、これは新聞等で報じられた東京都足立区の例であると推察する。東京都においては、序列に注目がいく順位公表を行い、それに関連させて学校予算の傾斜配分を実施し、また学校選択制も実施しているという背景を度外視して議論しても意味がない。
    (3)  市教育委員会教育長は、平成19年11月7日付け「『全国学力・学習状況調査』の結果について」と題する小学校6年生保護者宛の文書において、「今回の調査で測定したのは、あくまでも、学力の特定の一部であることをご理解ください。」と、わざわざ記している。本当に「学力の特定の一部」であるならば、その結果公表によって、「序列化の助長」「学力競争をあおる」ことになるのか、はなはだ疑問であるし、仮に「序列化の助長」等が起きるなら、市教育委員会や学校が説明責任を果たしていないからである。
    (4)  全国調査の実施要領においても、「市町村教育委員会が、保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。また、学校が、自校の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。」と公表を否定していない。
    (5)  市教育委員会は、条例により不開示情報該当性を検討すべきであるが、本件に関しては、他の教育委員会との共同歩調を前提として不開示対応していると考えられる。
    (6)  市教育委員会は、「参加校からの協力が得られなくなり、ひいては正確な情報が得られなくなり、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため」と述べる。しかし、「参加校からの協力が得られなくなり」とは、どのような意味なのか。学力調査への参加・不参加については、各学校が判断主体というなら、この表現も是としよう。しかし、すべて市教育委員会が決定しており、その命令を受けて、ただでさえ多忙な中を、学校現場は作業をさせられているのである。よって「ひいては正確な情報…」などという事態は発生しないのである。つまり、条例第7条第7号は、本件不開示の根拠規定とはならない。
    (7)  本件不開示処分は、個別の内容を度外視し、一括不開示としたもので、その意味で法的にも疑問であり、根拠なき「おそれ」を書き連ねているように実態的にも不当であり、よって、要求どおり開示されるべきである。

第3 諮問実施機関の説明の要旨

  諮問実施機関である市教育委員会の説明を総合すると、別紙1記載の文書を不開示とした理由は、おおむね次のとおりである。

  1.  開示しないこととした理由について

    (1)  春日井市全体の調査結果
    ア  根拠規定 条例第7条第7号に該当
    イ  不開示理由
      本件調査は、県内の他市でも実施されており、市全体の調査結果を開示することは、本市を含め県内の市の地域間の序列化を助長し、過度の学力競争をあおる結果になりやすく、本件調査の本来の目的である「教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」という本来の主旨から逸脱するおそれがあるため。また、参加校からの協力が得られなくなり、ひいては、正確な情報が得られなくなり、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため。
    (2)  各学校別の調査結果
    ア  根拠規定 条例第7条第7号に該当 
    イ  不開示理由
      学校別の調査結果を開示することは、学校間の序列化を助長し、過度の学力競争をあおる結果になりやすく、本件調査の本来の目的である「教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」という本来の主旨から逸脱するおそれがあるため。また、参加校からの協力が得られなくなり、ひいては正確な情報が得られなくなり、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため。
    (3)  個人の調査結果
    ア  根拠規定 条例第7条第2号に該当
    イ  不開示理由
      個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものが記録されているため、又は個人の権利利益を害するおそれがあるため。

  2. 条例第7条第7号該当性について

    (1)  本件調査の目的や調査結果についての通知
    ア  文部科学省(以下「文科省」という。)では、本件調査の目的を「国が全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」「各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する」「各学校が各児童生徒の学力や学習状況を把握し、児童生徒への教育指導や学習状況の改善等に役立てる」としている。そして、調査結果の取扱いについては、実施要領及び「全国学力・学習状況調査の調査結果の取扱いについて」に基づき、国と県も公表は行わないこととしている。
    イ  市教育委員会や各学校が文科省から提供された調査結果については、国と県の結果は公表しないという方針を受けて、春日井市も同じ方針で調査を進めており、すべてを公表することは、他の市町との比較や他の学校との比較が可能となり、そのことから序列化や過度の競争につながるおそれがあり、本来の目的や結果活用の趣旨から大きく逸脱することにつながる。
    (2)  調査結果の公開による学校現場における弊害について
    ア  全国調査以外の他の学力テストでは、学校別の調査結果が公表されることによって、他の授業時間を削ってドリル学習や繰り返し学習ばかり行う等のテスト対策を行う、監督教師が正解を誘導する、障がいのある児童の答案を除外する等の不祥事を招いており、全国調査の開示によって同様な事態が誘発されるおそれがある。
    イ  学校及び教師は、学校間で比較されることによって心的プレッシャーを受け、調査の順位や点数を上げるためだけのテスト対策を行うこととなり、「生きる力」や「確かな学力」を身に付けることにマイナスに作用することが危惧され、学ぶ意欲や課題解決力等の育成が図られにくくなり、テスト成績重視の風潮を生み、創造的な教育活動を萎縮させるおそれがある。
    ウ  テスト成績重視の風潮が蔓延することにより、調査内容に係る教科が苦手な児童生徒は、順位や平均点に自分の結果が影響することをおそれて全国調査への参加を拒否したり、周囲からレッテルを貼られることなどにつながって、不適応やいじめを誘発しかねないし、通常学級に在籍する発達障がい等の児童生徒にとっても大きな負荷となり、場合によっては人権問題にまで発展しかねない。
    エ  自ら通学する学校のレベルが低いことが判明した場合、当該学校に通う児童生徒の学校に対する誇りやそれに付随するプライドが確かなものではなくなり、学校に対する期待、愛着心、学校をより良くしていこうとする意識に対する影響が大きい。
    オ  このようにすべての調査結果を当該の学校や児童生徒、保護者以外に開示することは、過度の競争意識をあおることにつながるおそれがあり、健全な学校運営や調査活用に悪影響を及ぼす。
    カ  以上により、調査結果のすべてを開示することにより、各学校や保護者の抵抗感等から今後実施していく学力調査等の円滑な実施に支障がでるおそれがあるので、本件について不開示とする。
    (3)  公表と開示について
    ア  全国調査の結果の取扱いについて、公表と開示という視点から捕らえると、都道府県、市町村教育委員会及び学校がそれぞれの段階において結果を分析検証し、その特徴や傾向、そして改善に向けた取組等をまとめたものを、県民や市民、地域や保護者に自主的に「公表」するのは、全国調査における大切な評価活動の1つであると考える。本市においても、時間をかけて結果の分析を行い、近く市民にその内容を公表する予定である。
    イ  一方、「開示」についてである。公文書の開示について、本件で言えば結果の開示については、請求者が開示された公文書をどのように扱おうが問題がないとされている。仮に本件異議申立てにあった「個人情報部分を除き、すべての開示を求める」に応じたとするならば、市全体のデータを始め、各学校のデータやクラス別のデータのすべてが開示されることとなり、その開示されたデータを基に平均正答数や平均正答率を順位で一覧にすることが可能となる。その順位だけが1人歩きをし、下位の学校や下位の学校のクラスや担任に対する不平や不満が噴出し、大きなプレッシャーにより長い目で見た学校の改善や指導の向上よりも、全国調査の順位改善のためだけの目先の取組だけに振り回され、正常な学校運営に支障を来すと考えられる。
    ウ  以上のように、本件に関する「公表」と「開示」とはその意味やその後の活用の仕方によって大きな違いがあると捕らえている。
    (4)  答申事例及び裁判事例について
    ア  鳥取県情報公開審議会の判断では、「平成19年度実施の全国調査について、既に特定の市において同市内の公立学校の結果の公表により序列化が可能となっているが、現在のところ、これにより過度の競争が発生した等の事実は確認できず、(中略)当該おそれは現状では具体的なものまでとは言えない」とされている。これについても、これまでに全国調査の結果について、各学校別・クラス別データまでを含めてすべてを公表した、または開示されたという事案が全国の中でもないだけであって、仮に本市が異議申立てのとおり開示をして、その事実に基づき、近隣市町村でも同じような開示が決定されれば、愛知県内近隣市町村での順位比較が可能になる。開示による結果の一人歩きは都道府県結果順位が上位・下位に限らずどの県でも市町村レベルで起こりうることである。これは、鳥取県情報公開審議会が言うところの「おそれの域を出ず」というものではなく、現実的に起こりうる事案であると考える。
      鳥取県情報公開審議会の判断は、特別な根拠を示すことなく、市町村別・学校別のデータの開示による影響を過小評価しており不当である。
    イ  大阪高裁の判決は、枚方市教育委員会が、同市立小中学校の児童生徒を対象にして行った学力診断テストの学校別一覧に係る文書に関するものであり、本件で問題となっている全国調査結果データとは事案が異なり、判決の認定をそのまま当てはめることはできない。
      同判決は、学力テストの趣旨、目的が、生徒、保護者及び市民に正しく理解されていれば、学校の序列化が行われる懸念はないと述べるが、生徒、保護者及び市民に正確に学力テストの趣旨、目的の理解を求めることは容易ではなく、データが開示されると、おのずとそのデータそのものに強い関心が向けられ、市町村間あるいは学校間のデータが単純に比較されて、それらの序列化が行われるおそれが大きいことは自明の理である。
    ウ  仙台高裁の判断、花巻市の主張に全面的に賛成である。花巻市が実施した学習定着度状況調査と全国調査とは、その主たる目的や規模が別のものであるが、その実施と参加する公立学校における状況は、本市と多くの点で共通している。
      公教育の基盤を担う公立小中学校では、首都圏など一部地域には学校選択が可能な自治体があるが、本市や花巻市のように多くの自治体では、地域と一体となった校区による学校設置がされ、保護者や児童生徒は、自由には学校を選択できない状況がある。これは、公教育においては、どの地域においても同じ教育が保障されること、また、地域間や学校間の差別化を回避するためのものである。
      開示により学校やクラス別の情報が順序化され公になれば、順序や平均正答率を上げるための健全な努力以外に、本来守られるべき存在の生活保護家庭や特別な支援が必要な児童生徒をはじめ、成績が悪い児童生徒に対する排除や差別の危惧が十分予想される。また、学校別やクラス別データの開示により、保護者や地域からの過度な干渉などが起こった場合に順位や平均正答率のみへの偏重から、模擬試験を繰り返したり、答えを書き直させたりするなど不正な行為のみならず、先述の排除や差別につながるなど、絶対にあってはならない状況も予想される。これは、仙台高裁の判断でも明らかにされていることである。
      すべてを開示することにより、学校の序列化や過度の競争につながるのみならず、本来の調査事務の適正な遂行にも支障が生じるであろうおそれというのは絶対にあってはならないおそれであり、それを回避するためにも不開示とすべきであると判断する。

第4 調査審議の経過

  審査会は、本件異議申立てについて、以下のとおり調査審議を行った。

  1. 平成20年2月8日      開示決定等の通知をした日
  2. 平成20年2月26日   異議申立てのあった日
  3. 平成20年5月13日   諮問のあった日
  4. 平成20年5月13日   諮問実施機関から意見書を収受
  5. 平成20年6月9日     異議申立人から意見書を収受
  6. 平成20年7月3日     異議申立人から意見書を収受
  7. 平成20年7月10日   異議申立人から意見書を収受
  8. 平成20年7月22日   諮問実施機関の説明、審議
  9. 平成20年8月14日   審議
  10. 平成20年9月19日   異議申立人から意見書を収受
  11. 平成20年9月26日   諮問実施機関から意見書を収受
  12. 平成20年9月26日   諮問実施機関の説明、異議申立人の口頭意見陳述、審議
  13. 平成20年10月24日 審議

第5 審査会の判断の理由

  1. 本件対象文書について
      本件開示請求の対象文書は、「全国学力調査結果に関するすべての文書」であり、開示された文書以外でこれに該当するのは、平成19年度に実施された全国調査の調査結果に関する別紙1記載の文書である。
      このうち別紙1o及びpの文書は、上記第2の「1 異議申立ての趣旨」末尾のなお書き記載のとおり、異議申立人のいう「個人情報部分」に該当するものであるため、これらの文書及び別紙1qの文書のうち同o,pの文書と同内容の部分である別紙2dの各文書については、本件異議申立ての対象外ということになる。
    したがって、当審査会では、別紙1の文書のうち別紙2bないしdの文書を除いた文書(以下「本件対象文書」という。)の不開示決定の当否について審査した。
  2. 条例第7条第7号について
      諮問実施機関は、本件対象文書について条例第7条第7号に定める不開示事由があると主張しており、また、同号以外には不開示事由該当性を検討すべき条項はないと考えられるため、当審査会においては、もっぱら本件対象文書の同号への該当性につき検討した。
      条例第7条第7号は、「市の機関又は国若しくは他の地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」が記録されている情報を不開示とすることを定めたものである。また、同号アからオまでは、事務又は事業の内容及び性質に着目した上でグループ分けし、グループごとに公にすることにより生ずる典型的な支障の例を示したものであり、その他の事務又は事業に関する情報も本号の対象となる。
    本号の適用に際しては、公開することにより生じる支障のみでなく、同種の事務又は事業が反復される場合の将来の適正な遂行に支障を及ぼすおそれについても勘案する必要がある。
      ここでいう「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」とは、当該事務又は事業に関する情報を公にすることによる利益と支障を比較衡量した結果、公にすることの公益性を考慮しても、なお当該事務又は事業の適正な遂行に及ぼす支障が看過しえない程度のものをいう。また、「支障を及ぼすおそれ」とは、単なる抽象的な可能性では足りず、法的保護に値する蓋然性がなければならない。
  3. 条例第7条第7号該当性について
    (1)  諮問実施機関は、本件対象文書を開示することは、他の市町村の調査結果との対比により地域間の序列化を、学校別の調査結果を対比することにより学校間の序列化を、それぞれ助長し、過度の学力競争をあおる結果になりやすく、全国調査本来の主旨から逸脱するおそれがあるとし、その結果、参加校からの協力が得られなくなり、ひいては正確な情報が得られなくなり、全国調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると説明する。
    (2)  たしかに、本件対象文書に掲載されているような情報の開示がなされれば、市町村ごとや学校ごとの学力差に児童生徒や保護者等が関心を抱いたり、児童生徒や保護者等に他校や他市町村との学力差を意識させて競争心を起こさせたりすることが起きる可能性が、一定程度は認められると考えられる。
    しかし、このことが、市町村や学校の「序列化」と呼ぶべき事態を招いたり、「過度」の学力競争をあおることになったりして、その結果、参加校の協力が得られず、正確な情報が得られなくなり、全国調査の適正な遂行に支障を及ぼす可能性があるとは、当然には考えられない。
      現に、栃木県宇都宮市においてはごく一部の小規模校を除く全小中学校が、また、東京都墨田区においては全小中学校が、各学校のウェブサイト上に学力調査の項目ごとの平均点等を掲載しており、学校間の対比が可能な状態になっているが、そのことにより学校の序列化や過度の競争が起き、学校現場で種々の弊害が発生したという事実は確認できない。
      全国調査の情報開示については、鳥取県や大阪府などで開示の可否を巡って争いとなっていて、たびたびニュースにも取り上げられるなど全国的に強い関心が持たれているものであり、上記宇都宮市及び東京都墨田区の公表例も全国紙での紹介がなされていることからして、単に普通にウェブサイト上に掲載するのとは全く程度の異なる高い注目を集めているものと考えられる。それにもかかわらず、特に弊害が発生しているという話が聞かれないのである。
    (3)  この点、学校選択制や学力テスト結果を反映した予算の傾斜配分制度が採られているような場合であれば、学力調査で高得点を得ている学校の人気が高まって学校の序列化傾向が強まったり、より多くの予算獲得を目指して過度の競争が行われたりするおそれも高まると考えられる。
      しかし、春日井市においては、学校選択制も予算の傾斜配分制度も採用されておらず、今のところ採用の予定もないとのことであるので、この点の懸念も必要がない。
    (4)  また、全国調査に対する春日井市内各学校の参加については、市教育委員会が決定するものであって、各学校が自主的に参加の可否を決定することにはなっていない。したがって、開示がなされる結果、一部の参加校について協力が得られなくなるという可能性も考え難い。
    (5)  なお、上記のウェブサイト上での公開の例は、一つの市または特別区において行われていることであり、近隣市町村で同様のことが行われているわけではないため、市町村間での対比が可能になれば市町村間での序列化が生ずるという諮問実施機関の指摘には、直接関わるものではない。しかし、学力等が対比されることによって生ずる弊害は、学校間、クラス間、児童生徒間といったように、より小さな単位での対比になればなるほど大きくなるものと考えられ、上記のとおり、学校間の対比が可能な状況下でも特に弊害の発生が認められない以上、市町村間での対比が可能になったところで、公文書の不開示事由に該当するほどの「支障を及ぼすおそれ」が生ずるとは到底考え難い。
    (6)  諮問実施機関は、開示により学校やクラス別の情報が順序化され公になれば、順序や平均正答率を上げるための健全な努力以外に、成績が悪い児童生徒に対する排除や差別、模擬試験を繰り返したり、答えを書き直させたりするなど不正な行為などが発生するおそれがあるとも指摘する。
      しかし、まず、「クラス別の情報」については、本件対象文書には含まれていない。他方、学校別の情報については本件対象文書中に含まれるものであるが、現にその公表が行われている上記の宇都宮市等においてそのような弊害の発生が見られないのであるから、諮問実施機関の指摘は根拠のあるものとはいえない。
      また、諮問実施機関が懸念するような事態が仮に真に発生するとするならば、それは、そのような行いをする教員において全国調査の趣旨・目的を正しく理解せず、不正行為等を行うこと自体が問題なのであり、諮問実施機関において適切に指導を行い、各教員が自戒することによって防止すべき事柄であって、そのような事態の発生のおそれをもって公文書の不開示事由とできるような性質のものではない。
    (7)  さらに、諮問実施機関は、全国調査の趣旨・目的を生徒、保護者、市民等に正確に理解してもらうことは困難であるために開示すると弊害が生ずるとか、そのような事態を防ぐためには、本件のような情報は、「開示」ではなく、結果を分析検証し、その特徴や傾向、改善に向けた取り組み等をまとめたものを自主的に「公表」するようにすべきである等の主張も行っている。
      しかしながら、これは要するに、情報の受け手の理解能力不足により情報が誤解して受け止められ、間違った利用のされ方をするおそれがあるので、情報をむやみに開示すべきではなく、一定の意味付けをした上で情報を与えなければならないというものであって、市民の知る権利や情報公開制度の根幹を否定する発想であり、情報公開制度に基づく開示請求を拒否する理由として甚だしく失当である。
    (8)  以上の諸点を合わせ考えると、諮問実施機関の指摘する「支障を及ぼすおそれ」は、あくまで抽象的な可能性の域を出ないものと言わざるを得ず、条例第7条第7号所定の不開示事由に該当するほどの法的保護に値する蓋然性があるものとは認められない。
    (9)  さらに付言するに、既述のとおり、条例第7条第7号にいう「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」とは、当該事務又は事業に関する情報を公にすることによる利益と支障を比較衡量した結果、公にすることの公益性を考慮しても、なお当該事務又は事業の適正な遂行に及ぼす支障が看過しえない程度のものをいうところ、本件対象文書が開示されることの影響は、単に、諮問実施機関が指摘するようなマイナスの面だけではない。児童生徒の学力・学習状況を分析し、教育施策の成果と課題を把握し、その改善に役立てるといった全国調査の目的に照らせば、これを一部の教育関係者のみが独占的に保持する情報とせず、広く保護者等の一般市民に情報を開示することには、保護者の教育意欲を高め児童生徒の学習状況の改善に資する等、それ相応のプラス面があることも否定できないはずである。この点を考慮すれば、本件対象文書につき条例第7条第7号該当性を肯定し、これらを不開示とすることは、なお一層不適切なものとなる。
    (10)  なお、別紙1j及びqの文書(愛知県版分析プログラム校内分析ツール 小・中学校用)は、全国調査の調査結果に分析を加えているものであり、これらの文書中に法的保護に値する独自の分析ノウハウ等、これらの文書固有の不開示事由該当性の問題が存在するのであれば、それを別途検討する必要があるが、特に諮問実施機関からそのような説明はなく、また、文書内容からも格別そのような点は読み取れないため、これらについても不開示とすべき理由は認められない。
      他方、別紙1iの文書(所管学校の調査結果(CD-ROM)解除パスワード一覧)については、春日井市全校の調査結果を収めたCD-ROMについて、他校の調査結果(個人データを含む。)の閲覧ができないよう掛けているパスワードの一覧表であることから、これを開示することが事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすものであることは明らかであり、これについて不開示とすることは妥当である。
    (11)  以上の検討の結果、本件対象文書は、別紙1iの文書を除き、開示されるべきものであるとの結論に至った。
  4. 結論
      以上のことから、本件については、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。

第6 答申に関与した委員

  異相武憲、昇秀樹、堀口久、熊澤香代子、近藤真

(注)答申の原本では丸付き数字を使用していますが、HTML版ではabcで表示しています。

別紙

(別紙1)
平成19年度全国学力・学習状況調査に係る
a  調査結果概況(春日井市)
b  設問別調査結果(春日井市)
c  類型別調査結果(春日井市)
d  回答結果集計[児童・生徒質問紙](春日井市)
e  回答結果集計[学校質問紙](春日井市)
f  実施概況(春日井市)
g  回答状況[学校質問紙](春日井市)
h  クロス集計表[児童・生徒質問紙-教科](春日井市)
i  所管学校の調査結果(CD-ROM)解除パスワード一覧
j  愛知県版分析プログラム市町村分析ツール 小・中学校用
k  調査結果概況(各学校)
l  設問別調査結果(各学校)
m  類型別調査結果(各学校)
n  回答結果集計[児童・生徒質問紙](各学校)
o  解答状況(個人)
p  回答状況[児童・生徒質問紙](個人)
q  愛知県版分析プログラム校内分析ツール 小・中学校用
(別紙2)
平成19年度全国学力・学習状況調査に係る
a  所管学校の調査結果(CD-ROM)解除パスワード一覧
b  解答状況(個人)
c  回答状況[児童・生徒質問紙](個人)
d  愛知県版分析プログラム校内分析ツール 小・中学校用 のうち、児童生徒カルテ(学級)及び児童生徒カルテ(個人)

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