春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第3号)
第1 審査会の結論
教育委員会と職員団体との交渉における当局の回答(以下「本件対象文書」という。)について、不存在を理由に不開示とした決定は、妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
- 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第6条に基づく本件対象文書の開示請求に対し、平成15年10月29日付け15春教総第464(1)号により春日井市教育委員会(以下「教育委員会」という。)が行った不開示決定について、これを取り消し、本件対象文書の開示を求めるというものである。 - 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書及び意見書の記載によると、おおむね次のとおりである。
(1) 教育委員会は、「回答が口頭による形式をとっている以上、当教育委員会は本件対象文書を作成していない」と主張するが噴飯物である。
職員団体との交渉は、地方公務員法(昭和25年法律第261号)に基づく正式な交渉である。職員団体の要求に対する回答は教育委員会教育長の公的回答であり、文書化されているのが当然である。また、教育行政の継続性という観点から考えても当然文書化されているはずである。
その上で、何らかの理由で口頭回答という形式を採用することはあり得ないことではないが、「口頭回答であるから文書を作成していない」などという主張は通用しない。
(2) 当該回答は教育長の責任においてなされるものであること、及び、交渉において教育長の代理者が回答を読み上げている実態からすれば、本件対象文書が存在することは明らかである。
(3) 「担当職員のメモは、あくまでも私的なもの」と主張するが、上記のように本来正式に文書化されるべきところ、それを怠り、メモしか存在しないとすれば、それは「公的メモ=公文書」である。
職員団体との交渉において当局の指名する職員が「私的なメモではない」との見解を示しており、明らかに矛盾である。また、「公的な回答をするためのメモ」との発言は、客観的にみて当該メモの公的性質を表明したものと考えられる。
(4) 平成15年11月18日の職員団体との交渉において、教育委員会総務課長が、情報公開の対象となるか否かは留保しつつ、総務課回答部分についてファイルを示しながら、公文書としてファイルしている旨発言している。
第3 諮問実施機関の説明の要旨
諮問実施機関の説明を総合すると、本件対象文書を公文書不存在により不開示とした理由は、おおむね次のとおりである。
- 職員団体との交渉等について
地方公務員の職員団体の交渉については、地方公務員法によって、交渉の対象事項、団体協約締結権の制限と書面協定、予備交渉その他の交渉のルールが定められている。職員団体と地方公共団体の当局との交渉は、団体協約を締結する権利を含まない(地方公務員法55条2項)ものであり、その性格は、民間の労働組合が行う契約ではなく、協議、意見の交換であるというべきである。
教育委員会では、平成14年度において、本件対象文書と関連のある3つの職員団体に対し、計9回の交渉を行っている。なお、当該交渉においては、職員団体からの事前の質問、要求等に対し、当局の指名する者(通常、当該事務を担当する課等の長を指名する。以下「担当職員」という。)が口頭による回答を行っている。
また、教育委員会は、異議申立人による別件の「2002年4月1日から2003年3月31日までの春日井市教育委員会(教育長)と職員団体の交渉に関するすべての文書」の開示請求に対し、組合役員の自宅電話番号等の一部の個人情報を除き、交渉要求書等の開示を行っている。 - 公文書の不存在について
上述のように職員団体との交渉において、回答が口頭による形式をとっている以上、当教育委員会は本件対象文書を作成していない。
また、仮に、回答が多岐にわたる場合等に担当職員が一時的に備忘目的にメモを作成したとしても、その担当職員のメモは、あくまでも私的なものに過ぎず、公文書にあたるものではない。
以上のことから、本件対象文書は存在しておらず、かつ、その保有もないことから、不存在を理由として不開示とした原処分は妥当であると考える。
第4 調査審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、以下のとおり調査審議を行った。
- 平成15年10月29日 開示決定等の通知をした日
- 同年11月21日 異議申立てのあった日
- 同年12月26日 諮問のあった日
- 同年12月26日 諮問実施機関から意見書を収受
- 平成16年1月6日 異議申立人から意見書を収受
- 同年1月19日 異議申立人から意見書を収受
- 同年2月16日 諮問、審議
- 同年3月15日 審議
第5 審査会の判断の理由
- 本件対象文書について
本件は、異議申立人が、「2002年4月1日から2003年3月31日までの春日井市教育委員会(教育長)と職員団体の交渉における各職員団体の要求項目に対する当局の回答及び付随して示した資料」を対象として開示請求したところ、諮問実施機関が、「付随して示した資料」については開示したものの、「当局の回答」については口頭による形式をとっている以上、本件対象文書を作成していないとして、不開示決定を行ったというものである。
これに対し、異議申立人は、交渉において担当職員が回答を読み上げている実態を指摘した上で、当該メモが公文書に該当する旨を主張している。この点について、諮問実施機関は、回答が多岐にわたる場合等に担当職員が一時的に備忘目的にメモを作成するという実態があることは認めつつも、担当職員のメモは、あくまでも私的なものに過ぎず、公文書に該当しないと説明する。
そこで、当審査会としては、本件で異議申立人が開示を求めているのは、これら担当職員が交渉時に読み上げたメモ(以下「本件メモ」という。)であるものと理解したうえで、本件メモが条例上開示の対象となる「公文書」に該当するか否か等について、以下で検討していくこととする。 - 開示請求の対象となる公文書
条例上、開示請求の対象となる「公文書」については、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」と定義されている(条例第2条第2号)。ここでいう、「組織的に用いる」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のもの(組織共用文書)をいう。組織共用文書に該当するか否かについては、1.文書の作成又は取得の状況、2.当該文書の利用の状況、3.保存又は廃棄の状況などを総合的に考慮して実質的な判断を行うこととなる。 - 本件メモの作成・保存等について
しかるに、本件メモの作成・保存等の状況については、諮問実施機関の説明によれば、次のとおりである。
諮問実施機関と職員団体との交渉においては、第3(諮問実施機関の説明の要旨)の第1項記載のとおり、職員団体からの事前の質問、要求等に対し、教育長の指名する担当職員が口頭で回答を行っている。職員団体からは書面による回答の要望も出されているが、書面による回答を義務付ける法令も存在しないため、慣行的に口頭での回答を行ってきている。
回答内容は、教育長と担当職員との打合せの際に教育長から担当職員に伝達されるが、これについても口頭で行っており、書面での指示はなされない。質問事項が多項目に及ぶ場合には担当職員が教育長の述べた回答内容を書き留めることもあるが、その方法は、主として、職員団体から提出された要望事項書のコピーの各要望項目部分に手書きで記入しておくという程度のものであり、また、書き留めた内容を教育長に示して確認や加除修正を求めたりすることもない。
また、本件メモは、各担当職員の個人用ファイルに綴っており、共用ファイル内に綴られることはない(教育委員会総務課長がファイルを示しながら「公文書としてファイルしている。」旨発言したと異議申立人が述べている「ファイル」というのも、当該課長の個人用ファイルのことである。)。本件メモの利用は、当該メモの作成者限りで行っており、交渉に同席する担当職員にコピーを配付したり、職員同士で内容を確認したりすることも行っていない。
さらに、交渉が終了した時点において、備忘の目的を達することから、随時廃棄してきている。本件で対象になっている各交渉時のメモについても、既に全て廃棄済みである。 - 本件メモの公文書該当性について
本件メモの取扱いに関する諮問実施機関の前項の説明は、異議申立人の指摘にもあるように、教育行政の継続性や交渉担当者の不意の欠席といった事態における対応を考えると、合理性があるものなのか疑問の余地なしとは言えない(なお、諮問実施機関の説明では、上記のような事務取扱で現実に特段の問題は生じていないとのことである。)。しかし、上記説明内容が事実に相違しているとする根拠はないため、当審査会としては、上記説明内容を前提に、本件メモの公文書該当性を検討する。
まず、本件メモの作成に当たっては、直接的又は間接的に管理監督者である教育長の指示等の関与があったものとも窺え、この点は、組織共用文書性を肯定する一つの要因とはなるものである。しかし、他方では、担当職員が書き留めた内容について教育長の確認は経ないとのことであり、また、本件メモの利用・保存・廃棄についても各担当職員個人限りで行っているとのことである。このような諮問実施機関の説明を前提とする限り、本件メモについては、第2項に述べた「組織共用文書」の性質を備えているとは言い難いことになる。
なお、異議申立人からは、諮問実施機関の担当職員が本件メモを公的なものと認めていた等の主張も出されている。そして、これら異議申立人が主張している発言の存在につき、諮問実施機関の側でも概ね争いがないようである。しかし、文書が公文書に該当するか否かは、担当職員の認識によって決められるものではなく、あくまで条例に照らして公文書の要件を具備しているか否かによって決せられるべきものである。したがって、本答申においては、この問題については特に立ち入らない。 - 本件メモの現在の存否について
第3項記載のとおり、本件開示請求の対象期間における「メモ」については、諮問実施機関の説明では、既に全て廃棄されているとのことであった。
当審査会において、教育委員会総務課及び学校教育課が保有する職員団体との交渉に関連するファイルの確認を行ったが、本件メモに相当するものの存在は認められなかった。 - 本件不開示決定の妥当性
以上により、諮問実施機関の説明するところの本件メモの作成、利用、保存又は廃棄の状況等を総合的に考慮すれば、本件メモは、「当該実施機関の組織において業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のもの」とは判断できない。したがって、本件メモは、条例にいう「公文書」であったとは認められないものである。
また、現時点では、本件メモそのものの存在が認められない。
以上のことから、本件対象文書について、不存在を理由として不開示とした本件決定は妥当であると認めた。
第6 答申に関与した委員
小林武、昇秀樹、異相武憲、堀口久、鵜飼光子