春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第54号から諮問第57号まで)
第1 審査会の結論
春日井市教育委員会(以下「実施機関」という。)が審査請求人に対して平成28年4月8日付け、平成28年5月27日付け及び平成28年6月3日付けで行った公文書一部開示決定及び公文書不開示決定(以下「本件決定」という。)については、結論において妥当である。
第2 審査請求人の主張の要旨
- 審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は、平成27年度春日井市教職員研修委員会(以下「研修委員会」という。)の管理職研修(校長研修)部会(以下「校長研修部会」という。)の中に設置された法制委員会及び学校経営委員会に関する文書は存在するため、開示を求めるものである。また、開示された「部落解放研修会」関係文書以外にも、研修委員会の校長研修部会の研修・研究文書は存在するため、当該他の文書の開示を求めるものである。 - 審査請求の理由
審査請求人が主張する審査請求の主たる理由は、審査請求書及び意見書並びに審査請求人の口頭意見陳述によると、おおむね次のとおりである。
ア 実施機関が再び校長会「研究集録」を開示したこと
平成28年1月13日付け諮問第47号答申では、春日井市小中学校長会(以下「校長会」という。)の組織である小中部会は、研修委員会の中に設置されていないと判断された。その後の同年2月17日に、実施機関は当該答申と同内容の異議申立て棄却決定をした。その後の同月26日に、審査請求人は実施機関に対して、平成27年度の研修委員会の「校長研修部会の研究報告書」の開示請求をした。すると、実施機関からは、校長会の「研究集録」が開示された。
そこで、審査請求人は実施機関に対し、開示された「研究集録」に記載された法制委員会及び学校経営委員会等の詳細について、更に開示請求を行った。しかし、実施機関からは、法制委員会及び学校経営委員会は、研修委員会の校長研修部会の中に設置されていないとして、不開示決定を受けた。このような主張は通用するわけがなく、市民をないがしろにする姿勢である。
イ 研修委員会の校長研修部会の「研究報告」を開示できないこと
実施機関は、研究集録の中には、校長会の活動と、研修委員会の校長研修部会の活動とが混在していると主張する。しかし、平成27年度春日井市教職員研修委員会活動計画書(以下「活動計画書」という。)は、研修委員会の校長研修部会の組織的活動計画である。そして、この活動計画書に沿って研究を推進するならば、平成27年度春日井市教職員研修委員会活動実績報告書(以下「活動実績報告書」という。)、そして「研究報告書」の内容は、研究の推進、深化とともにおのずと固まっていく。よって、混在などするわけがない。
もし混在しているならば、明確に分け、校長会の研究集録とは別の校長研修部会研究集録を作成するべきであるが、そのようなこともせずに放置したままである。我々は、研究集録に記載された校長会の活動は、そのほとんどが勤務時間中に、県費旅費の支給を前提に行われたものであると確信する。その部分が、研修委員会の校長研修部会と分かちがたく存在し、校長らからすれば、共に「公的職務」として認識されているはずである。
ウ 活動計画書は虚偽の羅列であること
学校経営委員会が校長会内部の組織であるとすれば、研修委員会の校長研修部会の活動計画書の事業内容「(2)各種研究大会による研修・計画」の記載は虚偽である。他にも、各種大会への参加は、実施機関が意見書で認めているように、研修委員会の予算を使った活動とは別のものであるとすれば、活動実績報告書に行ってもいないことを行ったがごとく記載したことになり、許し難い明確な虚偽報告である。
研修委員会の活動計画書に記載された「(1)調査研究活動」について、1年間の活動結果として開示されたのは、校長5名が参加した「部落解放研修会」関係文書のみである。その他の活動は、研究集録の作成も含めて、全て校長会が行ったものである。研修委員会の校長研修部会は、虚偽の活動計画書を提出したと断じざるを得ない。
エ 要項・派遣文書等一部開示処分について
研修委員会の校長研修部会から開示されたのは、「部落解放研修会」関係文書のみである。事実として、校長研修部会の活動はなかったといえる。
オ 実施機関は「組織的研究」であることが理解できていないこと
実施機関の意見書には、研修委員会における「部落解放研修会」以外の研修については、図書を購入することで自主研修の形で進めていると記載されている。研修委員会配下の各研究は、組織的研究である。図書を購入することで自主研修の形で進めているとは何事か。教育行政の担当者としては失格である。
カ 公費流用は許されないことについて
平成25年度の研修委員会の校長研修部会は、26万5083円を自主研修のために充てている。しかし、購入された図書は、小学校時報、中学校誌、小学校教育研究及び全国中学校便覧である。組織的研究であろうと個人的研究であろうと、研究テーマが先行的に存在するのであって、購入雑誌に合わせて研究テーマが存在するわけではない。当該図書購入費は、校長会の活動に使っている疑いがある。
キ 「研究集録」の作成費用について
研修委員会は、「研究集録作成資料代」「研究集録用紙代」として、毎年数万円を報告している。しかし、作成された「研究集録」は、表紙には「春日井市小中学校長会」と印刷され、巻頭言は全て校長会長名のものであり、編集は校長会学校経営委員会となっている。つまり、任意団体としての校長会の研究集録が、研修委員会の校長研修部会に配当された公費により作成されており、公費流用の問題にも発展する。
ク 校長会と研修委員会の関係について
これまで開示された活動報告書等の内容、及び研修委員会の配当金を使って任意団体である校長会の研究集録が作成されたことからすると、校長会と研修委員会の校長研修部会の実態は同一のものであると考える。法制委員会等各委員会及び小中部会をも組み込んだ平成26年度までの活動計画書及び活動実績報告書こそが事実を反映している。よって、開示された校長会「研究集録」は、その全体が校長研修部会の「研究報告」でもある。
なお、実施機関は、平成27年度の研修委員会は、実施機関とは別個の任意団体から実施機関の内部組織に変更されたと主張する。しかし、平成27年度に開催された研修委員会の第1回及び第2回共に、平成28年4月1日施行の春日井市教職員研修委員会設置要領(以下「新要領」という。)の提案等「新体制」の提案は全く行われておらず、平成15年4月25日施行の春日井市教職員研修委員会規約(以下「旧規約」という。)の改正を行っただけである。平成27年度は、旧規約に基づき、研修が推進されることとなり、千数百人の教職員が、1年間、根拠のない研修を行っていたことになる。
ケ 活動計画書、活動実績報告書について
平成27年度の活動計画書及び活動実績報告書は、不要な文書であると実施機関は主張しているが、活動計画書及び活動実績報告書以外の文書も根拠を持たない文書であり、その場における審議等もなされるべきではなかったというのか。また、活動実績報告書の中の「東海北陸中学校長会研究協議会」等については、研修委員会の校長研修部会の活動として認めているようであるが、平成27年度研究集録4ページ「3 学校経営委員会」の項に「東海北陸・・・の参加申込」とある。学校経営委員会として、つまり校長会として参加申込を行ったことは明らかである。
コ 平成27年度研修委員会の調査研究活動に関する文書について
開示された活動計画書において、「学校運営上の諸課題についての研修」に関連する文書として部落解放研修会の文書が開示されたが、5名の校長が部落解放研修会に参加した事実だけで、活動計画書に記載の中心である調査研究活動を推進したなどとはいえまい。活動計画書に記載の内容から考えても部落解放研修会に参加しただけなどということは、絶対に考えられない。文書は他に必ず存在する。
第3 実施機関の説明の要旨
- 実施機関は、意見書及び平成28年7月13日に実施された口頭での説明において、おおむね次のとおり主張した。
(1) 研修委員会の校長研修部会と校長会について
平成26年度まで研修委員会の校長研修部会は、旧規約に基づき、研修委員会の事業の円滑な遂行を図るために設置された専門部会である教職員研修部会のうち、校長で組織された専門委員会の一つであり、委員は、校長会等から推薦された委員で組織され、教育委員会とは独立して存在していた。平成27年度より委託契約事業から教育委員会直轄事業となり、研修委員会は実施機関が行う教職員研修事業の計画及び実施内容に関して意見を述べる役割を担うこととなった。
一方で、校長会は春日井市教育の伸展・向上と会員相互の研修等を目的とした任意の団体である。研修委員会と校長会とは、目的等において類似している点は多いが、両組織は、それぞれ異なる規約に基づいて組織されている。法制委員会及び学校経営委員会は校長会の組織であって、研修委員会には、法制委員会及び学校経営委員会は存在しない。
(2) 活動計画書、活動実績報告書について
平成26年度までの活動計画書及び活動実績報告書は研修委員会の校長研修部会の会長監修のもと、庶務の立場である校長が作成していた。平成27年度からは、教育委員会が作成すべきであったが、平成26年度と同様のやり方で研修委員会が作成してしまった。研修委員会への業務委託をしていないため、この文書自体が不要な文書であった。なお、平成27年度の活動計画書は教育委員会が作成し直す予定はないが、活動実績報告書は教育委員会の学校教育課として作成する予定である。平成28年度以降については、研修構想(計画書)を早急に示す予定である。
(3) 研究集録について
研究集録は、校長会の活動報告書として、校長会の学校経営委員会が中心に作成している。以前は研修委員会の校長研修部会の実績報告も兼ねたような形式があったので内容が混在している。
(4) 法制委員会、学校経営委員会の関係文書について
法制委員会及び学校経営委員会は、校長会の組織の内部にあるため、研修委員会の校長研修部会とは別の組織である。研修委員会に両委員会に関する公文書は存在しない。
(5) 校長研修部会の調査研究活動に関する文書について - 人権学習研修会に研修委員会の校長研修部会の活動として5名参加した。その他の調査研究活動については書籍を購入し、研修委員会の校長研修部会の活動として実施した。研修会の開催及び研究集録の作成については、校長会の学校経営委員会が校長会の活動として実施しており、研修委員会の活動ではない。
第4 調査審議の経過
- 平成28年4月8日 不開示決定の通知のあった日(諮問第54号)
- 平成28年5月9日 審査請求のあった日(諮問第54号)
- 平成28年5月24日 諮問のあった日(諮問第54号)
- 平成28年5月27日及び6月3日 不開示・一部開示決定の通知のあった日
(諮問第55号から第57号まで) - 平成28年6月6日 審査請求のあった日(諮問第55号から第57号まで)
- 平成28年6月15日及び21日 諮問のあった日(諮問第55号から第57号まで)
- 平成28年6月29日 審査請求人から意見書を収受
- 平成28年7月13日 審議、審査請求人の口頭意見陳述、実施機関の説明の実施
- 平成28年7月27日 実施機関から意見書を収受
- 平成28年8月10日 審査請求人から意見書を収受
- 平成28年8月24日 審議
- 平成28年9月29日 審議
第5 審査会の判断
- 本件対象文書について
審査請求人は研修委員会の校長研修部会の中に法制委員会及び学校経営委員会が存在するとして、その関係文書の開示を求めている。また、開示された「部落解放研修会」関係書類以外にも、研修委員会の校長研修部会の研修・研究文書は存在するため、当該他の文書の開示を求めるものである。審査請求人は、単に法制委員会及び学校経営委員会の文書の開示を求めているのではなく、「研修委員会の校長研修部会の中に存在する法制委員会及び学校経営委員会の文書」の開示を求めている。このことから、法制委員会及び学校経営委員会の文書について、どの組織に属しているかを検討する。 - 各組織の位置付けについて
(1) 諮問第47号において検討した各組織の位置付けについて
実施機関、研修委員会及び校長会の関係性について、既に諮問第47号において、当審査会で検討している。当審査会では、実施機関、研修委員会及び校長会は、目的及び構成員において共通又は類似する部分が少なくなく、その業務も実施機関の公務として行われているが、研修委員会及び校長会は、それぞれ異なる規約に基づき組織されており、三つの組織はそれぞれ独立した別組織であるといえると結論付けた。
(2) 諮問第47号の答申以降の事情について
実施機関の口頭意見陳述及び意見書によれば、諮問第47号の答申以降に、研修委員会について次の事実が認められる。平成26年度まで研修委員会は、任意団体として教育委員会及び校長会とは別組織として存在しており、教育委員会からの委託事業として研修事業の計画や運営等を行っていた。その後、平成27年度から教職員研修は、教育委員会の直轄事業となり、これまで研修委員会が行っていた研修事業の計画や運営等は教育委員会が主導的に行うことになった。そして、規約(要領)の完全な整備はなされていないものの(平成27年度は旧規約の改正にとどまっている。)、実体としては、研修委員会は教育委員会の内部組織となり、計画や研修事業について教育委員会に助言をしたり、事業内容や予算に対して意見を述べたりする、実施機関のサポート役としての位置付けとなった。他方、校長会は今までどおり任意団体として存在している。
なお、実施機関は、活動計画書、活動実績報告書について、「平成27年度からは、教育委員会が作成すべきであったが、平成26年度と同様のやり方で研修委員会が作成してしまった。研修委員会への業務委託をしていないため、この文書自体が不要な文書であった。」と説明している。この点、同両文書は教育委員会が主導して作成すべきであった点や、同両文書の作成が研修委員会の所掌事務の範囲に含まれるか不明確である点はそのとおりであるとしても、平成27年度においても研修委員会は教育委員会の内部組織である以上、研修委員会が作成した文書は教育委員会の作成にかかる文書であるといえるから、現に存在する平成27年度の同両文書が不要な文書であるとはいえない。
(3) 研修委員会と校長会の関係について
研修委員会に関して、諮問第47号の答申時点と現在では、教育委員会の内部組織に変更となり組織の態様が異なっているが、このことは研修委員会と校長会が別組織であることに影響を及ぼさない。よって、研修委員会と校長会は別組織であるという諮問第47号の結論を変更すべき事情はない。
(4) 研修委員会の組織
実施機関の説明のとおり、研修委員会の組織内に、法制委員会及び学校経営委員会の存在は認められない。また、別組織である校長会の法制委員会や学校経営委員会が研修委員会の組織でもある、あるいはそれと同視できるとする事情も認められない。 - 本件対象文書の存否について
上記1のとおり、本件対象文書は「研修委員会の校長研修部会の中に存在する法制委員会及び学校経営委員会の文書」であるところ、上記2のとおり、そもそも研修委員会の中に法制委員会及び学校経営委員会が存在しないといわざるを得ず、同時に、法制委員会及び学校経営委員会の文書は、校長会に属するものというほかない。よって、開示を求められた「研修委員会の校長研修部会の中に存在する法制委員会及び学校経営委員会の文書」は存在しないこととなる。
また、研修委員会と校長会は別組織であることを前提とする以上、活動計画書及び活動実績報告書に記載された各事業は、その全てが研修委員会の校長研修部会によって行われたのではなく、校長会によって行われたものも含まれており、研修委員会の校長研修部会が行った研修・研究文書は、審査請求人に開示された「部落解放研修会」関係文書のみであるという実施機関の主張も、不合理とまではいえない。その他研修委員会の校長研修部会が行った研修・研究文書の存在を示す事情はない。よって、「部落解放研修会」関係文書以外にも、研修委員会の校長研修部会の研修・研究文書が存在するとは認められない。 - 結論
以上により、本件決定については、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第6 付言
上記第5のとおり、平成27年度当時、研修委員会及び校長会は、それぞれ独立した別組織であったといえる。諮問第47号の答申においても、研修委員会及び校長会に実施機関を加えたメーリングリストの使用方法について、不必要に別組織に情報を発信することは、情報の管理として不適切であると付言をしたところである。しかし、本諮問において、審査請求人が指摘するように、活動計画書及び活動実績報告書に、研修委員会と校長会の事業が混在して記載されており、研究集録の位置付けも不明確である等、公文書の作成等の管理に不適切な点が確認された。実施機関は、これらの点を改善するにとどまらず、度重なる当審査会の付言を重く受け止め、公文書の適正な管理を徹底するように努めるべきである。
第7 答申に関与した委員
近藤真、高松淳也、富田隆司、尾関栄作、森幸子