春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第17号)
第1 審査会の結論
春日井市教育委員会(以下「市教育委員会」という。)が平成21年4月23日付け21春教学第219号で不開示決定を行った「平成19年実施全国学力・学習状況調査における生徒質問紙の質問番号(23)の各校の結果」(以下「本件対象文書」という。)については、これを開示すべきである。
第2 異議申立人の主張の要旨
1.異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第6条に基づく開示請求に対し、平成21年4月23日付け21春教学第219号により市教育委員会が行った不開示決定を取り消し、開示するよう求めるものである。
2.異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書及び意見書によると、おおむね次のとおりである。
(1) 本件対象文書を開示しても、特別に「序列化」や「過度の学力競争」を意図した施策を講じれば別であるが、そうでなければ、そのような事態は生じない。よって、不開示処分には理由がないので、開示されるべきである。
(2) 「参加校の協力」が得られなくなるというが、校長が参加・不参加を決することができるならともかく、市教育委員会で参加を決めておきながら、事実に反する理由を挙げて不開示処分とすること自体容認できない。
(3) 市教育委員会は、平成21年3月2日付け20春教学第2012-2号の公文書開示決定通知書により、特定の学校について同数値を開示した。それに先立ち市教育委員会は、平成21年3月2日付け20春教学第2012号の決定書において、「当委員会は、本件異議申立てに対し、審査会の答申に基づき審議を行った結果、本件対象文書の一部開示を取り消すことが妥当であると判断した。」と、結論だけを記すが、審査会の答申から何を学び、何を審議したのか。
(4) 本件調査(質問番号(23))は、はなはだ主観的な調査である。このような「参考」程度の調査に関して、その結果を開示しても、「学校間や地域間の序列化」、「過度の学力競争」に結びつくことはあり得ない。長時間の読書が、必ずしも望ましいと言えるのか、単純には決められるものでもない。市教育委員会は、「読書時間が長い」ことを高く評価しているようであるが、単純に決められるものではない。
(5) 質問番号(23)に関する春日井市全体の調査結果においては、読書時間と正答率は必ずしも比例的ではない。読書時間の開示を「序列化」や「過度の学力競争」に結びつけることは、あまりにも無理がある。
(6) どのような本を読んでいるのか分からない、土曜日、日曜日に集中的に読んでいる生徒について反映されていない、教師の指導が反映しているのかどうか分からない、各校の読書環境の状況が分からない、各家庭の経済的文化的環境が分からない、速読で短時間読書の生徒と、ゆったりペースで長時間読書の生徒を比較し、単純にいずれかが望ましいと決められるものではないなどの課題が解明されなければならず、当該調査だけでは、指導に生かせるデータではない。市教育委員会が、市民は以上のようなことを考えることなく、単純に時間の長短で判断してしまうと考えているとすれば、市教育委員会は浅はかというべきである。
(7) 当該不開示情報については、市教育委員会も学校も公の機関として、市民、保護者に対して説明することが、施策の第一歩である。教育の実態を市民、保護者が理解するという観点から考えても、公益性ははなはだ高く、開示による支障はどこにもない。市教育委員会が、公益性と支障を比較衡量すれば、すぐに分かることであり、また、法的保護に値する蓋然性などどこにもない。
(8) 平成21年1月21日に開催された市教育委員会定例会議においては、当審査会の答申を受け、平成19年度実施の学力調査の結果を開示するか否かが審議された。その場において、ある委員が「学校ごとの数値、優劣の現れは、プライバシーに準ずるもの」として不開示を主張した。プライバシー概念をどこまで拡大するのかと驚いたが、それにもまして答申後に新たな理屈が出されるようでは、開示請求をしている市民には納得できるものではない。不開示理由は、不開示理由説明書に記載されたもの以外に存在しないことを確認すべきである。 また、「学校別データは、個人のプライバシーに準じる」という論理については、学力調査結果に限らず、今後、各学校関係文書の開示請求に対する開示等決定が、不開示となることが危惧されるため、市教育委員会のプライバシー概念についても確認すべきである。
(9) よって、条例第7条第7号に該当しないため、請求どおり開示されるべきである。
第3 諮問実施機関の説明の要旨
本件対象文書は、本市各学校の結果であり、「質問番号(23)」と限定されてはいるものの、学校別のデータであるので、不開示として決定したところである。
(2) 「質問番号(23)」(読書時間に関する質問)の一項目といえども、各校のデータを開示すれば、学校間の差異が明らかになり、項目の優れている数値を見て「望ましい学習状況の学校」とそうでない学校というラベリングや比較、序列が可能となってしまう。その結果、調査の意義を疑問視して十分な協力が得られなくなってしまうことが考えられる。
こうした点を踏まえ、市教育委員会は、これまで「学校別のデータは開示しない」という方針を貫いてきた。そして、今回についてもその方針は変わらない。
(3) よって、条例第7条第7号に該当するものとし、各学校の調査結果を開示することは、学校間や地域間の序列化を助長し、過度の学力競争をあおる結果になりやすく、また、参加校からの協力が得られなくなり、ひいては、正確な情報が得られなくなり、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、読書時間について、各学校の回答結果を集計した資料を不開示として不開示決定したことは妥当である。
第4 調査審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、以下のとおり調査審議を行った。
- 平成21年4月23日 開示決定等の通知をした日
- 平成21年4月29日 異議申立てのあった日
- 平成21年6月9日 諮問のあった日
- 平成21年7月17日 諮問実施機関から意見書を収受
- 平成21年7月27日 異議申立人から意見書を収受
- 平成21年8月10日 諮問実施機関の説明、審議
- 平成21年9月15日 審議
- 平成21年10月19日 審議
第5 審査会の判断の理由
1.本件対象文書について
異議申立人が、不開示決定を取り消し、開示するよう求めている文書は、平成19年度に実施した全国学力・学習状況調査(以下「全国調査」という。)に係る生徒質問紙の質問番号(23)の学校別の結果である。
2.質問紙調査の趣旨、質問番号(23)の内容等について
(1)質問紙調査の趣旨
本件対象文書に関係する質問紙調査は、小学校6年生及び中学校3年生が回答する生活習慣や学習環境等に関する調査である。国の関係機関が行う調査結果の報告においては、教科に関する調査における生徒の正答数とのクロス集計の結果を使用し、学力との相関関係の分析を行っている。
なお、本件対象文書に係る質問は、中学校3年生が回答するものである。
(2)質問番号(23)の内容
質問は、「家や図書館で、普段(月曜日から金曜日)、1日にどれくらいの時間、読書をしますか。(教科書や参考書、漫画や雑誌は除きます。)
- 2時間以上
- 1時間以上、2時間より少ない
- 30分以上、1時間より少ない
- 10分以上、30分より少ない
- 10分より少ない
- 全くしない 」
である。
(3)学力等との相関関係
国の関係機関は、全国調査の結果を分析する中で、読書に関する質問について、本件対象文書に該当する質問番号(23)とは別に質問番号(73)(「読書は好きですか」)の回答状況とを併せて、学力等との相関関係について、次の傾向が見られると分析している。
ア 読書が好きな生徒の方が正答率が高い傾向が見られる。
イ 家や図書館で、普段から1日当たり10分以上読書をする生徒の方が国語の正答率が高い傾向が見られる。
ウ 家や図書館で読書する時間が長い生徒の方が、学校の授業以外で勉強する時間が長い傾向が見られる。
3.不開示事由について
本件対象文書を不開示とした理由について、諮問実施機関は、もっぱら条例第7条第7号に該当する事由があることを挙げており、同条の他の号の該当性については考えていないと説明している。
したがって、以下では、条例第7条第7号該当性について検討する。
4.条例第7条第7号該当性について
(1) 全国調査の結果を記載した公文書に関しては、平成19年度の全国調査の調査結果に関する文書についても不開示決定に対する異議申立てがなされた経緯があり、当審査会は、この不開示決定に係る諮問(諮問第10号)について調査審議し、平成20年11月10日付けで答申をしている。
(2) 本件対象文書は、上記答申に含まれていた文書であり、当審査会は、これを開示したとしても、全国調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず、条例第7条第7号には該当しないと判断している。そして、この答申以後現在に至るまで、各学校の調査結果を公表している栃木県宇都宮市や東京都墨田区を始めとした全国調査実施団体において、諮問実施機関が主張するような、学校の序列化の助長や過度の競争の発生、さらには参加校からの協力が得られなくなったといった事実は確認されておらず、その他、上記の判断に変更を加えるべき特段の事情の変更は認められない。
(3) また、全国調査は、大きく学力に関する調査と、生活習慣や学習環境等に関する調査とに分類することができ、本件対象文書は、後者の生活習慣や学習環境等に関する調査に係るものであるが、諮問実施機関が主張する学校の序列化や過度の競争等の弊害発生の懸念は、主として前者の学力調査の結果が開示された場合を念頭に置いてのものと考えられる。
もっとも、生活習慣等に関する調査の結果については、上述のとおり、学力調査の結果との相関関係に関する分析も行われており、その中で「読書が好きな生徒の方が正答率が高い傾向が見られる」との分析結果も示されているところである。そして、「読書は好きですか」との質問(質問番号(73))に対する回答と正答率との間には、たしかに上記の傾向が見られる。しかし、本件対象文書に係る質問番号(23)の質問に対する回答に関していえば、読書時間の長さと学力調査の正答率とは比例関係にない。この点は、学力調査の「国語A」「国語B」「数学A」「数学B」のいずれについても同じである。また、全国レベルでの調査結果だけでなく、春日井市における調査結果に関しても全く同様である。
この点からすれば、本件対象文書については、全国調査の学校別データ全体が対象文書となっている上記諮問第10号の場合よりも、いっそう条例第7条第7号該当性を認める余地がないものと言わざるを得ない。
5.結論
以上のことから、本件対象文書については、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第6 答申に関与した委員
異相武憲、昇秀樹、堀口久、近藤真、吉岡ミヤ子