春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第21号)
第1 審査会の結論
春日井市教育委員会(以下「市教委」という。)が平成22年7月2日付け22春教総第119-3号で不存在を理由に行った公文書不開示決定は、結論において妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
- 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第6条に基づく開示請求(以下「本件開示請求」という。)に対し、平成22年7月2日付け22春教総第119-3号により市教委が行った不開示決定を取り消し、全ての開示を求めるというものである。 - 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書及び意見書によると、おおむね次のとおりである。
(1) 市教委は、「春日井市教育委員会情報公開条例施行規則(平成13年教育委員会規則第1号。以下「市教委施行規則」という。)を定め、「条例の規定に基づく市教委が管理する公文書の開示等については、春日井市情報公開条例施行規則(平成12年春日井市規則第46号。以下「施行規則」という。)の例による。」とし、施行規則を追認している。そのため、条例及び施行規則に定める情報公開に係る事務の取り扱いについて必要な事項を定めた「春日井市情報公開事務取扱要領(以下「取扱要領」という。)」についても追認し事務を行うものと考える。したがって、取扱要領にあるように、市長部局以外の実施機関である市教委は、開示決定等の決裁について「当該実施機関の定め」を保有していると考える。
(2) 教育委員会の権限は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号。以下「地教行法」という。)第23条に定められ、同法第26条第1項において、「教育委員会は、教育委員会規則で定めるところにより、その権限に属する事務の一部を教育長に委任し、又は教育長をして臨時に代理させることができる。」と定めている。それに基づき、市教委は「教育長に対する事務委任規則(昭和31年教育委員会規則第3号。以下「事務委任規則」という。)を定め、同規則第1条に「教育委員会は、次に掲げる事項を除き、その権限に属する事務を教育長に委任する。」として、12項目を列挙しているが、その中に情報公開に関する事項は含まれていない。つまり、情報公開請求に関する件は、教育委員会の権限に属する事務ではなく教育長に委任された事務であり、事務を委任された教育長は取扱要領に則り、「当該実施機関の定め」を作成しなければならないし、作成したものと考えられる。
(3) 市教委の不開示理由説明書には、「情報公開に関する決定等(情報提供を含む。)に関して専決に関する規定を定めていない。したがって、全ての文書について教育委員会において開示決定等を行っている。」とあるが、自ら定めた「事務委任規則」を否定するものである。
(4) 事務委任規則第2条には、「教育長は前条の規定にかかわらず、委任された事務について重要かつ異例の生じたときは、これを教育委員会にはかるものとする。」と定めている。情報公開請求に関する件は教育長に委任された事務であり、「当該実施機関の定め」にしたがって事務処理され、「重要かつ異例の生じた」場合に教育委員会会議に諮ればよいのである。仮に情報公開請求を重要案件として処理するか否かの裁量権を市教委に認めるとしても、そもそも重要案件に該当するものなどほとんどない。市教委は他の実施機関の対応や周辺自治体の教育委員会等の対応を真摯に見るべきである。「情報公開関係案件は重要案件」という市教委の姿勢により、開示請求者は結果的に不当な「期間延長」ばかりを経験させられてきたのである。
(5) 地教行法第25条は、事務処理の法令準拠について定めている。当然、「実施機関の定め」が必要不可欠である。法治国家下の自治体に「定め」がないなどということは考えられない。
(6) 市教委が、「情報公開に関する件は、教育委員会の権限である」と主張したければ事務委任規則を改正するべきであった。
(7) 情報提供については、条例第22条で「施策の充実」が定められ、春日井市は、「情報提供の推進に関する指針(以下、「指針」という。)」を公表しているところである。指針に従えば、いくら条例制定前文書にしても、例えば市教委の「会議録」は情報提供されてしかるべきである。しかし、市教委は一切応じようとしない。条例や指針を無視する市教委は、独自に情報提供に関する規定を定めているものと考えられる。 (8) 以上のことから、本件請求文書は、法的にも実務的にも作成されなければならないものであり、市教委が保有していると考え、開示を求める。
第3 諮問実施機関の説明の要旨
諮問実施機関の説明を総合すると、本件開示請求に対し公文書不存在により不開示とした理由は、おおむね次のとおりである。
- 市教委は、市教委施行規則を定め、「条例の規定に基づく市教委が管理する公文書の開示等については、施行規則の例による」としている。
- 取扱要領では、「特に重要又は重要であると認められる事項を除き、開示請求に係る公文書を所管する部等の長の専決とし、その他の実施機関にあっては、当該実施機関の定めによるものとする。」と規定しており、市長部局にあっては、本来開示決定は市長の権限であるが、特に重要又は重要である事項を除き、その権限を部長等に委譲すると規定されている。しかし、市教委では情報公開請求に関する開示決定等(情報提供を含む。)に関して専決に関する規定を定めていない。
- したがって、全ての文書について教育委員会において開示決定等を行っている。
- 以上のことから、市教委においては、開示決定等に関する専決の規定を定めていないため、開示請求文書については「不存在」であり、条例第11条第2項括弧書きの「公文書を保有していないとき」に該当する。
第4 調査審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、以下のとおり調査審議を行った。
- 平成22年7月2日 開示決定等の通知をした日
- 平成22年7月4日 異議申立てのあった日
- 平成22年7月28日 諮問のあった日
- 平成22年8月24日 諮問実施機関から意見書を収受
- 平成22年9月2日 異議申立人から意見書を収受
- 平成22年10月7日 諮問実施機関の説明、審議
- 平成22年11月11日 審議
- 平成22年11月26日 諮問実施機関から意見書を収受
- 平成22年12月8日 審議
- 平成23年2月10日 審議
第5 審査会の判断の理由
- 本件対象文書について 異議申立人が、不開示決定を取り消し、開示するよう求めている文書は、1.諮問実施機関が、公文書開示決定等に関する事務について、取扱要領「第5」の第4項(1)にいう「当該実施機関の定め」として規定している「定め」に関する全文書(以下「本件対象文書1」という。)、及び、2.諮問実施機関の「情報提供」に関する手続関係規程、決裁規程等の全文書(以下「本件対象文書2」という。)である。
- 本件対象文書1について
(1) 諮問実施機関は、不開示理由説明書において、取扱要領「第5 開示決定等に関する事務」の第4項(1)には、「……その他の実施機関にあっては、当該実施機関の定めによるものとする。」と規定されているものの、諮問実施機関においては、ここでいう「定め」に相当するものを規定しておらず、公文書開示決定等については、全て本来の権限者である教育委員会において行っているため、文書は不存在であると説明している。
(2) 諮問実施機関の不開示理由説明書における説明は上記のとおりであったが、当審査会では、春日井市教育委員会処務規程(平成10年教育委員会訓令第1号。以下「処務規程」という。)及び春日井市決裁規程(昭和36年春日井市訓令第8号。以下「決裁規程」という。)に着目した。
処務規程第4条には、教育長の専決事項についての定めがあり、教育長の専決事項は、決裁規程第6条の例によるとされている。
決裁規程第6条には、副市長の専決が規定され、同条第1号には、「別表第1に定める副市長の決裁区分に属する事項に関すること」とある。別表第1の「2 庶務関係」の表中には、公文書の開示決定等の決裁区分についての記載があり、重要なものについては副市長の専決区分であるとされている。
同様に教育部長についても処務規程第5条で決裁規程の例によるとしている。したがって、公文書の開示決定等の決裁において、軽易なものは教育部長の専決区分であると言える。
以上の点から、処務規程は、諮問実施機関の「当該実施機関の定め」に該当すると考えられる。
(3) このことから、当審査会は、諮問実施機関に対し、処務規程第4条及び第5条の解釈、処務規程が「当該実施機関の定め」に該当しないと考えるのであればその理由及び春日井市教育委員会情報公開事務取扱要領(平成22年11月1日施行。以下「市教委取扱要領」という。)と処務規程との関係について意見を求めた。
これに対する諮問実施機関の回答は、次のとおりであった。
ア 処務規程第4条及び第5条の解釈について、(この規程が諮問実施機関にも適用されるとした場合には)教育長等の専決処分の分類が決裁規程によることとなることに異論はない。
イ 市長部局において、情報公開制度創設時、当分の間、全ての開示請求について市長決裁とするとの決定がなされ、教育委員会事務局でも、教育委員会で意思決定することとしたが、この決定事項については文書等で明確にしていなかった。教育委員会で開示等の決定を行うことを明文化した文書なしで本来の決裁規程を適用せず例外的に行っている行為であり、処務規程の適用はできないと解するため、処務規程は当該実施機関の定めには該当しないと判断する。
ウ 現在、市長部局では決裁規程に基づき処理をしているため教育委員会においても教育長の専決事項に戻すこととし、それを文書で明確にするため市教委取扱要領を定めた。
エ 市長部局は、公文書の開示決定等について決裁規程でその決裁区分を定めているが、取扱要領においてもその内容を規定している。教育委員会では、処務規程により公文書の開示に関する専決規定があるが、現時点で、処務規程に基づき事務処理を行うことは不適当と判断し、市教委取扱要領を定めた。
(4) 諮問実施機関の説明は上記のとおりであるが、上記の説明よっても、処務規程は「当該実施機関の定め」に該当するものであることには変わりがないものと解され、ただ、当面その適用を排除することを諮問実施機関(教育委員会)において決定していることになると考えられる。
したがって、本件対象文書1については、(a)処務規程と(b)その適用を排除する教育委員会の決定に係る文書(教育委員会で全ての開示決定等を行うことを決定した文書)とがこれに該当することになると解される。 - 本件対象文書2について
本件対象文書2についても、諮問実施機関は、専決に関する規定を定めていないため不存在であると説明している。
たしかに、上述のとおり、諮問実施機関においては、情報公開請求に関する開示決定等についても、専決に関する規定を適用せず、全件教育委員会自身で意思決定するものとしていることからすると、諮問実施機関自身において、情報提供に関し、専決や手続きについての規定を定めていないとしても、特段不自然なものではないと解される。少なくとも春日井市の例規集の中には、これに該当する規程等は見当たらない。
ただ、春日井市の行う「情報提供」については、異議申立人の主張(第2の第2項(7))にもあるとおり、「指針」が定められており、情報提供の基本原則、情報提供すべき事項、情報提供の方法等が定められている。これも広い意味では、開示請求書にいう「『情報提供』に関する、手続き関係規程・決裁規程等々、すべての文書」に含まれると解することができる。
したがって、当審査会としては、本件対象文書2として、この「指針」が存在すると判断した。 - 公文書不開示決定の妥当性について
そこで、当審査会は、本件対象文書を「処務規程」「教育委員会で全ての開示決定等を行うことを決定した文書」及び「指針」と特定した上で、以下、本件不開示決定の妥当性について検討する。
(1) 処務規程について
処務規程については、春日井市教育委員会公告式規則(昭和58年教育委員会規則第1号)に基づき公布され、春日井市例規集中に収録されている(第4巻第14類)。また、行政刊行物として市情報コーナーで閲覧できるようにされているとともに、写しの供与も実施しており、なおかつ、春日井市のホームページにおいても閲覧が可能である。
公文書開示請求の対象となる「公文書」の範囲については、条例第2条第2号において定められ、同号ただし書で開示請求の対象となる公文書から除外されるものを定めている。しかるに、同号アにおいては、「市の図書館その他これに類する施設等において、市民の利用に供することを目的として管理されているもの」と定めている。これは、一般の利用に供することを目的として保有しているもの等については、市民がその内容を容易に知り得るものであることから、開示請求の対象とする必要はなく、公文書から除外するものである。
上述のとおり、処務規程については、春日井市例規集に登載されて市の図書館に備え置かれており、また、行政刊行物として市情報コーナーで閲覧謄写が可能である。これらの点から、処務規程については、条例第2条第2号アにいう「市の図書館その他これに類する施設等において、市民の利用に供することを目的として管理されているもの」に該当するものと解される。
したがって、処務規程は、条例による公文書開示請求の対象である「公文書」からは外れる文書であると解され、その意味で公文書は不存在であることになるから、諮問実施機関が文書不存在を理由として不開示決定をしたことは、妥当であるといわざるを得ない。
(2) 教育委員会で全ての開示決定等を行うと決定した文書(以下「委員会決定文書」という。)について
諮問実施機関は、情報公開制度創設時に市長部局が当分の間、市長決裁にすることにならい、開示請求に対する全ての決定を教育委員会で行うこととしたと説明し、ただ、その決定事項を文書として作成していないため、委員会決定文書については存在しないとしている。
諮問実施機関における公文書開示請求への対応の実情を確認したところ、実際に、諮問実施機関は、処務規程の専決に係る規定を適用することなく、全ての開示請求を教育委員会に諮っていることが確認された。このため、特例的なことであるはずの開示決定等の期限の延長がほぼ例外なく行われていた。このことからすると、処務規程を適用せず、開示請求に対する全ての決定を教育委員会で行う旨の意思決定がなされていることは、十分に推認できるところである。
しかし、これが、処務規程という明文の規定の適用を排除するものであり、かつ、開示決定等の慢性的な遅延をもたらすという弊害も生むものであることからすれば、こうした重要な決定は、本来、文書の形式で存在しなければならないものであったと考えられる。
とはいえ、上記の決定については、それがなされた時期も明確でなく、そもそも明示的になされたものか黙示的になされたものかも定かでないという状況にあって、当審査会としては当該決定に係る文書の存否を確認する術がない。このため、諮問実施機関が文書不存在であると説明する以上、それを前提として判断せざるを得ない。
よって、委員会決定文書については、諮問実施機関が文書不存在を理由として不開示決定をしたことは、妥当であることとなる。
(3) 「指針」について
「指針」についても、処務規程と同様、市情報コーナーで閲覧でき、写しの供与を実施しており、条例による公文書開示請求の対象である「公文書」からは外れる文書であると解されることから、諮問実施機関が文書不存在を理由として不開示決定をしたことは、妥当であると考える。 - 結論
以上のことから、諮問実施機関が本件不開示決定において示した不開示理由は不適当であるものの、本件対象文書については、条例による開示請求の対象となる「公文書」に該当しないものであるか、又は、物理的に存在しないと判断せざるを得ないものであることから、不開示とした結論自体は妥当であると判断した。
第6 答申に関与した委員
異相武憲、昇秀樹、堀口久、近藤真、吉岡ミヤ子