春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第32号)
第1 審査会の結論
春日井市教育委員会が平成24年12月19日付け24春教学第1806号で行った公文書不開示決定については、妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
- 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第6条に基づく開示請求に対し、平成24年12月19日付け24春教学第1806号により実施機関が行った不開示決定を取り消し、全ての開示を求めるものである。 - 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書、意見書及び口頭意見陳述によると、次のとおりである。
(1) 本件開示請求は、学校経営委員会について、その内容・実態を確認するために行ったものである。
(2) 実施機関は、学校経営委員会開催案内の発信者が「教育長」となっていることについて、「担当者の誤記」によるという。しかし、異議申立てに至るまで、関係校長がその点を指摘・訂正することはなかった。つまり、学校経営委員会の開催主体が教育長であるという認識の上に、各校長等は出張・出席したものである。
(3) 春日井市小中学校長会(以下「校長会」という。)は任意団体であるが、その親睦的部分を除けば、活動のほとんどの部分が、公務として承認されている実態においては、校長等は、発信者が教育長であることに疑問をもつこともなく、彼らにとって、何ら矛盾するところではない。
(4) 校長等は、教育長から出張要請があったものとして、学校経営委員会に出席したと考えるべきであり、単に任意団体の研究会に参加したものではない。つまり、本件請求文書は、単なる任意団体の内部文書ではなく、間違いなく公文書である。
(5) かつて、春日井市情報公開・個人情報保護審査会において、委員から「春日井市教育委員会は行政の体をなしていない」という実に的確な発言があった。実施機関の言う上記「誤記」も「行政の体をなしていない」一実態を示すものとして受け入れたとしても、次に述べるように、本件請求文書は公文書であり、開示されるべきである。
(6) 県費負担教職員の出張関係条例は、職員等の旅費に関する条例(昭和 29年愛知県条例第1号)第4条第2項に、「旅行命令権者は、電信、電話、郵便等の通信による連絡手段によっては公務の円滑な遂行を図ることができない場合で、且つ、予算上旅費の支出が可能である場合に限り、旅行命令等を発することができる。」と定められている。つまり、旅行命令権者(本件においては、校長)は、「公務の円滑な遂行を図る」ことを目的として出張を承認するわけであるから、当該出張に関する全ての文書が、原則として公文書である。
(7) 実施機関は、校長会の委員会の運営内容には関与しておらず、実施機関として関係文書を保有するものではない旨述べる。校長等が、職務専念義務を免除された上で委員会に参加し、あるいは休暇を取得した上で参加したものであるならば、実施機関の主張に同意してもよいが、実施機関も述べるように勤務時間中の校長会の活動については、公務として認められているものであるから、関係文書は公文書であり、開示の対象となる。
(8) 実施機関は、任意団体の内部文書であることを理由として、関係文書を保有していないと述べるが、既に実施機関が開示した「平成24年度春日井市小中学校長会要項」には、平成23年度の会計役員及び学校経営委員会委員の一人として、学校教育課主幹であり教育研究所所長を兼務していた実施機関の事務局職員の名がある。
(9) 校長会の規約第2条には、「本会は春日井市小中学校長を持って組織し」とある。しかし、実施機関の事務局職員が校長職ではないにもかかわらず、役員であった。まさに校長会は、実施機関と直結した、端的に言えば実施機関の管理下にある組織であると指摘せざるを得ない。よって、当該文書は公文書であり、開示対象となる。
(10) 上記のように、実施機関の事務局職員が学校経営委員会委員であったということは、教育長発の開催案内を発信者名の誤記を訂正せず受け取り、委員会に出席した場合は、開催当日配布された文書を受け取り、欠席の場合も開催案内の記載から何らかの形で文書を受け取っていたと考えられる。つまり、実施機関の事務局職員が学校経営委員会に参加し、関係文書を受け取っていた。これを公文書と言わないで何というのか。
(11) 実施機関は、「校長会の委員会の運営内容については関与しておらず、委員会で作成された文書については、実施機関として保有するものではなく」と述べるが、実施機関の事務局職員の参加事実と矛盾する。
(12) 学校経営委員会は、「経営視察」と称して、県外の学校への視察を計画、実施しているが、これにも実施機関の事務局職員が参加している。このことからも、学校経営委員会の関係文書が実施機関に提出されていることは明らかである。
(13) 当該不開示文書の内容は、その多くが春日井市教職員研修委員会関係文書を開示請求した折、既に開示されているものである。
(14) 学校経営委員会等の活動は、市長から委託された研修事業の中で行われたものであり、関係文書は開示されるべきである。
(15) 実施機関提出の「春日井市小中学校長会規約」第4条によれば、学校相互の連絡提携を行うとしている。具体的に何を意味するのかは不明であるが、「学校相互」と明記している点は重要である。現在の校長権限に関する行政解釈は、学校管理に関する全ての権限を校長に与えているわけであるから、任意団体内部で確認されたことが、学校現場に反映されるということになる。つまり、単なる任意団体ではないという点も付け加えておきたい。
第3 諮問実施機関の説明の要旨
実施機関の説明を総合すると、本件開示請求に対し公文書不存在により不開示とした理由は、おおむね次のとおりである。
- 不開示理由について
開示請求に係る公文書を作成及び保有していないため、条例第11条第2項に該当する。 - 学校経営委員会について
学校経営委員会は、任意に組織される校長会に設置される委員会であり、研修、学校経営視察の活動を行っている。
委員である校長は、公務出張の扱いで自ら出張命令を出して参加している。実施機関は、委員会の開催は公務として認めているが、委員会の運営内容については関与しておらず、委員会で作成される文書等についても保有していない。 - 本件対象文書について
本件対象文書は、教育長が各委員宛てに会議への出席を依頼するために作成された次の5つの文書(以下「5文書」という。)に記載された各内容に関する全ての文書である。
(1) 平成23年4月20日付け「第1回春日井市小中学校長会学校経営委員会の開催について」
(2) 平成23年4月26日付け「第2回春日井市小中学校長会学校経営委員会の開催について」
(3) 平成24年1月17日付け「第6回春日井市小中学校長会学校経営委員会の開催について」
(4) 平成24年4月13日付け「第1回春日井市小中学校長会学校経営委員会の開催について」
(5) 平成24年4月20日付け「第2回春日井市小中学校長会学校経営委員会の開催について」
異議申立人は、5文書に記載のある内容について、関係資料の提示を求めているものである。なお、5文書の発信者が「教育長」となっているが、本来の文書発信者は校長会長であり、文書を作成した校長会の委員会の担当者が誤って記載したものである。 - 異議申立人の意見について
平成25年4月24日付け異議申立人の意見書の内容について、指摘のあった公文書の内容に誤りがあったことが判明したので次のとおり説明する。
(1) 誤記載の内容
「平成24年度春日井市小中学校長会総会要項」に記載のある役員名簿の見出し中「平成23年度」の部分が誤記載であり、正しくは「平成24年度」である。
(2) 平成25年4月24日付け異議申立人の意見書の記載内容については、誤記載の「平成23年度」である場合の意見であると考えられる。
「平成24年度」と正しく読み替えると、指摘のあった会計役員は、平成24年度には実施機関の職員ではなく、小学校の校長であるため、実施機関の職員として経営委員会に参加し、関係文書を受け取っていたとする論旨は事実と異なる。 - 実施機関の判断について
勤務時間中の校長会の委員会活動については、公務として認められているものであるが、校長会の委員会の運営内容については関与しておらず、委員会で作成された文書については、実施機関として保有するものではなく、本件対象文書について不開示決定したことは妥当であると考えている。
第4 調査審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、次のとおり調査審議を行った。
- 平成24年12月19日 開示決定等の通知をした日
- 平成24年12月25日 異議申立てのあった日
- 平成25年3月28日 諮問のあった日
- 平成25年4月1日 実施機関から意見書を収受
- 平成25年4月24日 異議申立人から意見書を収受
- 平成25年5月15日 実施機関から追加意見書を収受
- 平成25年5月29日 審議、実施機関の説明、異議申立人の口頭意見陳述
- 平成25年6月27日 異議申立人から追加意見書を収受
- 平成25年7月8日 審議
- 平成25年8月12日 審議
第5 審査会の判断
- 本件対象文書について
異議申立人が本件開示請求において求めている公文書は、校長会に設置された学校経営委員会が平成23年度及び24年度に開催した次の委員会の出席依頼文に記載されている「内容」の分かる文書である。
(1) 平成23年4月20日付け「第1回春日井市小中学校長会学校経営委員会の開催について」
(2) 平成23年4月26日付け「第2回春日井市小中学校長会学校経営委員会の開催について」
(3) 平成24年1月17日付け「第6回春日井市小中学校長会学校経営委員会の開催について」
(4) 平成24年4月13日付け「第1回春日井市小中学校長会学校経営委員会の開催について」
(5) 平成24年4月20日付け「第2回春日井市小中学校長会学校経営委員会の開催について」 - 校長会及び学校経営委員会について
校長会は、「春日井市小中学校長会規約」によれば、春日井市小中学校長を持って組織し(同規約第2条)、春日井市の教育の伸展と会員相互の研修等を目的として設立された(同規約第3条)任意団体である。
活動の内容としては、教育に関する調査研究、学校相互の連絡連携、関係機関・諸団体に対する連絡折衝及び情報交換等であり(同規約第4条)、これらの事業を遂行するため、10の委員会を設置しており、その中の1つが学校経営員会である(同規約第8条)。
学校経営委員会は、平成23年度及び24年度ともに小中学校長11名で構成されており、校長研修に関することなどを協議し、研修の実施や、必要に応じて視察などを行っている。
実施機関は、各校長の勤務時間中の校長会及び各委員会の活動は公務として認めている。ただし、校長会及び各委員会の活動に対する補助金、負担金の支出は行っていない。
なお、異議申立人が指摘する学校経営委員会開催案内の発信者が「教育長」となっている点は明らかな誤記であり、これによって同委員会の性質が左右されるものではない。また、異議申立人の平成24年度の学校経営委員会の委員に実施機関の事務局職員が含まれているという主張については、平成24年度春日井市小中学校長会総会要項を確認したところ、目次には平成24年度春日井市小中学校長会組織とあり、本文中の平成23年度という表記も、誤記であることは明白であり、その点、実施機関の説明に不合理な点は見当たらない。 - 春日井市教職員研修委員会について
春日井市は市立小中学校の教職員の研修事業を春日井市教職員研修委員会(以下「研修委員会」という。)に委託している。研修委員会は、「春日井市教職員研修委員会規約」によれば、春日井市立小中学校教職員で組織され(同規約第1条)、同職員に対する研修事業の適正かつ円滑な実施及び運営を図ることを目的(同規約第2条)としている。研修委員会の委員は、教育長が委嘱し、平成24年度の委員数は10名(校長4名、教頭2名、教務主任2名、校務主任2名)である。研修委員会は教職員研修の啓発、教職員研修事業の調査及び研究等を行っている。委託を受けた研修事業の中に管理教職員等の研修があり、校長を含む管理教職員研修を行っている。
また、規約からみて、校長会と研修委員会は別個独立の団体であると言うことができる。
異議申立人から提出された平成23年度春日井市教職員研修委員会活動実績報告書を見ると、校長会の各委員会における調査・研究活動が実績として記載されている。また、教職員研修事業委託の成果品の1つとして学校経営委員会が編集した研究集録が提出されており、各委員会の活動報告がされている。研究集録から学校経営委員会は、実施機関の説明のとおり、研修計画や視察の設定及び実施を中心とした活動を行っていることが分かる。 - 本件対象文書の公文書該当性について
(1) 異議申立人は、本件対象文書について、条例第2条第1号に規定する「実施機関」の職員である校長が公務で出張して出席した際に取得した文書であり、公文書であると主張している。
一方、実施機関は、当該委員会の開催を公務として認めているが、当該委員会で取得した文書については、学校内で共用する文書として管理しておらず、組織共用性がないとして条例第2条第2号に規定する公文書に該当せず、開示請求に係る公文書は存在しないと主張している。
(2) 条例第2条第2号では、開示請求の対象となる「公文書」を「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」と定義している。よって、本件対象文書が上記要件に該当するか否かについて検討する。
ア 「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」の該当性について
「職務上作成し、又は取得した」とは、実施機関の職員が自己の職務の範囲内において作成し、又は取得した場合をいう。
校長会及び各委員会での校長の活動を公務として認めているという実施機関の説明から、学校経営委員会に出席するということは職務上の行為と言うことができる。よって、当該委員会で配付された文書は、実施機関の職員が職務上取得した文書であると認められる。
なお、異議申立人は、実施機関の事務局職員が学校経営委員会の研修視察の計画、実施に参加していることを理由に実施機関が同委員会の関係資料を取得していると主張する。これに対し、実施機関は、実施機関は学校経営委員会が決定した視察先について事務局として必要に応じて参加しているものであり、事務局職員は、その計画、すなわち学校経営委員会が開催する委員会には一切出席していないと説明した。この点、実施機関の説明に不合理な点はなく、また、実施機関の事務局職員が学校経営委員会に参加していると認められる資料はない。よって、実施機関の事務局職員が委員会に関する資料を取得した事実は認められない。
イ 「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」の該当性について
「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該実施機関の組織において事務上必要なものとして利用・保存されている状態をいう。なお、かかる解釈は、条例第2条第2号と同様の規定をしている行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)第2条第2項を解説する文献(新・情報公開法の逐条解説第5版(有斐閣 宇賀克也 平成22年))等においても同様に定義されており、広く一般に通用しているものである。
本件対象文書は、実施機関の説明から、学校経営委員会に出席した校長が委員会資料として受け取り、委員会終了後持ち帰ったものであるということができる。また、持ち帰った委員会資料については、出席した各委員が個人的に管理していると実施機関は説明している。
当審査会では、実施機関を通して、本件開示請求に係る資料の提出を依頼し、各年度1冊のファイルの提出を受けた。提出されたファイルは、ファイル名と年度が鉛筆書きで記載されおり、個人的なファイルであると判断される。提出のなかった他の校長については、年度末に自己の判断で廃棄処分をしており、それ以前の保管の状況は、個人用ロッカーや個人の机の引き出しに保管しており、個人的に管理していた。そして、供覧については、各校長とも行っていなかった。なお、後述のとおり本件対象文書の内容に鑑みれば、学校という組織で共用したり、他の職員に引き継いだりする必要性があるとまでは言えないから、各校長が個人的に管理していたことや供覧していないこと、あるいは個人の判断で廃棄したことも特段不合理なものとは言えない。
当審査会において、提出を受けたファイル内を見分したところ、1(1)から(5)までの会議において配布された資料が綴られており、それらは、異議申立人が本件開示請求で求めている学校経営委員会での内容がわかる文書と言うことができる。これら、委員会資料として配付された文書の内容は、学校経営員会の活動計画、校長会の研修計画案であり、いずれも自主的な組織内の活動、運営に関するものであるから、学校や市教委事務局において組織で共用したり、他の職員に引継いだりする必要があるとは言えず、実施機関の組織において事務上必要なものとまでは言えない。
これらのことからすると、本件対象文書は、利用の面及び管理・保存の面から、組織共用性が欠ける文書であると認められる。
(3) よって、本件対象文書は、条例第2条第2号本文の「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」には該当するものの、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」に該当しないことから、条例第2条第2号に規定する「公文書」の要件を満たしていないと解される。
(4) なお、異議申立人は、校長会とその下部組織である各委員会は教育行政の一翼を担っていると主張し、実施機関においても、校長会は、教育に関する調査研究、学校相互の連絡連携など、学校や教育のためになることを検討する場であり、校長会で協議した内容については、各学校長の判断によって学校運営に生かされていると述べている。
これらのことからすると、校長会が教育行政と全く関わりがないとは言えず、実施機関が校長会や各委員会の活動内容について校長会から関係文書の任意提出を受け、これを開示することは望ましいとは言える。
しかし、実施機関において、公務遂行の過程と結果を公文書として記録、保有すべきか否かは、その公務の内容と教育行政との関連性、影響の大小・程度、市民に対する説明責任等の観点から決せられるものである。
この点、校長会は実施機関とは別組織であり、その活動も自主的なものであり、実施機関の指示を受けて行うものではない。そして、市が委託する教職員研修事業で実施されている管理職研修の実績報告書の中に校長会の各委員会における調査・研究活動が含まれていることを考慮してもなお校長会や学校経営委員会が教育行政に与える影響は直接的なものではない。とすれば、実施機関が校長会や各委員会の活動の経過と結果全てについて逐一説明責任を負うと解することはできない。
従って、実施機関が、本件対象文書について実施機関として保有していないとしても、不適切であると認めることはできない。 - 結論
以上により、本件対象文書については、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第6 答申に関与した委員
近藤真、堀口久、吉岡ミヤ子、高松淳也、富田隆司