春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第11号)
第1 審査会の結論
春日井市教育委員会(以下「市教育委員会」という。)が平成20年5月23日付け20春教学第167-2号で一部開示決定を行った「2007年度に実施された全国学力調査の結果活用について、春日井市教委が市内小中学校に対していかなる指示をしたか、また、各小中学校がいかに結果活用したのか分かる文書。」のうち、「平成20年度の取り組み「朝読書」について」(以下「本件対象文書」という。)について、不開示とした部分は、これを開示すべきである。
第2 異議申立人の主張の要旨
- 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第6条に基づき、「2007年度に実施された全国学力調査の結果活用について、春日井市教委が市内小中学校に対していかなる指示をしたか、又各小中学校がいかに結果活用したのか分かる文書。」の開示を請求したのに対し、平成20年5月23日付け20春教学第167-2号により市教育委員会が行った一部開示決定を取り消し、不開示とした部分の開示を求めるというものである。 - 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書、意見書及び口頭意見陳述によると、おおむね次のとおりである。
(1) 本件対象文書は、春日井市立鷹来中学校の職員(図書部)が、職員会議において「朝読書の実施」を提案したときの文書であると考えられる。
(2) 朝読書の実施の根拠の一つとして、全国学力・学習状況調査(以下「全国調査」という。)の結果の数値を挙げたものであるが、この数値をなぜ不開示にするのか、理解できない。「児童・生徒質問紙」「学校質問紙」等の集計内容など開示による支障は何もない。
(3) この数値を開示すると、本当に「学校の序列化を助長し、過度の学力競争をあおる結果になりやすい」のか。この不開示理由は、噴飯ものである。市教育委員会の判断は、単純である。一部でも開示したら、「崩壊」は止められないから不開示というものである。
(4) 市教育委員会は、「仮に一つの数値結果が公表されれば、結果の内容や性質よりも、公開された事実により、他の結果の公開にもつながりかねない。」「いずれにしても、全国調査結果が、開示請求等により一部でも公表されれば、その内容や性質を問わず公表されたという事実により、他の結果の公表にもつながりかねない。」と述べる。そして、膨大な情報の中の一片が、すべて「序列化や過度な競争につながるおそれがある。」というわけである。つまり、個別の情報の「内容」に対する判断を拒否している。しかし、まず、「内容」により判断されるべきものではないのか。本件不開示部分を開示することで、「序列化を助長し、過度の学力競争をあおる」こととなり、「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは考えられない。
(5) 市教育委員会は、数値を明らかにしなくても保護者に対して説明可能である旨述べる。学力調査にしろ、あらゆる調査は、「調査時点におけるデータ」であることは、誰もが了解することである。隠すことなく、全国調査における数値を公表し、例えば1年後に同様な調査を行ない、数値を示し、生徒、保護者と共に検証する。これこそ、全国調査の目的ではないのか。
(6) 市教育委員会は、条例第7条第7号に該当するとして、理由の中で「参加校からの協力が得られなくなり」と述べる。この文意を聞きたい。市教育委員会は、自ら「参加」を決定し、各校長に「学力調査に参加するように」命じている。そもそも参加不参加が各校の判断と言うならば、文意は理解できるが、市教育委員会が参加を命じておいて「協力が得られない」とは、いかなることか。仮に他の意で「協力」と述べるならば、どのような場面を想定しているのか。
(7) 本件不開示処分は、先に市教育委員会が全国調査の結果について、市レベルの文書を「全面的」に不開示にした手前、今回のような処分が行われたものと考えられるが、納得できるものではない 。
第3 諮問実施機関の説明の要旨
諮問実施機関の説明を総合すると、本件対象文書を一部開示とした理由は、おおむね次のとおりである。
- 本件対象文書及び不開示とした部分について
(1) 平成19年4月に実施された全国調査は、同年10月に調査結果が各学校に届き、同年12月に愛知県教育委員会から配付された「全国学力・学習状況調査愛知県版分析プログラム」などを使用し、それぞれの学校の児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより、教育の成果と課題を検証し、その改善を図っているところである。
(2) 本件対象文書は、このような調査結果の活用について示されたものであり、「平成20年度の取り組み「朝読書」について」として、当該校の読書指導についての内容が記述されている。
その内容の一部に、平成19年度全国調査における調査内容のうち、児童生徒に対する質問である「家や図書館で、普段(月~金曜日)、1日にどれくらいの時間、読書をしますか」についての当該校の回答結果の割合数値が記述されていた。
(3) これは、全国調査の結果として、市教育委員会として公開しないと判断してきた各学校の結果数値の一つに該当する。 - 一部開示の理由について
学校別の調査結果を開示することは、学校間の序列化を助長し、過度の学力競争をあおる結果になりやすく、学力・学習状況調査の本来の目的である「教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」という本来の主旨から逸脱するおそれがあるため。また、参加校からの協力が得られなくなり、ひいては正確な情報が得られなくなり、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため。 - 全国調査の結果の公表への対応について
(1) 市教育委員会では、全国調査の結果取扱いについて、実施要領及び「全国学力・学習状況調査の調査結果の取扱いについて」(平成19年8月23日付け19文科初第616号初等中等教育局長通知)に基づいた国と県の公表は行わないとする方針を受け、全てを開示することは、他の市町との比較や他の学校との比較が可能となり、そのことから序列化や過度な競争につながるおそれがあり、本来の目的や結果活用の趣旨から大きく逸脱することにつながると捉えている。本件対象文書に記述されている全国調査の当該校の生徒質問の回答数値結果は、このような方針及び取扱いに該当する部分であり開示しないこととした。
(2) この数値結果は、当該校が有する膨大な数値結果の中の一つであるが、市教育委員会では、前述の国や県の方針を受け、各学校の数値結果の公表を行わないこととしている。仮に一つの数値結果が公表されれば、結果の内容や性質よりも、公開された事実により、他の結果の公開につながりかねない。これは、読書に関する回答結果であっても同じである。結果の公表への対応全体との整合性として開示しないものと判断する。
(3) 一方、各学校が質問回答の数値結果をもとに教育活動を評価・検証し、改善していくことは、全国調査の目的や結果活用のあり方に合致したものであり、尊重されるべきことだが、改善に伴う結果数値の扱いについては、改善に取り組むための根拠としながらも、その改善の方向性や取組の説明には、必ずしも結果数値の公表が伴わねばならないとは考えられない。仮に、当該校が朝読書への取組について説明をする場合において、全国調査の結果に基づく当該校の実態の検証は、国や県との比較をもとにした評価や判断から行われた旨を説明することで無理なく理解、納得につながるものと考える。
(4) いずれにしても、全国調査の結果が、開示請求等により一部でも公表されれば、その内容や性質を問わず公表されたという事実により、他の結果の公開につながりかねない。ひいては、全ての数値結果の公表につながりかねない。現時点で、県内の市町村では結果の概要を公表し、一部結果数値を公表している自治体もあるが、本市においては数値結果を公開しない方針に基づいた整合性ある対応をしているのである。その整合性が崩れれば、数値結果の公表により、他の市町との比較や他の学校との比較が可能となり、そのことから序列化や過度な競争につながるおそれがあると考える。
第4 調査審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、以下のとおり調査審議を行った。
- 平成20年5月23日 開示決定等の通知をした日
- 平成20年6月9日 異議申立てのあった日
- 平成20年7月18日 諮問のあった日
- 平成20年8月26日 諮問実施機関から意見書を収受
- 平成20年9月5日 異議申立人から意見書を収受
- 平成20年9月26日 諮問実施機関の説明、異議申立人の口頭意見陳述、審議
- 平成20年10月24日 審議
- 平成20年12月19日 審議
第5 審査会の判断の理由
- 本件対象文書について
本件対象文書は、春日井市立鷹来中学校が作成した「平成20年度の取り組み「朝読書」について」と題する文書で、朝読書の実施目的、基本方針、実施方法等、当該校における読書指導に関する内容が記載されている。
このうち、諮問実施機関が不開示とした部分は、平成19年度全国調査の生徒質問紙調査の1項目である「家や図書館で、普段(月曜日から金曜日)1日にどれくらいの時間、読書をしますか(教科書や参考書、漫画や雑誌は除きます。)」との質問に対して、当該校における「全くしない」生徒の割合を示す数値である。 - 条例第7条第7号該当性について
(1) 本件不開示部分に係る上記の情報は、上記のとおり、春日井市内の1校における読書をしない生徒の割合を示す数値であって、これを公にすることにより、学校間の序列化を助長し、過度の学力競争をあおる等の支障を生じさせるおそれがあるとは、到底考え得ないものである。
(2) 諮問実施機関は、当該数値を不開示とした理由について、当該数値が全国調査の結果の一部であり、全国調査の各学校のデータはすべて公開しないとした決定があり、この決定との整合性を図るためと説明している。さらに、仮に一つの数値結果が公表されれば、結果の内容や性質よりも、公開された事実により、他の調査結果の公開につながりかねず、ひいてはすべての調査結果の公開につながりかねないから、当該数値を不開示にしたと説明している。
(3) しかしながら、公文書開示請求があった場合に当該公文書の開示がなされるか否かは、当該公文書について条例第7条各号の不開示事由があるか否かによって判断すべきものである。
全国調査の結果のうちの一つの数値を記載した公文書について不開示情報該当性が認められずに開示されたとしても、そのこと自体をもって、他の調査結果を記載した公文書についても同様に開示すべきという結論が導かれることになるのでないことは言うまでもなく、当該他の公文書について別個に不開示事由があるかを判断して開示の可否が決せられるものである。
したがって、諮問実施機関の上記説明は当を得ないものである。
(4) なお、全国調査の結果を記載した公文書の開示に関しては、当審査会において、本件一部開示決定処分に係る諮問に先立ち、「全国学力・学習状況調査の調査結果に関する文書」の不開示決定処分に係る諮問(諮問第10号)について調査審議した。そして、学校別の調査結果については、調査項目の種別を問わず、これを開示したとしても全国調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとは認められないと判断している。
本件不開示部分に係る調査結果についても同様に判断すべきものであり、この点からも諮問実施機関の説明は失当である。
(5) 以上により、本件対象文書における当該数値を不開示とした諮問実施機関の決定は妥当ではなく、開示すべきである。 - 結論
以上のことから、当審査会は、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第6 答申に関与した委員
異相武憲、昇秀樹、堀口久、熊澤香代子、近藤真