春日井市情報公開・個人情報保護審査会答申(諮問第42号)
第1 審査会の結論
春日井市教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成26年5月9日付け25春教学第2683-3号で行った公文書不開示決定については、妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
- 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第6条に基づく開示請求に対し、実施機関が行った平成26年5月9日付け25春教学第2683-3号の公文書不開示決定の取消しを求めるものである。 - 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての主たる理由は、異議申立書、意見書及び口頭意見陳述によると、おおむね次のとおりである。
(1) 愛知県立高等学校推薦入試(以下「推薦入試」という。)において、「評定の合計」、いわゆる「内申点」が重要な要素であることは事実であり、文書化されていなければ各中学校の適正な推薦入試事務は不可能である。
(2) 愛知県立高等学校(以下「県立高校」という。)各校の「推薦入学実施要項」の「推薦基準」には、必ず「本校の教育課程を履修することのできる学力を有するとともに」という記載がある。
(3) 愛知県公立高等学校入学者選抜実施要項(以下「実施要項」という。)にも、いわゆる学力推薦以外の推薦においては、「当該高等学校・学科の教育課程を履修する学力を有するか否かの観点に立って、適切な基準を設ける。」と定めている。
(4) 推薦入試においては、学力検査を省略するので、いわゆる内申点が重要な意味を持つことになる。
(5) 愛知県教育委員会(以下「県教委」という。)によれば、各県立高校の定める基準点(=内申点)が、県立高校の校長から各中学校長に口頭で伝えられているという。この内申点は、生徒を受け入れる県立高校側の示す重要な入学要件である。各中学校においても、間違いなく重要であり、即座に文書化されているものと考えられる。
(6) 入試は生徒の人生上の重要事案である。当然、推薦入試事務の遂行に間違いがあってはならない。それにもかかわらず、内申点記載文書が存在しないなどという実施機関の主張は全く理解できない。
(7) 実施機関の指導主事は、「担任は、生徒から推薦希望があれば、内申点を知らされていないので、内申点不足を言及することはなく、基本的に全て推薦委員会に挙げる。」と説明している。
(8) 実施要項に、中学校長は推薦の厳正・公平、適切を期するため推薦委員会を設けることとされているが、内申点の共有もなく、どのようにして推薦の厳正・公平、適切が保障されるのか。
(9) 実施機関の指導主事は、校長がメモを取っているかも知れない、また口頭あるいはメモを見せながら進路指導主事に伝えていると説明した。進路指導主事に伝わっているのならば、進路指導委員会に所属する職員に共有されているはずである。
(10) 実施機関はメモと説明しているが、これは公文書であり、開示されるべきである。
(11) 今仮に、推薦入試事務遂行時期に、中学校長が突然死したらどうなるのか。職員は誰も内申点について把握していない。校長代理の教頭が勘で判断するのか。組織体としてあり得ない話である。
第3 諮問実施機関の説明の要旨
実施機関の説明を総合すると、本件開示請求に対し、異議申立人が主張する公文書を開示しなかった理由は、おおむね次のとおりである。
- 1 県立高校(普通科・専門学科・総合学科)の推薦入学について
県立高校の推薦入学は、当該高校の学科を志望する意志が強く、動機・理由が明白であり、人物及び学習成績が優れている者で、中学校長の推薦を得た者が志願できるとする入学選抜方法の一つである。
推薦にあたって中学校長の取るべき措置として、推薦の厳正・公平、適切を期するため推薦委員会を設けるとしており、通常、校長、教頭、教務主任、校務主任、第3学年所属の教員等が委員として組織されている。推薦委員会では、推薦入学を希望する者からの申出を受け付けた後、当該申出者が、人物が優れているか、希望校(学科)の教育課程を履修する学力を有しているか、希望校(学科)が示す推薦基準を満たしているか等の審議がなされ、校長が被推薦者の決定を行っている。具体的には、中学校3年間の生活態度や実績、過去の一般入試の結果等から合格の可能性が十分であるか等が審議される。
推薦入学(普通科)の合否判定は、各中学校長から提出された推薦書、調査書の内容及び面接等の結果を資料として、次のいずれかの選抜基準に基づいて総合的に行われる。
(1) 人物が優れており、運動、文化、芸術、奉仕活動等の諸活動のいずれ かにおいて優れた能力・適性及び実績等を有する者。
(2) 人物が優れており、恵まれない環境を克服し、向学心に富み、生活態 度が他の模範となる者。
(3) 人物が優れており、調査書の「学習の記録」が優秀である者。
各高等学校は、特に(1)及び(2)に関する基準を設定するに当たっては、当該高等学校・学科の教育課程を履修する学力を有するか否かの観点に立って、適切な基準を設けるとしており、県立高校ごとに基準を設定している(以下「評定基準」という。)。評定基準は、異議申立人が異議申立書で示すような推薦入学における内申点に関する情報と同義のものと考えるが、この情報は、各県立高校の校長から中学校長へ口頭で伝達されているもので、公開されておらず、中学校長が各県立高校の校長から取得した文書も存在しない。また、評定基準は、中学校長自身が推薦決定の参考としているもので、校長がメモを作成することはあるが、公文書を作成するなどして、他の職員と共有しているものではない。 - 実施機関の判断について
異議申立人の平成26年3月28日付け公文書開示請求に対し、実施機関が保有する公文書は、平成26年5月9日付け25春教学第2683-2号で公文書開示決定を行った各県立高校推薦入学実施要項のみであり、異議申立人が指摘する推薦入試における「内申点」が記載された文書は存在しないため、原処分のとおり不開示決定したことは妥当である。
第4 調査審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、次のとおり調査審議を行った。
- 平成26年5月9日 開示決定等の通知をした日
- 平成26年5月13日 異議申立てのあった日
- 平成26年7月25日 諮問のあった日
- 平成26年7月25日 実施機関から意見書を収受
- 平成26年8月11日 異議申立人から意見書を収受
- 平成26年10月8日 審議、異議申立人の口頭意見陳述、実施機関の説明
- 平成26年11月19日 審議
- 平成26年12月24日 審議
- 平成27年3月24日 審議
- 平成27年4月22日 審議
第5 審査会の判断
- 本件対象文書について
異議申立人が本件異議申立てにおいて開示を求めている公文書は、平成26年度の推薦入試において基準とされる、各県立高校の評定基準が分かる文書で、春日井市教育委員会及び春日井市立中学校が保有しているものである。 - 推薦委員会について
実施要項によれば、各中学校長は推薦の厳正・公平、適切を期すため、推薦委員会を設けることとしており、実際に各中学校には推薦委員会が設置されている。委員は一般的に校長、教頭、教務主任、校務主任、進路指導主事、第3学年所属の教員等で構成されている。
推薦委員会は、被推薦者を決定する際、各高校別に、推薦入試を希望する志願者及び該当高校の推薦基準の確認をした後、各志願者の志望動機、人物及び実績等について審議し、委員会内での質疑応答を経て、校長が被推薦者の決定を行う。 - 評定基準のメモについて
評定基準は、各県立高校の校長から中学校長へ口頭で伝えられるものであり、実施機関の説明によれば、その際、中学校長は評定基準のメモ(以下「本件メモ」という。)を作成する場合があり、学校によっては進路指導主事に伝えている。また、進路指導主事も校長から伝え聞いた情報を基に本件メモを作成することがある。その他に評定基準を記載した文書は作成されていない。 - 本件メモの公文書該当性について
(1) 異議申立人は、本件メモについて、条例第2条第1号に規定する「実施機関」の職員である校長が作成した文書であり、公文書であると主張している。
一方、実施機関は、校長が本件メモを作成することはあるが、文書を作成するなどして、他の職員と共有しているものではないとして条例第2条第2号に規定する公文書に該当せず、異議申立人の主張する公文書は存在しないとしている。
(2) 条例第2条第2号では、開示請求の対象となる「公文書」を「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」と定義している。よって、本件メモが上記要件に該当するか否かについて検討する。
ア 「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」の該当性について
「職務上作成し、又は取得した」とは、実施機関の職員が自己の職務の範囲内において作成し、又は取得した場合をいう。
中学校長は県立高校の校長から口頭で伝え聞いた評定基準を基に本件メモを作成し、進路指導主事は学校長から口頭で聞き、又は校長が作成したメモを見て本件メモを作成する場合があることから、それぞれが、各学校の推薦委員会という職務の範囲内において作成したものといえる。
イ 「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」の該当性について
(ア) 組織共用性の意義
「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」とは、作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態をいう。
(イ) 校長が作成した本件メモについて
当審査会では、実施機関を通して中学校15校の校長及び進路指導主事に本件メモの管理状況等について調査した。ただし、3校の校長については既に退職していたため調査はできなかった。
本件メモを作成した校長は12名で、これは、退職校長を除き全ての校長が作成していたことになる。しかし、全ての校長が作成した本件メモを平成25年度末までに廃棄していたため、本件メモの見分はできなかった。そのため、当審査会では、本件メモの体裁を確認するため、本年度に各県立高校の校長から口頭で伝え聞いて作成した評定基準のメモの提出を実施機関に求めたところ、15校全員の校長のメモの提出を受けた。当該メモの体裁は、記載されている高校の数や記載方法に多少の違いはあるものの、県立高校名と各推薦基準における評定基準が記載された表のようなものであり、本件メモの体裁も同様と考えられ、一応整った体裁を備えているといえる。
他方、本件メモの管理・保管状況について、廃棄するまでは、各校長が自身の机、ロッカー、パソコンで保管していた。各校長は、メモを推薦委員会で推薦希望生徒を被推薦者に決定するかを判断するための資料や進路指導主事との打ち合わせ用として使用しており、9名の校長については、進路指導主事に口頭や本件メモを見せて伝えているとのことだった。なお、前述の進路指導主事を除き、他の推薦委員会の委員を含め、誰とも共有していないとの回答であった。
校長は自身が作成した本件メモを推薦委員会において被推薦者を決定する際の判断材料の1つとして利用しているものの、当該年度末までには、校長個人の判断で廃棄しており、校長に異動があっても本件メモを引き継ぐことはしていない。また、実施機関の説明においても、年度内に校長に事故があった場合は、必要に応じて県立高校の校長に改めて確認することになると述べているところ、各中学校長が作成している本件メモの高校の数が多くても30校程度であり、再確認に要する事務も多くの労力を要しないことや、情報の性質に鑑みれば、実施機関の説明が特段不合理とまではいえない。更に推薦委員会内における共有は、推薦委員会の運営を円滑にはかるために一部の進路指導主事に対して行われたのみであり、他の委員とは、過去の各中学校の入試実績から想定される一般入試の評定基準が被推薦者の決定の判断要素として十分なこと、生徒からの推薦希望があった際に、評定基準にとらわれて生徒の側に立った個別の進路相談が困難になるおそれがあるという理由から共有していない(本件メモを共有していないにとどまらず、評定基準の情報そのものも共有していない。)。
これらのことからすると、校長が作成した本件メモは、組織としての共用文書の実質を備えた状態にあるとはいえず、作成に関与した職員個人の段階のものといえる。
(ウ) 進路指導主事が作成した本件メモについて
校長から評定基準を伝えられた9名の進路指導主事のうち、本件メモを作成した者は8名いたが、1名を除き校長と同様に平成25年度末までに個人の判断で廃棄していた。廃棄されるまで本件メモは、進路指導主事専用の進路用ロッカー、金庫、自身の机で保管されており、異動があっても本件メモを引き継ぐことは行っていない。そして、各進路指導主事は、本件メモを推薦委員会の円滑な運営、校長との事前打ち合わせ、自身が進路指導を行う際の目安、学力判定の確認のために利用していた。本件メモを作成した進路指導主事の全員が、被推薦者の最終決定は校長がするものであること、一般入試の校内基準で進路指導が可能であることを理由に、他の推薦委員会の委員と共有していなかった。
1名の進路指導主事から提出された本件メモは、当該中学校の進路指導委員会で使用する県立高校の過去の一般入試結果を記載した資料の備考欄に選抜基準ごとの評定基準を手書きで記載したものであった。この本件メモについて、当該進路指導主事は、進路指導主事のみが使用する施錠できる進路指導用ロッカーで保管し、推薦希望の生徒の状況を校長と事前に把握し、相談する段階で使用しており、他の推薦委員会の委員とは共有していないとのことだった。
また、前述のとおり進路指導主事から提出された本件メモは、推薦委員会で配付された資料の備考欄に手書きで、ごく一部の高校について評定基準を付記したものにすぎず、当該資料は進路指導主事が自身の職務の便宜のために保有しているものといえる。
以上の事実に鑑みれば、進路指導主事が作成した本件メモはいずれも、組織としての共用文書の実質を備えた状態にあるとはいえず、作成した進路指導主事個人の段階のものといえる。
(3) よって、校長及び進路指導主事が作成した本件メモは、条例第2条第2号本文の「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」には該当するものの、「実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」に該当しないから、条例第2条第2号に規定する「公文書」の要件を満たしていないと解されるため、実施機関は本件対象文書を取得又は作成していたとはいえない。 - 結論
以上により、本件対象文書については上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第6 答申に関与した委員
近藤真、高松淳也、富田隆司、尾関栄作、森幸子