春日井市情報公開・個人情報等保護審査会答申(諮問第70号)

ページID 1034093 更新日 令和6年2月27日

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春日井市情報公開・個人情報等保護審査会答申(諮問第70号)

第1 審査会の結論

 春日井市長(以下「実施機関」という。)が審査請求人に対して令和5年10月17日付けで行った5春健第1543号公文書一部開示決定(以下「本件第一決定」という。)及び公文書不開示決定(以下「本件第二決定」という。)については、妥当である。

第2 事案の概要

 本件第一決定に係る開示請求の対象文書(以下「本件第一決定対象文書」という。)は、新型コロナワクチン(●●製)ロット番号●●を接種した人数、接種後死亡した人数、接種後死亡した人すべての年齢、性別、接種日、接種回数、死亡日が記載された文書又は電磁的記録であり、本件第二決定に係る開示請求の対象文書(以下「本件第二決定対象文書」という。)は、当該ロット番号を接種後死亡した人の死因が記載された文書又は電磁的記録である。
 実施機関は、本件第一決定対象文書について、他の情報と照合することにより特定の個人を識別できることとなるため「死亡日」を不開示とし、本件第二決定対象文書については、作成及び取得しておらず保有していないため「死因」に関する文書は不存在であるとした決定を行った。
 審査請求人は、本件第一決定及び本件第二決定を不服とし、審査請求を提起した。

第3 審査請求人の主張の要旨

  1. 審査請求の趣旨
    本件第一決定に係る「死亡日」の不開示決定及び本件第二決定を取り消し、開示決定処分を求める。
  2. 審査請求の理由
    審査請求人が主張する審査請求の主たる理由は、審査請求書及び意見書の記載、口頭意見陳述の内容によると、次のとおりである。
    (1) 春日井市より、被接種者の死亡日に関し、他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができることとなるため一部開示決定、死因に関しては、作成及び取得しておらず、保有していないため不開示決定との処分を受けたが、当該情報は、春日井市情報公開条例(平成12年春日井市条例第40号。以下「条例」という。)第7条第2号イの「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」にあたると考えられる。新型コロナワクチン接種後の健康被害は甚大であり、ワクチンのリスクを考えるにあたり、接種日と死亡日の間隔から分析ができるため、死亡日は健康に関する重要な統計情報である。
    (2) 条例第3条では、実施機関に対し、条例の解釈及び運用にあたって、公文書の開示を請求する権利が十分に尊重されるとともに、個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限に配慮することを求めている。また、条例第1条では、市の行政運営の公開性と公正の確保を図り、もって市の行政活動を市民に説明する責務が全うされるようにし、市民の行政への参画の促進と開かれた市政の実現に資することを条例の目的としている。
     一方で条例第7条第2号は、個人のプライバシー等の権利利益の保護の要請を重視するあまり、市民の知る権利の要請への配慮に欠けることになる。このような点に鑑みれば、特定の個人の識別可能性が抽象的なものにとどまる限り、「特定の個人を識別できるもの」には当たらないと解するべきである。
     条例第8条第2項にいう前条第2号の情報とは、個人に関する情報であって、公開された情報と一般人が容易に入手し得る情報を組み合わせると特定の個人が識別される場合も含むが、当該個人と特別な関係がある者のみが有している情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別される場合までは含まないと解される。
    (3) 死亡日について、「条例第7条第2号 他の情報と照合することにより、特定の個人を識別できることとなるため」という理由により不開示となっているが、令和5年8月9日付け5春健第1045号で一部開示決定された「予防接種後副反応疑い報告書」において、「転帰日」として死亡日が開示されている。1人の死亡日は開示しているのに他は開示しないというのは、著しく公平性に欠ける。
    (4) 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「法律」という。)第2条第1項に「「個人情報」とは生存する個人に関する情報」とあり、この範囲を不当に生存しない個人にまで広げて情報公開を拒むことは、市民の知る権利や市民の行政への参画促進、開かれた市政を尊重する春日井市の方針に反する。
    (5) 愛知県のホームページにおいて、新型コロナウイルス感染者の死亡についての情報が掲載されているが、死亡日が記載されている。コロナによる死亡については記載するにもかかわらず、コロナワクチンで亡くなったと疑われる情報については秘匿されている。コロナによる死亡に関して情報を出すのであれば、ワクチンの危険性を考えるための資料としても、死亡日を開示してほしい。
    (6) 死因については、戸籍法(昭和22年法律第224号)に基づく死亡届(以下「死亡届」という。)に書かれているはずなので、文書不存在ということはないはずである。死亡届自体を対象公文書として請求する意図はないが、市に死因に関する文書の届出がある以上、実施機関は、ワクチン接種担当部署として積極的に調査を行い、ワクチン接種者が死亡した場合にその死因を情報として保有しておくべきである。
    (7) 新型コロナワクチンはロット番号によって被害がかなり違うことが一部の専門家により訴えられている。市や県、国が調査すべきことをしていないため、市民として開示請求等で調べざるを得ないが、その権利を阻害している。また、危険なロット番号に関して市として問題意識を持ってほしい。
    以上のことから、本件決定を取り消し、死亡日及び死因の開示を求める。
     

第4 実施機関の説明の要旨

 弁明書及び口頭での説明を総合すると、おおむね次のとおりである。

  1. 死亡日の不開示について
    (1) 当市は、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するため、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む)や、特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれのあるものについては不開示としている。
    (2) 死亡日は、本件第一決定で開示した情報と、例えば医療関係者や近親者、地域住民等で、新聞・インターネットや訃報等により、保有している又は入手可能であると通常考えられる死亡に関する他の情報と突合することで、特定の個人を識別する可能性があるため、不開示としている。
    (3) また、本件決定は、新型コロナワクチン(●●製、ロット番号●●)を接種し死亡した人すべての情報であり、副反応疑い報告や健康被害救済制度の申請の有無を問わないものであることから、審査請求人が主張する「公にすることが必要であると認められる情報」に該当するものではなく、公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあるため、不開示とするものである。
    (4) 死者の個人情報については、当市では、死者の名誉、死者の情報開示が遺族のプライバシー侵害になりうること等を考慮し、保護の対象には死者の情報も含めている。法律第2条に規定する個人情報が、生存する個人に関する情報であることをもって、死者の個人に関する情報の開示を前提とはしていないと解する。
  2. 死因の不開示について
     ワクチン接種により死亡した場合に提出される健康被害救済制度の申請においては、死因が記載された医師の診断書が添付されるため、死因を保有するが、本件第二決定対象文書については該当者が無く保有していないため、開示することができない。
     また、ワクチン接種事務の担当課である健康増進課では、当該制度以外の事務においても、本件第二決定に係る対象者の死因は保有していない。

第5 調査審議の経過

  1. 令和5年10月17日 実施機関が本件決定の通知をした日
  2. 令和5年10月30日 審査請求のあった日
  3. 令和5年11月15日 実施機関から弁明書を収受
  4. 令和5年11月20日 諮問のあった日
  5. 令和5年12月4日 審査請求人から意見書を収受
  6. 令和5年12月26日 審査請求人の口頭意見陳述、実施機関の説明、審議
  7. 令和6年1月9日 審査請求人から追加意見書を収受
  8. 令和6年1月25日 審議
  9. 令和6年2月19日 審議

第6 審査会の判断

  1. 本件第一決定について
    (1) 「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができる情報」の該当性について
     条例第7条第2号では、他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなる情報は不開示情報としている。
     この点、名古屋地方裁判所令和5年6月15日判決(TKC法律情報データベース)では、「他の情報」には、公知の情報その他一般人が通常入手し得る情報のほか、当該公開請求に係る当該公文書の性質や内容に照らし、特定の範疇に属する者が通常入手し得る情報についても照合の対象として識別可能性を判断すべき場合があると指摘した上で、個人の識別可能性が抽象的なものにとどまる限り、特定の個人を識別することができるものにはあたらない旨判示している。
     同事案においては、新型コロナワクチン接種に関する副反応疑い報告書のうち、非公開決定がなされた、患者の接種時年齢、接種日、及び、症状の発生日の開示が争点であったところ、同判決は、名古屋市在住の特定の年齢の者が、特定の年月日に、特定の種類の新型コロナワクチンの接種を受け、特定の年月日に副反応と疑われる症状を発症したという情報は、副反応と疑われる症状が稀有又は重篤な症状でない限り、特に印象に残るような情報ではないことを理由に、当該事案の個人の識別可能性が抽象的なものにとどまる旨を判示している。(なお、名古屋高等裁判所令和5年11月30日判決(公刊物未登載)も同判決を維持している。)
     これに対し、本件で対象となっている情報は、患者が死亡した事実及びその死亡日である。前記判決においては、症状の概要、症状の程度及び症状の程度のうち稀有な情報等が記載された部分が公開されないことが、識別可能性が抽象的なものにとどまる根拠として指摘されているところ、本件では、春日井市在住の特定の年齢の者が、特定の年月日に、特定の種類の新型コロナワクチンの接種を受けたという事実にとどまらず、特定の年月日に死亡したという、副反応と疑われる症状のうち、稀有かつ重篤な症状の最たる情報が対象となっているのであり、かかる情報が明らかになれば、地域住民や職場の同僚など被接種者と同じコミュニティに属する者にとって特に印象に残る情報と位置付けられ、同人らが通常入手し得る他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することは可能というべきである。
     なお、審査請求人は、愛知県のホームページにおいて、新型コロナウイルス感染者の死亡についての情報が掲載されている点との相違を指摘しているが、同県のホームページでは、遺族の同意が得られない限り、公表している情報は死亡日のみであるところ、死亡日のみでは特定の個人を識別することができる情報には該当しないのであるから、本件とは前提状況が異なるものであり、当該指摘が結論に影響を与えるものではない。
     したがって、死亡日は、他の情報と照合することにより特定の個人を識別することができる情報に該当する。
    (2) 条例第7条第2号ただし書イの該当性について
     条例第7条第2号ただし書イでは、プライバシーを中心とする個人の正当な権利利益は十分に保護されるべきであるが、公にすることにより保護される利益がそれに優越する場合に、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることがより必要であると認められる情報については、例外的に開示することを定めている。同規定は、情報開示の必要性と個人のプライバシーの保護との調整を図る趣旨の規定であることは明らかであるから、同ただし書イ所定の場合に該当するかどうかは、当該情報を不開示とすることによって保護される利益とこれを開示によって保護される利益との比較衡量によって決定すべきものとするのが相当である。
     この点、本件不開示部分を開示したことによって個人が特定されることになれば、新型コロナワクチンの接種後、いつ、どのような症状を呈し、死亡したかという病歴に相当するような個人の機微な情報が開示されることになる上、新型コロナワクチンの接種状況に関する関連書類は本件第一決定対象文書にとどまるものではないから、審査請求人が意見書にて提出した予防接種健康被害救済制度進達一覧及び予防接種後副反応疑い報告書等他の関連文書と照らし合わせることで、さらに、新型コロナワクチンの接種後の経過の詳細が特定される可能性もある。これらの情報は、個人情報の中でも特に秘匿性が要求される性質のものであるから、開示されないことの利益は極めて大きいというべきである。
     したがって、本件第一決定対象文書を公開しないことにより保護される個人の権利利益と比較し、公とすることで保護される利益が優越する理由があるとは言えず、実施機関が不開示としたことには妥当性が認められる。
    (3) 不開示情報における個人に関する情報について
     審査請求人は、法律第2条に規定する個人情報は生存する個人の情報であり、この範囲を不当に生存しない個人にまで広げて情報公開を拒んでいると主張している。
     しかし、同法第78条第1項第2号で規定される「個人に関する情報」は、「個人情報」とは異なるものであり、生存する個人に関する情報のほか、死亡した個人に関する情報も含まれると解されており(個人情報保護委員会事務局令和4年2月(令和4年10月一部改正)作成「個人情報の保護に関する法律についての事務対応ガイド(行政機関等向け)」205頁)、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条1号における「個人に関する情報」、及び、条例第7条第2号に規定する「個人に関する情報」についても、死者の名誉、死者の情報開示が遺族のプライバシーの侵害になりうることを考慮すれば、死者も含むものと解する本件第一決定は、妥当性があるといえる。
     
  2. 本件第二決定について
     審査請求人の主張によれば、戸籍事務担当部署が保有する死亡届を対象公文書として請求する意図はないため、本件第二決定対象文書はワクチン接種事務担当部署である健康増進課が保有する文書であると解されるところ、対象公文書の存否について、健康増進課は、ワクチン接種により死亡した場合に提出される健康被害救済制度の申請受付事務においては、診断書等が添付されることから、死因についての記載がある文書を保有することはあるとしている。
     しかしながら、本件第二決定対象文書の対象者は、●●という特定のロット番号の新型コロナウイルスワクチンを接種した人のうち接種後死亡した人である。
     当該対象者において、健康被害救済制度の申請がないため、本件第二決定対象文書を取得することがなく、現状においても保有していないという実施機関の説明には合理性があり、健康増進課において、当該制度以外の事務においても本件第二決定対象文書を取得することがないことについては、合理性が認められる。
     そのため、本件第二決定対象文書は、実施機関において保有しているとは認められず、保有していないことについても妥当性が認められる。
  3. その他
     その余の主張については、本件審査請求における主張の範囲を逸脱していることから、当審査会としては判断しない。
  4. 結論
     以上により、死亡日及び死因の不開示については妥当であることから、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。

第7 付言

 令和5年8月9日付け5春健第1045号で一部開示決定された「予防接種後副反応疑い報告書」において、死亡事案の「転帰日」が開示されている点について、死亡事案の転帰日を開示することは当該対象者の死亡日を開示することに等しいことから、死亡事案の「転帰日」を開示したことは、本来不開示とすべき項目を誤って開示したものであり、個人情報の漏えい事案として、実施機関において対応しているとの報告を受けている。
 個人情報の漏えいは個人の権利利益が侵害されるおそれがあり、市民の信頼も失うことにつながりかねないものである。不開示情報となる趣旨を考慮し、開示決定に係る事務手続を適切に対処するとともに、漏えい事案として適正な対応をとることが望まれる。

第8 答申に関与した委員

 尾関栄作、金井幸子、森幸子、杉山苑子、林昌宏

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