春日井市情報公開・個人情報等保護審査会答申(諮問第74号)
春日井市情報公開・個人情報等保護審査会答申(諮問第74号)
第1 審査会の結論
春日井市長(以下「実施機関」という。)が審査請求人に対して令和7年9月26日付けで行った7春総第938号公文書不開示決定(以下「本件決定」という。)については、妥当である。
第2 事案の概要
本件決定に係る開示請求の対象文書(以下「本件請求対象文書」という。)は、「朝鮮学校に関する補助金に関する文書の一切」である。
実施機関は、本件請求対象文書のうち、当該補助金の申請、交付決定及び額の確定に関する書類について、在籍する園児及び児童の氏名並びに法人及び代表者の印影を不開示とする公文書一部開示決定を行った。また、補助金申請に対する審査のための資料である学校調査票(以下「本件学校調査票」という。)について、統計を作成するために集められた調査票であり、統計法第40条の規定により公にすることができないとして本件決定を行った。
審査請求人は、本件決定を不服とし、審査請求を提起した。
第3 審査請求人の主張の要旨
- 審査請求の趣旨
本件決定の取り消しを求める。 - 審査請求の理由
審査請求人が主張する審査請求の主たる理由は、審査請求書の記載によると、次のとおりである。
(1) 春日井市長は、統計法(平成19年法律第53号)第40条第1項を根拠として本件学校調査票の開示を拒否しているが、同項は調査票情報の「利用・提供」を制限する規定ではあるものの、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)(以下「情報公開法」という。)に基づく開示請求への対応を直ちに禁止する規定ではない。
「統計関係文書の公開に関するガイドライン」(平成21年4月1日統計企画会議申合せ)(以下「ガイドライン」という。)においても、統計調査の調査票情報について「その内容が既に公にされている場合には、情報公開法第5条第6号に該当せず、開示の対象となることもあり得る」と明示されており、統計法第40条が情報公開法上の開示義務を一律に排除するものではない事を示している。
(2) 統計法第40条の「目的外利用・提供の禁止」は、調査実施機関が調査票情報を行政内部で二次利用することや第三者に積極的に提供することを禁止する規定であるが、情報公開法に基づく開示請求は、市民の知る権利の行使として法律上認められた権利であり、統計調査の「目的外利用」という概念には該当しない。
(3)学校調査票は教育行政に関する基礎的統計情報であり、その多くは既に集計結果として公表されている。個別学校の識別が困難な形での部分開示や、既に公表済みの情報との整合性を検討することなく、一律に統計法第40条を根拠として全部不開示とすることは、情報公開制度の趣旨に反する。
(4) 本件決定は、開示請求の対象となる学校調査票の内容、性質、公表状況等を個別具体的に検討することなく、統計法第40条という一般的規定のみを根拠として全部不開示としており、必要最小限度の制約という比例原則に反している。
(5)春日井市情報公開条例(平成12年条例第40号。以下「情報公開条例」という。)第1条は「市民の知る権利を尊重し」「市の行政運営の公開性の向上と公正の確保を図る」ことを目的として掲げている。教育行政の透明性確保という公益目的に資する情報について、法令解釈の誤りに基づく全部不開示は条例の趣旨に反する。
(6) 複数の審査会答申において、「ただ調査票情報というのみの事情」では法不開示情報には該当せず、個別具体的理由が必要であるとの判断が示されている。本件においても同様に、統計法第40条の存在のみでは直ちに不開示とすることはできない。
第4 実施機関の説明の要旨
弁明書及び口頭での説明を総合すると、おおむね次のとおりである。
- 本件決定は、統計法第40条第1項の趣旨を勘案し、情報公開条例第7条第1号により不開示決定を行ったものである。情報公開条例第7条第1号では、法令又は条例の規定により公にすることができない情報を不開示とする旨を規定している。
- 統計法第40条第1項では、行政機関の長、指定地方公共団体の長その他の執行機関又は指定独立行政法人等は、この法律に特別の定めがある場合を除き、その行った統計調査の目的以外の目的のために、当該統計調査に係る調査票情報を自ら利用し、又は提供してはならないと規定している。
この点において、情報公開法の開示請求権制度の適正な運用及び統計法が求める秘密の保護を確保する観点から、統計関係文書として共通するものについて、情報公開法に基づく開示請求があった場合の開示・不開示の判断はガイドラインに沿って行うとされている。
ガイドラインでは、統計調査は、被調査者と調査実施者との間における信頼関係を基盤として成立し発展してきたものであり、統計調査の過程で知り得た事項、調査の結果得られた調査票等の秘密は保護されなければならず、これは統計制度に対する基本的な要請であり、基幹統計調査においては、被調査者の秘密を保護し(統計法第3条第4項、第41条及び第43条第1項)、統計法に特別の定めがある場合を除き行われた統計調査の目的以外での調査票情報の利用を禁止すること(同法第40条第1項)により、被調査者の信頼と協力の下にありのままの報告を得て、基幹統計の真実性の確保を図るものと考えられている。
そのため、統計法の趣旨を踏まえ、当市の情報公開事務の手引「2. 春日井市情報公開条例解釈運用基準」においても、情報公開条例第7条第1号の解釈として、法令の規定により公にすることができない情報として統計法に基づく統計を作成するために集められた調査票を例示しており、本件学校調査票については、上記のとおり不開示決定を行った。 - 審査請求人は、ガイドラインを部分的に引用して、統計法第40条が情報公開法上の開示義務を一律に排除するものではないことを示していると主張するが、引用箇所の全文は、「行政機関又は地方公共団体が被調査者である基幹統計調査又は一般統計調査の調査票情報で、その内容がすでに公にされている場合には、情報公開法第5条第6号に該当せず、開示の対象となることもあり得る。」である。本件学校調査票は、学校法人が被調査者となるものであり、引用されたガイドラインの調査票情報には該当しない。
また、本件請求対象文書について、当市においてこの内容に該当する学校は1校のみであり、本件学校調査票も1校分の個票である。学校調査票の内容は、「学校基本調査結果」として愛知県において公表されているが、各学校の状況が公表されているものではなく、県内の学校全体又は学校の区分ごと(小学校や中学校等)の状況が公表されているに過ぎない。このことから、本件学校調査票の内容はすでに公にされているとは言えないものである。 - 情報公開条例第1条では、知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進について必要な事項を定めることにより、市の行政運営の公開性の向上と公正の確保を図る旨を規定している。これは、市民に分かりやすく情報公開制度の基本理念を示し、この条例に定める要件を満たした開示請求に対して開示を行う義務を負うことで、行政運営の公開性の向上を図る趣旨を定めたものである。
また、情報公開条例第7条において公文書の公開の原則がうたわれているが、それは不開示情報が記録されている場合を除くものである。当該学校調査票については、統計法第40条の規定の趣旨を踏まえ、「法令の規定により公にすることができない情報」に該当するため不開示としたものである。 - 本件決定において不開示と判断した理由はこれまでに述べたとおりであり、「ただ調査票情報というのみの事情」により不開示としたものではない。
- 実施機関は当市教育委員会から本件学校調査票の提供を受けたものであるが、これは、春日井市外国人学校運営費補助金の審査内容を精査するにあたり、申請年度の生徒数を基に補助金額が決定されることから、生徒数の正確性を確認するための資料とするためである。
第5 調査審議の経過
- 令和7年9月26日 実施機関が本件決定の通知をした日
- 令和7年9月30日 審査請求のあった日
- 令和7年10月17日 実施機関から弁明書を収受
- 令和7年10月20日 諮問のあった日
- 令和7年12月4日 実施機関の説明、審議
- 令和8年1月21日 審議
第6 審査会の判断
- 統計法における調査票情報の取扱いについて
統計法は、公的統計を行政その他の社会全体で利用される情報基盤とし、国の行政機関が行う統計調査について、同法第40条第1項において調査票情報の目的外利用の禁止、同法第41条、第57条等において守秘義務及び罰則を規定している。これらの規定は、統計調査により収集された情報が、統計作成という本来の目的に限って利用され、その秘密が保護されるとの前提の下で、統計の真実性を確保し、適正な統計調査とすることを制度的に担保する趣旨といえる。
またガイドラインでは、行政機関が保有する統計関係文書について、情報公開法に基づく開示、不開示の判断に当たっての一般的な取扱いを示している。このうち、基幹統計調査については、公的統計の根幹を成す重要性が特に高い基幹統計を作成するために実施されるものであり、被調査者の秘密を保護し(統計法第3条第4項、第41条及び第43条第1項)、統計法に特別の定めがある場合を除き行われた統計調査の目的以外での調査票情報の利用を禁止すること(同法第40条第1項)により、被調査者の信頼と協力の下にありのままの報告を得て、基幹統計の真実性の確保を図ることとしているものであるから、基幹統計調査に係る調査票情報が仮に開示されることになれば、被調査者と調査実施者との間の信頼関係が損なわれ、その後の調査への協力を得ることが困難となり、その結果、統計調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、情報公開法第5条第6号の不開示情報に該当すると解されるとされている(ガイドライン2(1)イ)。
本件学校基本調査は、統計法に基づく基幹統計調査であり、その調査票情報は、ガイドラインにおける基幹統計調査に係る調査票情報に該当する。
したがって、本件学校基本調査の調査票に記録された情報については、統計法及びガイドラインの趣旨に照らし、統計作成という限定された目的のためにのみ利用されることを前提として収集されたものであって、これを公にすることは統計調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるといえる。
このような調査票情報は、統計法の趣旨からみて公にすることが予定されていない、すなわち法律の趣旨に照らして公にすることができない情報に該当するため、情報公開制度においても不開示と扱うのが相当である。
審査請求人は、ガイドライン2(1)エを部分的に引用し、統計調査の調査票情報が開示の対象となることもあり得ると明示されていることから、統計法第40条第1項が情報公開法上の開示義務を一律に排除するものではないことを示していると主張するが、ガイドラインでは、行政機関又は地方公共団体が被調査者である基幹統計調査又は一般統計調査の調査票情報で、その内容がすでに公にされていることを前提条件としている。本件学校調査票は、学校法人が被調査者となるものであるため、当該条件には該当せず、かつ、本件学校調査票の内容に関しては、愛知県において「学校基本調査結果」として公表されているものの、県内の学校全体の調査結果の公表に留まるものであって、本件学校調査票の内容がすでに公にされているとはいえないものであるから、ガイドライン2(1)エが適示する開示対象となる情報には該当しない。 - 情報公開条例第7条第1号の該当性について
情報公開条例第7条第1号は、法律又は条例の規定により公にすることができない情報を不開示情報と規定している。本件学校調査票は、学校基本調査に係る調査票であり、学校基本調査の調査票情報については、上記1の検討結果を踏まえ、統計法の趣旨により、公にすることができない情報に当たり、情報公開条例第7条第1号に該当する。 - 全部不開示について
情報公開条例第8条第1項は、不開示情報が記載されている部分を容易に区分して除くことができる場合は、当該不開示情報を除いた部分を開示する旨を規定している。本件決定についても、学校調査票の一部を黒塗りにした上での部分開示とするべきとの見解も考えられる。しかし、統計法第40条第1項は、当該統計調査の目的に限って調査票情報を利用し、又は提供することを予定しているのであり、当該統計調査の目的以外に、調査票情報を利用し、又は提供することそのものを禁止している。
したがって、情報公開条例における開示請求に対して、学校基本調査の調査票については、一体として全部不開示と扱うほかないと考えるのが相当である。 - 結論
以上により、当該学校調査票の不開示については妥当であることから、上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
第7 付言
実施機関が当該学校調査票を保有しているのは、本件補助金の申請に対する審査のためであり、生徒数が補助金額の算定に直結することから、資料として教育委員会から提供を受けているとのことである。
このことについては、当該利用もまた調査票の目的外利用に該当する。学校調査票を始め統計法に基づく統計に関する調査票情報については、統計法の規定及び趣旨を改めて認識の上、適切に取り扱うよう申し添える。
第8 答申に関与した委員
上田敏喜、林昌宏、金井幸子、杉山苑子、鈴木里佳
